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野兎病の病原体である野兎病菌Francisella tularensisの全ゲノム配列

Nature Genetics 37, 2 doi: 10.1038/ng1499

野兎病菌Francisella tularensisは、最も感染性の高いヒト病原体の一つとして知られている。過去には旧ソ連およびアメリカの両国において、野兎病菌を用いた細菌兵器を開発する計画があった。本論文は、強い病原性をもつ野兎病菌分離株の全ゲノム配列(1,892,819bp)について報告する。ゲノム配列の解析から、これまでは示されていなかった、・型線毛、表面多糖、鉄獲得系をコードする遺伝子の存在が明らかになった。いくつかの病原性(毒力)関連遺伝子は病原性アイランド(pathogenicity island)とみられる領域に局在しており、この領域はゲノム内で重複していた。推定コード配列の10%以上は挿入-欠失変異あるいは置換変異をもち、そのために不活化されているように見受けられた。野兎病菌ゲノムはIS配列に富み、そのなかには原核生物には存在しないとされるIS630/Tc-1 marinerファミリーに属するトランスポゾンも含まれる。コンピュータ解析による代謝経路の予測を行ったところ、途絶された経路が予想以上に高い割合で見つかった。これは野兎病菌が示す厳しい栄養要求性を説明するものである。生合成経路の喪失は、野兎病菌がその本来の生活環において絶対宿主依存性の細菌であることを示している。我々の研究結果は、きわめて毒性の強いヒト病原菌がどのように進化するかを示唆し、これらを制圧する手段の開発を促進するであろう。

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