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感染症:黄色ブドウ球菌の孔形成毒素はADAM10活性を不法使用してマウスで致死的感染を引き起こす

Nature Medicine 17, 10 doi: 10.1038/nm.2451

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)はヒト疾患の主要原因であり、アメリカ合衆国だけで年間50万件におよぶ感染、約2万人の死亡の原因となっている。この病原体は、孔形成細胞毒素であるα溶血素を分泌し、これは肺炎の病因の1つとなる。α溶血素は、in vitroでその受容体である亜鉛依存性メタロプロテアーゼADAM10への結合により上皮細胞を傷害する。今回我々は、肺上皮中のAdam10遺伝子が条件的に破壊されるマウスは、致死的肺炎に抵抗性であることを示す。毒素−受容体が機能する分子機構を調べ、α溶血素が肺胞上皮細胞でADAM10-メタロプロテアーゼ活性を上昇させ、その結果、接着結合にかかわるタンパク質であるEカドヘリンが切断されることがわかった。Eカドヘリン切断は上皮の障壁機能の崩壊と関連しており、これが致死的な急性肺傷害の病因の1つとなる。ADAM10メタロプロテアーゼ活性の阻害物質により、
α溶血素に応じて起こるEカドヘリン切断が防止される。同様に、ADAM10ノックアウトマウスでは、毒素依存性のEカドヘリンタンパク質分解と障壁崩壊が軽減する。まとめるとこれらの結果は、ADAM10がα溶血素の細胞受容体として機能することを実証している。α溶血素がその受容体のメタロプロテアーゼ活性を不法使用し得るという知見は、孔形成細胞毒素の今まで知られていなかった作用機構を明らかにしており、この機構では不可逆的な膜傷害だけが病因ではない。また今回の結果は、ADAM10阻害がα溶血素が誘導する疾患を軽減する戦略の1つとなることもを明らかにしている。

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