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肝疾患:肝損傷に対する治癒応答の複数世代にわたるエピジェネティックな適応

Nature Medicine 18, 9 doi: 10.1038/nm.2893

我々は、祖先の受けた肝損傷が、肝損傷治癒にかかわる遺伝性の再プログラム化をもたらすかどうかを雄ラットで検討した。肝損傷の病歴保有は、損傷治癒にかかわる繊維形成性成分のエピジェネティックな抑制的適応が雄F1およびF2世代へ伝達されることと一致していた。このような適応の基盤となるのは、適応のないラットと比較した場合に見られる、肝臓筋繊維芽細胞の産生減少、抗繊維形成性因子であるペルオキシソーム増殖活性化受容体γ(PPAR-γ)の肝臓での発現増加、および繊維形成性因子であるトランスフォーミング増殖因子β1の発現低下であった。遺伝子発現におけるこれらの変化は、DNAメチル化とヒストンアセチル化のリモデリングによって引き起こされた。肝臓に繊維化が起こっているラットの精子では、PPAR-γクロマチン部位でヒストン変異体H2A.ZとヒストンH3のLys27でのトリメチル化が豊富に見られた。精子クロマチンに対するこのような修飾は、繊維化の生じているラットから繊維化の起こっていないラットへの血清移植によって伝達可能であり、間葉系幹細胞ではラットあるいはヒトの培養筋繊維芽細胞の条件培地に暴露することにより同様の修飾が誘導された。したがって、筋繊維芽細胞が分泌する可溶性因子が精子で遺伝性のエピジェネティックな特徴を誘導し、その結果、子孫が将来の繊維形成性肝臓侵襲に対してよりよく適応できるようになるのだろう。軽度の肝臓繊維症の患者では重症の繊維症患者と比べてPPARGプロモーターの低メチル化が見られることがわかり、今回の結果がヒトにも関連する可能性が高くなった。

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