Nature Video活用事例

彗星探査機フィラエ:最後の大発見

彗星の直接探査の対象として、最初に選ばれた天体はチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星だった。2014年に彗星に到達したロゼッタは、着陸機フィラエを投下した。フィラエは計画された地点に着陸できなかったものの、さまざまな観測データから奇跡的に彗星内部の構造の手掛かりを得ることができた。

欧州宇宙機関(ESA)は、人類史上初めて着陸機で探査する彗星に、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P/Churyumov–Gerasimenko)を選んだ。2004年に探査機ロゼッタを打ち上げ、2014年に目標の彗星に到達した。さらにロゼッタから着陸機フィラエを投下した(「彗星は太陽系の歴史を知っている」)。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は2つの球体が合体したような、風呂場で見かけるアヒルのおもちゃのような形が特徴的だ。およそ6.6年をかけて太陽を周回しているが、その軌道は一定でない。ロゼッタが接近したときは、太陽に最も近づく近日点がおよそ1.3au(1auは太陽と地球の距離で約1億5000万km)、太陽から最も遠ざかる遠日点がおよそ5.7auとなる楕円形の軌道を描いている。

打ち上げからおよそ10年をかけて彗星に到達したロゼッタだったが、投下された着陸機フィラエは、彗星の表面で跳ね返ってしまい、目標とした地点に着陸できずに行方不明になってしまった。当初計画されていた地点であれば、太陽光を利用して発電できるはずだったが、不幸にも太陽の影になる部分に着陸したフィラエは休眠モードに移行した。断続的にロゼッタとの通信を行うことはできたものの、フィラエは計画された観測を行うことができなかった。

フィラエを捜索するチームのリーダーが、ローレンス・オルークだ。彼らはロゼッタのミッションが終わる1カ月前、ついにフィラエを見つけ出した。ロゼッタによって撮影された、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星表面の高解像度写真を解析することで、フィラエの特徴的な脚部やパネルなどを確認することができたのだ。

さらにオルークたちは、フィラエが彗星でどのような軌跡をたどったのかを明らかにした。フィラエは投下された後、彗星上で2回バウンドし、崖の下に着陸していた。フィラエがたどった軌跡は、ある意味で奇跡に近く、巨大な岩の裂け目を通り抜けながら彗星を横切った。このとき、フィラエは彗星の表面の一部に接触しながら移動したという。

ピンチをチャンスに

フィラエを見つけることができたものの、長期間休眠状態になっていたために予定されていた彗星の探査は空振りに終わりそうだった。今回のミッションの目的の1つは、彗星内部がどのような構造になっているかを明らかにすることだった。しかし映像で紹介されていたように、最終的に着陸した地点ではドリルが地表から離れた所に位置していたために使うことができなかったのだ。

そんなとき、オルークはロゼッタから送信されてきた2枚の特徴的な写真を目にした。写真には氷を切り裂いたような4つの痕跡が写っていた。これらはフィラエがバウンドして彗星を横切っていたとき、彗星表面につけた接触痕だ。彗星表面の氷は、彗星が形成されてから長い間にわたって太陽風にさらされ、形成当時の性質をとどめていないが、内部の氷は形成時の状態を保っていると考えられる。ドリルを使うことはできなかったが、フィラエが接触したことで彗星内部の新鮮な氷を露出させることができたのだ。

それが分かると、チームはフィラエに搭載されていたさまざまな磁力計のデータを再解析した。その結果、彗星内部の物質の組成が明らかになった。彗星内部は水の氷と有機物に富む黒ずんだダストとが混じっており、それらの質量比が2.3:1であることを明らかにした。

外はカチカチ、中はフワフワ

フィラエが不時着して最終的な位置が分からなかったときでも、電池から十分な電力が供給されていた着陸直後の60時間に撮影した写真や、彗星大気の分析データなどは収集され、ロゼッタを介して地球に送信された。それらのデータから彗星表面は想定よりもかなり硬いということが分かった。

フィラエが彗星表面に残した接触痕で、彗星内部の氷の硬さを調べることができたという。接触痕がどれくらいの深さになり、その痕をつけるためにどれほどの時間がかかったのかを解析することで、彗星内部の氷は降り積もったばかりの軽い雪よりもさらに柔らかいということが明らかになった。

さらに彗星内部の空隙率(全体の体積に占める隙間の割合)が75%ほどであることも分かった。つまり、彗星内部はフワフワでスカスカ、ということだ。このような研究成果は、今後の彗星に探査機を送り込むときの着陸地点を絞り込むために重要な手掛かりとなってくる。

ロゼッタは2016年9月30日に彗星表面に衝突し、全てのミッションを終えた。その直前には彗星表面を30mの距離から撮影し、それらのデータも送信された。ミッションを終え、現在は彗星の表面にそのまま形を残しているはずだ。現在もこのミッションで得られたデータの解析が進められている。

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ニューホライズンズが見た太陽系「最遠の天体」

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190413

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

太陽系内の小天体を探査する意義はなんだろうか。

およそ46億年前、ガスや塵の高密度に集まった領域がゆっくりと回転し、その中心部に原始太陽、周辺に原始惑星が形成されて原始太陽系が出来上がったことが数値モデルなどから推測されている。しかし、原始太陽系を形成した物質を地球上に見ることはできない。なぜなら惑星の形成過程で、高温のため惑星を構成する物質が溶け、熱による変性を受けているためだ。

小惑星や彗星は質量が小さいため、惑星のように構成物質が溶けることはなく、原始太陽系の物質をそのまま保持していると考えられる。しかし、太陽系内では太陽から放出される強力な太陽風(荷電粒子や放射線)の影響を受ける。彗星や小惑星も例外ではなく、これらの天体の表面はすでに変性している。もし、表面下の「新鮮な」物質を掘り出すことができれば、原始太陽系を形成した物質の詳細を知ることができ、太陽系の起源を明らかにできると考えられている。

太陽系の外縁に位置する天体(太陽系外縁天体)を探査するために打ち上げられた探査機もある。米国NASAが打ち上げたニューホライズンズは、これまでよく分かっていなかった太陽系外縁天体の様子を観測している。

学生からのコメント

渡邉 貴徳

地球外の天体への調査は探査機はやぶさによる小惑星イトカワの調査が記憶に新しいが、彗星や外縁天体の調査についてはあまり関心を持ってこなかった。たった25㎝の傷から内部構造を推測できるとは、これまでの天文学の研究の積み重ねを感じさせる。(渡邉 貴徳)

三島 岬

彗星などの研究が太陽系の起源を知ることに結び付くことを知って興味を持った。想像もできないような大きなスケール話だったが、謎が多いからこそ、研究・調査を続けることが人々をひきつけ、多くの人が宇宙に興味を持つ理由の1つなのだと分かった。(三島 岬)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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