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ヒトの培養胚性幹細胞(ES細胞)におけるゲノム変化

Nature Genetics 37, 10 doi: 10.1038/ng1631

ヒトの培養胚性幹細胞(hESC)の細胞株は、機能解析や治療への応用のための均一かつ安定な遺伝子システムを提供するため、非常に貴重な遺伝資源である。しかし、これらの分裂している細胞にも、その他の細胞と同じく、ヌクレオチドあたり10-9の頻度で自然突然変異が起こると考えられる。それぞれの突然変異細胞は少数の子孫細胞しか生じないため、その突然変異が細胞に延命効果ないしは増殖促進をもたらさない限り、細胞培養の全体的な生物学的特性は変化を受けない。優性突然変異の遺伝子型の出現につながるクローン進化は、細胞の表現型にも影響を及ぼす可能性がある。我々は、細胞培養の過程における初期と末期のhESC継代細胞株を比較して、そのゲノムの忠実度を評価した。初期継代培養hESC細胞株に比べて、末期細胞株9種のうち8種は、ヒトの癌で共通して見られる1つまたは複数のゲノム変化を生じていた。このようなゲノム変化には、コピー数(45%)、ミトコンドリアDNA配列(22%)、遺伝子プロモータのメチル化(90%)における異常があった。ただしメチル化に関しては、調べられた14プロモータのうちの2つに基本的に限定されていた。in vitroで維持されたhESC細胞株においては、遺伝子の変化およびエピジェネティックな変化が生じるという知見は、これらの細胞株をin vivoで使用するには事前の定期的なモニタリングが必要になること、さらに、継代培養末期のhESC細胞株のいくつかは治療目的には使用できないおそれがあることを示している。

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