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脳卒中:脳卒中後の遅延性皮質応答におけるマトリックスメタロプロテイナーゼの役割

Nature Medicine 12, 4 doi: 10.1038/nm1387

マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は中枢神経系(CNS)の生理や病理に多元的な作用をもつ亜鉛エンドペプチダーゼである。MMPは脳卒中を悪化させることを示唆するデータが集まっている。MMPは神経血管のマトリックスを分解することにより、血液脳関門の損傷、浮腫および出血を促進する。また、細胞・マトリックス間のシグナル伝達やホメオスタシスを乱すことにより、MMPは脳細胞死を誘発する。したがって、急性脳卒中の治療目的でMMP阻害剤の開発を進める動きがある。しかし、MMPは脳卒中後の遅延相においては、また異なった役割を担っているかもしれない。MMPは脳のマトリックスを変化させるので、卒中からの回復期に有益となる可塑性とリモデリングにかかわっている可能性がある。本論文では、局所脳虚血後のラットで、MMPが遅延性皮質応答にかかわっていることを示す。MMP-9は、脳卒中後7〜14日に梗塞周囲の皮質で発現が増大しており、神経血管リモデリングのマーカーと共局在していることがわかった。脳卒中後7日目にMMP阻害剤処理をおこなうと神経血管のリモデリングが抑制され、虚血性脳傷害が増大し、卒中後14日目の機能的回復が低下する。MMPの阻害は内因性VEGFシグナルを低下させることから、体内で利用可能なVEGFのMMPによるプロセシングがこの作用にかかわっている可能性がある。一方、さらに外因性VEGFを加えると、MMP阻害剤が誘発する梗塞悪化が防止される。これらのデータは、急性脳卒中を対象とするMMP阻害剤による治療とは相容れないものの、MMPの調節が脳梗塞からの回復を促進するために必要である可能性を示している。

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