Editorial

オフターゲット効果を正しく捉える

Nature Medicine 24, 8 doi: 10.1038/s41591-018-0150-3

CRISPR遺伝子改変技術は基礎遺伝学のみでなく、医療にも大変革をもたらした。中国では、すでに80人以上のがん患者がこの技術に基づく実験的ながん治療法を受けており、米国でも同様な方法について、臨床試験の承認が近いとされている。だが、この遺伝子編集技術では、程度の差こそあれ、意図しないDNA変化が偶発的に生じていると考える研究者は少なくない。そのオフターゲット効果は、発がん性変異などの強く懸念すべきものであることを示す研究結果も、ヒト細胞やマウスですでにいくつか得られている。しかも、こうした懸念が持たれているのはCRISPR法だけではない。事態を重視した米国NIHは、遺伝子編集技術から生じる影響の評価方法の改良を支援する新たなプログラムを始動させており、意図しないDNA二本鎖切断やゲノム再編成の検出法の開発がすでに進行中である。

しかし、CRISPRなどのオフターゲット効果についての知識が増えることは、こうした技術の臨床応用にどのような意味を持つのか、それは実に重要な問題である。科学者ならばよく知っているように、オフターゲット効果が検出されないことは、それが全く存在しないことを意味するわけではない。また、ある程度のリスクが含まれていると考えられる治療法の全てを、臨床に適さないとして排除すべきだとは必ずしも言えない。現在臨床で使用されている最も有用な医薬品の一部には変異を誘発するものがあり、例えば、化学療法薬のシスプラチンは変異原性物質であることが知られているが、一連の悪性腫瘍の治療に使用されている。他の選択肢では救命できないと考えられる場合、こうしたリスクは現に容認されているのである。

一部の研究者は、うまく設計された酵素を使用するCRISPRでの変異出現頻度は、バックグラウンドに当たる自然発生的変異の頻度より低いと考えているし、市販されている遺伝子編集システムの変異発生率は変異の自然発生頻度を大きく超えることはないと、臨床関係者が合意することもあり得る。最終的には、監督機関と世論が、個々の疾病に関して治療法のリスクと予想される有益性を比較検討することになるだろう。

CRISPRは魔法の弾丸ではなく、オフターゲット効果の存在は否定できない。しかし、これは成功の見込みがほとんどない危険な企てと断言することも、またできないのである。

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