Nature Video活用事例

探査機の行く手は惑星プロキシマb

太陽系外惑星のプロキシマbが発見されたのは2016年。生命体の存在を期待できるハビタブル・ゾーンにあるこの天体を直接探査する「ブレークスルー・スターショット計画」。これまでの探査衛星とは何が違うのか、計画実現のためにはどのような技術が必要となるのかを探る。

太陽系外惑星探査のストーリー

太陽から4.2光年の位置という、もっとも近くに位置する恒星プロキシマ・ケンタウリに新たに惑星プロキシマbを発見したと発表されたのは2016年8月。さらにこの惑星は生命が存在できる環境とされるハビタブル・ゾーンに位置していることから、「地球外生命体」が存在するかもしれないという期待が高まり、新聞などでも取り上げられた。この惑星への直接探査が期待されているものの、これまでの天体探査の方法では数万年かかるということを以前紹介した。

しかし、ある研究グループはレーザーを使えば、私たちが生きているうちにプロキシマbを探査活動することができるという。そのための探査機は巨大な「帆」が取り付けられた小さな電子チップ。地球上に設置した数千個のレーザー発生装置から放射する強力なレーザー光を、宇宙空間に浮かぶ「帆」に当てて推進力を生み出し、探査機を光速のおよそ5分の1まで加速させる。この方法を使えば、プロキシマbまでわずか21.1年で到達する。

そのような超高速の探査機は、およそ2時間でプロキシマ・ケンタウリやプロキシマbを通り過ぎていく(この探査機は止まることができない)が、そのときに搭載されたカメラで天体を撮影し、惑星に大気があればそれを分析したデータを地球に送信する。

撮影した天体、私たちは惑星を垣間見ることができるだろう。しかし残念ながら、その信号をどうやって地球に送信するかについては、誰も考えついていない。そうした技術はまだ存在しないのだ。それでも、研究者たちは今後20年以内にそのような技術が開発されるだろうと考えている。

実現までの険しい道のり

このプロキシマbへの探査計画はSFではない。ロシアの投資家ユーリ・ミルナーが1億ドルを出資した「ブレークスルー・スターショット計画」だ。この計画の協力者には物理学者のスティーヴン・ホーキングらも名を連ねる。

プロキシマbのような遠い天体へ航行するためには、現在のロケットに使われるような化学燃料を利用することはできない。計画では、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)などによって実現された、光による推進を有力視する。光は運動量を運ぶことができ、物体を押し出すことができるのだ。プロキシマbへは太陽光の力では足りないため、100ギガワットの出力のレーザーを数分間、地球から200万キロメートルのところまで探査機の帆に向けて照射して毎秒6万キロメートルの速度まで加速するという。このレベルのレーザー出力は、現在の技術の百万倍の出力であり、この技術開発が計画を実現する一つの鍵となる。

探査機は1辺が4メートルの帆がついた、1センチメートル角の電子チップだ。チップにはセンサー、カメラ、分光計や地球に信号を送るための回路などを搭載し、重量はわずか1グラム程度。この帆に有望な素材はすでに開発されているが、研究者はさらに安価に入手できる素材を開発中だという。

4.2光年離れたプロキシマbから、どのように地球に向けてデータを送信するかは未解決の問題であることを開発者も認めている。遠く離れたところから正確に地球に向けて送信し、さらに地球でそのかすかな信号を受信することができるだろうか。探査機の加速に使用するレーザー発生装置を設置した同じ場所に大規模な受信機を設置することでデータを受信することが技術的に可能かどうかを研究中という。

まるでSFストーリーのような宇宙探査の話だが、計画どおりに進めば探査機は2060年頃にプロキシマ・ケンタウリに接近できるという。実現には相当な技術的困難も立ちはだかっていることは専門家も認めるところだが、プロキシマbがどのような天体なのか、明らかになる日がやってくるのだろうか。

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地球外生命体の探し方

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161011

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

近年、宇宙開発によって多くの人工衛星が打ち上げられ、その残骸や人工衛星から放出されたゴミが地球のすぐ外側の宇宙空間を漂う「宇宙ゴミ」の話題が取り上げられている。ブレークスルー・スターショット計画で探査機はもっと遠い空間を移動することになるが、このような異物との衝突の危険性はないのだろうか。

地球を遠く離れても、探査機の異物との衝突についてのリスクは存在する。星間空間に存在する小さな塵や水素原子などのさまざまな粒子(いわゆる星間物質)、それに宇宙空間をほぼ光速に近い速度で飛び交っている原子核の流れである宇宙線などが衝突すると、最悪の状況では破壊されてしまう。これらの星間物質が宇宙空間にどれだけ存在するのか、塵の大きさがどれほどなのかは明らかでない。この対策には探査機をもっとも強度が高い合金の一種、ベリリウム銅でコーティングすることが挙げられている。

さらに、衝突によって破壊されないまでも予定されたコースを外れてしまった場合に備えて、プルトニウム電池と基本的な人工知能を電子チップに搭載し、必要に応じて探査機の位置を修正する機能も必要になるだろうと開発者は述べている。

学生からのコメント

安藤 優希

リニアモーターカーやハイパーループ構想など長距離移動が容易になるような地球上での高速移動の発展にも期待したい。宇宙でも地球でも、技術面や安全面での問題が山積みだが、それを乗り越えた先により豊かな未来が待っていると確信している。(安藤 優希)

山田 育弥

計画内容や協力者から、この計画のスケールの大きさをうががえる。資金はこれからさらに必要になってくるだろうし、データ送信、衝突問題など様々な問題はあるが、かつて不可能であったことが現在では可能になっている技術も多くあるので、単に夢物語ではないのかもしれない。(山田 育弥)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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