Article アルツハイマー病におけるシナプス損傷 2002年8月1日 Nature Medicine 8, 8 doi: 10.1038/nn1503 アルツハイマー病の主な症状である痴呆や記憶力減退がどのように生じるのかは、研究者にもよくわからない。しかし、Nature Neuroscience誌8月号の論文では、この問題に光を投じるかもしれない分子機構が示唆されている。 “Aβ(アミロイドβペプチド)”と名づけられた異常なタンパク質断片は、アルツハイマー病の進行の中核とにらまれている。病因となる遺伝子変異はどれもこのタンパク質の蓄積を増加させるからだ。ただし、細胞内凝集物としてのこのタンパク質の蓄積は発症時期や重症度とうまく相関しないところが落とし穴である。これに代わって、Aβのシナプスへの蓄積が症状に関連する可能性が提案されている。シナプスは神経細胞どうしの接合部を指し、認知力の衰えはシナプス喪失と相関するからである。そこでPaul Greengardらは、Aβがきっかけとなって細胞のある反応機構が起動し、変異マウスの細胞表面からいわゆるNMDA受容体が取り除かれると報告している。この変異マウスはヒトのアルツハイマー病を引き起こすタンパク質を発現する。NMDA受容体は神経細胞間のシグナルの強度を調節するのに不可欠である。何かを学習するときには通常、神経細胞間の接合が増強されるが、これら受容体の量が減るとそれができない。この発見がヒトでも確認されれば、Aβ断片とアルツハイマー病の記憶力減退を関連づけられるかもしれない。 Full text PDF 目次へ戻る