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うつ病:MAPキナーゼの負の調節因子は抑うつ行動を引き起こす

Nature Medicine 16, 11 doi: 10.1038/nm.2219

大うつ病性障害(MDD)は、その生涯有病率(ほぼ16%)と経済的負担(毎年1000億ドル)のために、最も広くみられ、深刻な影響を与える神経生物学的疾患の1つとなっている。現在まで、MDDの病態生理学的性質の基盤となる細胞機構や分子機構の詳細は明らかになっていない。今回我々は、死後組織の全ゲノム発現プロファイリングを行い、MDD患者の海馬下位領域ではマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)ホスファターゼ1(MKP-1、DUSP1にコードされるが、以下ではMKP-1とする)の発現が、マッチする対照に比べて著しく増加していることを明らかにした。MKP-1は、二重特異性ホスファターゼ(DUSP1)としても知られていて、スレオニン残基とチロシン残基の両方の脱リン酸化を行うタンパク質ファミリーに属しており、したがってニューロンの可塑性、機能や生存に関わる主要なシグナル伝達経路であるMAPKカスケードの重要な負の調節因子として機能している。我々は、ラットおよびマウスのうつ病モデルでMKP-1発現レベル変化が果たす役割を調べ、ストレスあるいはウイルス媒介遺伝子導入によって海馬でのMKP-1発現が増加すると、抑うつ行動が引き起こされることを見いだした。 逆に、慢性的な抗うつ剤投与はストレス誘発性のMKP-1発現や行動を正常化し、またMKP-1欠損マウスはストレスからの回復が早い。これらの死後組織の研究および前臨床研究は、MKP-1がMDDの病態生理学的性質の重要な因子であり、治療的介入の新しい標的となることを明らかにしている。

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