複雑な系の恒常性を支配する機構は明らかにしにくいが、系の機能を破壊する変異によって解明することができる。キナーゼであるWNK4をコードする遺伝子の変異は、高血圧および高カリウム血を特徴とする症候群である偽性低アルドステロン症型(PHAII)を引き起こす。本論文では、Wnk4の野生型(TgWnk4WT)あるいはPHAII変異型(TgWnk4PHAII)のゲノム断片のトランスジェニックマウスにおいて、生理機能が逆の方向に変化することを報告する。つまり、TgWnk4PHAIIマウスは、より高い血圧、高カリウム血、高カルシウム尿および遠位尿細管(DCT)の明らかな過形成を示すが、一方TgWnk4WTマウスは、その逆の症状を示す。DCTにおけるNaCl共輸送体(NCC)の遺伝的な欠損は、TgWnk4PHAIIマウスにおいて認められる表現型を回復させる。このことはPHAII変異の効果は異常なNCC機能が原因であることを示している。これらの結果は、Wnk4が、NCCに対する影響を介してDCTの形成と機能を変化させることによって、NaClの再吸収とK+分泌間のバランスを調節する分子スイッチであることを証明するものである。
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