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被引用数の多い「早熟な」若手科学者が急増

キャリアの初期に被引用数が上位となる「早熟な」科学者が、ここ数年で急増している。 Credit: Getty

数十万人の科学者の論文発表記録の分析から、キャリアの早い時期に被引用数が上位となる「早熟な」科学者がここ数年で急増していることが明らかになった。この分析結果は、2024年10月15日にプレプリントサーバーbioRxivに投稿されたが、まだ査読を受けていない(J. P. A. Ioannidis Preprint at bioRxiv https://doi.org/n2cz; 2024)。

このような早熟な著者の多くは、週平均1本以上という極端なペースで論文を発表していた。さらに、こうした著者は往々にして、平均を大幅に上回る割合で自身の論文を引用していた。科学論文における自己引用率の平均は13%ほどであるのに対し、一部の著者はこの数字が25~50%に達していた。

早熟な著者の中には、疑わしい論文発表慣行が見られず、おそらく才能と多大な努力によってリストに載った人もいるだろうと、この論文の著者であるJohn Ioannidisは言う。彼はスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の医師で、研究がどのように行われているかを研究するメタ研究の専門家である。

しかし科学者らは、こうした傾向は、なぜ多くの著者が短期間でこれほど多くの被引用数を獲得するに至ったのかという疑問を呼び起こすと指摘している。

テキサスA&M大学(米国カレッジステーション)の昆虫学者Zach Adelmanは、本当に優秀な人もいるのだろうが、「5年前と比べて、急に天才が量産されるようになったとは思えません」と言う。

早期成功者

Ioannidisは、文献データベースScopusのデータを使用し、論文共著者の貢献度の差を考慮に入れた「複合引用指標」に基づいて、被引用数が上位の研究者のリストを作成した。この指標は、ある研究者について、その人の論文が獲得した総被引用数、各論文の著者リストにおけるその人の位置、h指数(被引用数と論文数に基づく研究成果の評価指標)などのデータを組み合わせたものだ。

Ioannidisは複合引用指標を用いて、被引用指数がその分野で上位2%、あるいは全分野で上位10万位に入る「被引用数上位」の科学者を特定した。彼は、最初の論文発表から8年以内に被引用数が上位になった科学者を「早熟な」科学者、5年以内に上位になった科学者を「超早熟な」科学者と定義した。一方、初めて論文を発表してから被引用数上位となるまでの平均期間は36年であった(「トップへの階段を駆け上る」参照)。

Source: Ref. 1

分析の結果、Ioannidisが完全なデータを取得できた2019~2023年に、被引用数が上位となった若手研究者が急増したことが判明した。この期間に、早熟な著者は213人から469人に、超早熟な著者は28人から59人に増加した。

さらに、超早熟な著者の31%は、その分野の著者の95%よりも頻繁に自己引用しており、自己引用を除外すると、彼らの20%が被引用数上位リストから外れることも明らかになった。2024年のデータの一部も含めると、超早熟な著者のうち17人は、少なくとも1本の論文が撤回されていることも分かった。

こうした知見に対し、善意の解釈をすることも可能だ。著者が悪意のない間違いを発見して論文を撤回することもあり得るし、非常に生産的な科学者であれば、頻繁に自己引用することもあるだろう。しかしIoannidisは、大量の撤回や高い自己引用率は、通常とは異なる論文発表行動の兆候の可能性もあると言う。

同じ指標のいくつかを使用して引用に関する不正調査をしたことがあるビゴ大学(スペイン)の統計的信号処理の専門家Domingo Docampoは、「これらの指標は信頼性が高く、研究者を評価する際に有用です」と言う。

引用の危険信号

Ioannidisは、一部の研究者が大量に自己引用を行っているだけでなく、比較的少数の論文で比較的多くの被引用数を獲得していることを発見した。この発見は、科学者らが自身のh指数を上昇させようとしていることを示唆しているとIoannidisは言う。例えば、一部の早熟な著者は、自身の論文を数十本から100本も引用した論文を発表していた。

科学者はこのような行動を取る強い動機があることが多いと、論文撤回を追跡するメディア組織「リトラクション・ウォッチ」の共同創設者であるIvan Oranskyは言う。一部の国では、大学が職員の採用や助成金交付、昇進を判断する際にh指数を考慮するためだ。

研究公正コンサルタントのElisabeth Bikは、自分や他の研究公正探偵は今回の分析を最初のスクリーニングツールとして使用できるかもしれないと言う。

ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)所属の27歳の学生で、心理学の博士号を持つMark Czeislerは、Ioannidisの超早熟リストに載っている。しかし、彼の記録にはIoannidisが不審に思うような論文発表慣行の兆候は見られず、問題視すべき点はない。Ioannidisは、Czeislerは誠実な研究者の規範であり、彼の野心的な研究は多くの注目を集めていると言う。

Czeislerらは2020年に、米国疾病管理予防センター(CDC)と協働で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック時の薬物使用とメンタルヘルスの問題に関する米国初の調査結果の一部を発表した(M. É. Czeisler et al. Morb. Mortal. Wkly Rep. 69, 1049–1057; 2020)。この論文は2000回以上引用されている。

Czeislerは、疑わしい著者らと共にリストに掲載されることへの懸念を認めつつも、懸念される論文発表パターンをスクリーニングするツールは、正しく使用されれば、科学に利益をもたらすと考えている。「先を見越した予防的対策は非常に重要です」。

Ioannidisは、このリストには「超一流の研究者も、超最悪な研究者も含まれる」と推測する。誰がどちらに入るかを解明するのは、研究公正探偵の仕事だ。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2025.250410

原文

‘Precocious’ early-career scientists with high citation counts proliferate
  • Nature (2025-01-03) | DOI: 10.1038/d41586-024-04006-9
  • Alix Soliman