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遺伝子治療:ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)のTax遺伝子を導入したマウスにおける胸腺細胞由来の白血病・リンパ腫

Nature Medicine 12, 4 doi: 10.1038/nm1389

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)は、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)の感染により生じる一群のT細胞性悪性腫瘍である。ATLLの発症機序はいまだ解明途上にあるが、細胞の形質転換にはウイルスの調節タンパク質であるTaxが中心的な働きをしている。本論文では、Lck近位プロモーターを用いて、胸腺で分化中のT細胞のみにHTLV-Iのtax遺伝子を発現させた遺伝子導入マウスを作成したので報告する。この遺伝子導入マウスは、長期の潜伏期の後、ヒトの急性ATLLに典型的な臨床症状、病理所見、免疫学的特徴をもつ白血病およびびまん性大細胞型リンパ腫を発症した。また、これらのマウスは発症後、免疫不全に陥り、日和見感染症に罹患した。この遺伝子導入マウスのリンパ腫細胞を移植されたSCIDマウスは、短期間で劇症型白血病を発症した。フローサイトメトリーによる解析では、このリンパ腫細胞は細胞表面のCD4-およびCD8-、CD44+かつCD25+であり、細胞質内のCD3+であることがわかった。これらは胸腺由来のプレT細胞の表現型を示するものである。また白血病・リンパ腫の発症にはNF-κBの恒常的な活性化がともなっていた。今回我々が作成したATLLモデルマウスは、ヒトのATLLを忠実に再現しており、リンパ球の形質転換における分子レベルの事象の解析や新しい治療法の開発に有用となると思われる。

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