Analysis

進化:遺伝子発現のノイズの減少が選択されることにより導かれる染色体編成の進化

Nature Genetics 39, 8 doi: 10.1038/ng2071

真核生物染色体上の遺伝子分布はランダムではないが、この理由は十分に明らかにされてはいない。こうした遺伝子分布の典型的な例が、高頻度に観察される必須遺伝子の形成するクラスタである。本論文では新たな仮説を立て、そのモデルを作成し検証を試みた。必須タンパク質は、その存在量にランダムなばらつき(ノイズ)が生じると、生命体にとってきわめて有害であるという点が特殊である。そこで必須遺伝子が、持続的に開いた状態にあるクロマチンドメインに多く存在するのではないかと仮定した。このようなクロマチンドメインでは、クロマチンリモデリングにともなって起こる転写の変動を回避することによってノイズが減少できるからである。このモデルのシミュレーションを行ったところ、クラスタ形成が確かに観察され、以下を正しく予測した。すなわち、(i)必須遺伝子のクラスタはヌクレオソームが少ない領域に存在する、(ii)ノイズの影響を大きく受ける非必須遺伝子は必須遺伝子とともにクラスタを形成している、(iii)遺伝子ノックアウトによる適応度に対する効果がよく似た非必須遺伝子は物理的に連なっている、(iv)必須遺伝子を多く含むドメインの遺伝子は低ノイズである、(v)必須遺伝子はテロメア周辺領域にはほとんど存在しない、(vi)必須遺伝子クラスタは選択的に保存されるというものである。したがって、ゲノムドメインごとにノイズの特性が異なることが、遺伝子の位置がランダムではないという結果に有利に働くと結論づけられた。この知見は、遺伝子治療や遺伝子導入による表現型の理解に重要な意味をもつ。

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