Article

コカイン渇望を理解する

Nature Medicine 8, 2 doi: 10.1038/nn1383

コカイン中毒から抜け出そうとする人にとって、その挑戦は嗜癖を断ち切ることだけではなく、それを続けることにもある。コカイン中毒の回復は、薬物使用を再発しやすく、それもコカイン使用中止直後よりも長い禁断期間のあとにそうなりやすいようだ。Nature Neuroscience誌2月号の論文によると、長い禁断期間後のコカイン渇望は、欲求と感情にかかわる脳の一部分において細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)というタンパク質の活性を必要とするという。
Yavin Shahamらはラットに、コカイン静脈注射のレバーを押すように訓練した。また、特異的な環境合図をコカイン注射と組み合わせ、それらの合図と薬物とのつながりを学習させた。その後、Shahamらは1か月の間、ラットにコカインもコカインと関連させた合図も与えなかった。ヒトのコカイン中毒と同様に、ラットでも、薬物使用中止1日後よりも30日後のほうが、薬物に関連した環境合図を与えた場合のコカイン渇望の度合いが高かった。 Shahamらは、コカイン渇望には、扁桃体中心核でのERKの活性化が必要であることを見いだした。ここは、欲求と感情にかかわることが知られている脳領域である。扁桃体でのERK活性化は薬物使用中止1日後よりも30日後のほうが高く、ERK活性化を阻害するとコカイン要求行動が減少した。さらに、中止1日後のERK活性化はラットのコカイン要求行動を増大させた。これらの結果は、この潜在的な渇望の背景にある扁桃体の特異的な生化学的経路を明らかにしており、薬物使用再発の機構についての理解を深めている。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度