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脱髄性疾患:ErbB2受容体チロシンキナーゼシグナル伝達はらい菌が誘発する初期脱髄を仲介する

Nature Medicine 12, 8 doi: 10.1038/nm1433

脱髄は、ハンセン病を発症させるらい菌(Mycobacterium leprae)の感染を含む多くの神経変性疾患に一般的に認められる病理学的特徴である。ハンセン病における神経損傷の管理は、潜伏期が長く、疾患の原因が非常に複雑なことから、他の脱髄疾患と同様きわめてむずかしい。そのため、治療介入における重要な問題は、疾患進行前の初期段階に生じる分子的事象の解明である。本論文では、らい菌が誘発する脱髄は、この菌が直接ErbB2受容体型チロシンキナーゼ(RTK)に結合し、ErbB2-ErbB3のヘテロ二量体化を起こさずにシグナル伝達を活性化させた結果であることの証拠を示す。この機構は、ニューレグリン-ErbB3が介在するErbB2リン酸化をバイパスする今まで知られていなかったものである。MEK依存性Erk1およびErk2(以降Erk1/2とする)シグナル伝達は、脱髄につながる、らい菌によるErbB2活性化の下流の標的であることが突き止められた。ヒト化ErbB2特異的抗体である癌治療薬ハーセプチン(トラスツズマブ)は、ヒトの初代シュワン細胞でらい菌のErbB2およびErk1/2への結合と活性化を抑制し、in vitroおよびin vivoの実験モデルでは、低分子ErbB1-ErbB2キナーゼデュアル阻害剤PKI-166を用いたErbB2活性の阻害が、らい菌が誘発するミエリン鞘の傷害抑制に実効がある。以上の結果は、ハンセン病における神経損傷および他の脱髄をともなう神経変性疾患に対するErbB2 RTKを用いた治療設計に影響を与える可能性がある。

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