Brief Communication

認識せずに選ぶ

Nature Medicine 8, 7 doi: 10.1038/nn1489

人によっては食べごろのチーズや寿司、ニガウリはごちそうだが、嫌がって顔をそむける人もいる。好き嫌いは生まれつきだったり、文化的理由により生じる。しかしNature Neuroscience誌7月号の論文によると、ある食べ物をそれと認識できなくても好きになるのは可能かもしれない。 Ralph Adolphsらは、何年も前のヘルペスウイルス感染により脳の記憶、味覚、情動に関する領域に広大な損傷を受けた1人の患者を調査した。この患者は現在、見慣れた食べ物であっても味やにおいから名前を示すことができず、食事に対する嗜好が非常に少ない。対照被験者と同様に、患者は研究者が差し出す砂糖水を毎回快く飲んだ。他の被験者が顔をしかめて断るような濃い塩水やライムジュースをすすめられても、患者はうれしそうな表情で飲み続け、おいしいとか“炭酸水のような味”がすると言明した。しかし塩水と砂糖水をひと口ずつ飲んだ後、好きなほうを飲み続けるようにいわれると、患者は即座に甘いほうを選び、塩水は最初のひと口以外、口にするのを断った。Adolphsらは、識別と嗜好に関する脳の仕組みは味を認識する仕組みに依存しないと結論づけている。

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