Nature Video活用事例

宇宙の歴史を探る

私たちの宇宙は、138億年前に誕生したと考えられている。天文学者は宇宙からどんな情報を得て、何を見ようとしているのだろうか。そして私たちは宇宙が誕生した頃の姿を見ることはできるのだろうか。宇宙から届く情報を、動画ではOHPシートを効果的に使って説明している。

遠くを見ることは、過去を見ること。光は非常に速いが、それでも毎秒30万キロメートルという有限の速さを持つため、私たちの目に届くには時間がかかる。私たちが日常的に見ているものでさえ、光はものの表面から時間をかけて私たちの目に届く。厳密な意味で「まさにこの瞬間」を見ることはできないのだ。

天体となれば、さらに時間がかかって光が届く。例えば月なら1.3秒、太陽なら8分20秒、ベテルギウスなら640年といった具合だ。遠ければ遠いほど、さらに過去を見ることになるが、高性能の望遠鏡を作れば宇宙の始まりまで見渡すことができるのだろうか。

宇宙の晴れ上がり

残念ながら、どんなに性能の良い望遠鏡を作っても、宇宙が始まってから38万年後の世界までしか観測できない。

宇宙が誕生したとき、全ては純粋なエネルギーの塊だった。宇宙が膨張して温度が下がってくると、エネルギーは素粒子に変わり、さらに素粒子が組み合わさって陽子(水素の原子核)が生じた。陽子同士が衝突して結果的にヘリウムの原子核が作り出されていった。このころには大量の陽子とヘリウムの原子核、さらに電子が宇宙に満ちていた。光子は電磁気力を伝えるという働きがあり、正の電荷を持った陽子やヘリウムの原子核と、負の電荷を持った電子の間でやり取りされるため、光子は直進できない。

宇宙誕生から38万年が経過して温度が3000℃まで下がると、それまで存在していた正の電荷を持つ物質と負の電荷を持つ物質が結び付き、電気的に中性になる。そうなると光子をやり取りする粒子がなくなるため、ようやく光子は直進できるようになった。この時代を「宇宙の晴れ上がり」と呼び、最も遠くの宇宙、つまり最も過去の宇宙を観測によって知ることができるのはここまでだ。このときの宇宙の状態を示したものが、宇宙マイクロ波背景放射だ(「宇宙初期の『地図』作成から25年」を参照)。

重要な波長21cmの信号

宇宙の観測は可視光線だけでなく、さまざまな電磁波を捉えて宇宙の姿を理解しようとしている。電磁波の波長に応じたさまざまな観測機器があり、電波の観測にはパラボラアンテナを利用する。映像で紹介された波長が21cmの電波は、天文学で重要な意味を持つ観測対象だ。

水素は宇宙で最も大量に存在する原子で、内部のエネルギー状態が変化するときに電波を放出・吸収することが知られている。観測が難しい宇宙の晴れ上がりから、暗黒時代にかけて水素から放出されたほんのかすかな信号を、現在建設中のスクエア・キロメートル・アレイ(SKA)は捉えることができると期待されている。

この信号を捉えることができれば、初期の宇宙で水素ガスがどのように分布していたのかを明らかにすることができる。宇宙の晴れ上がりからしばらくの間は、宇宙に水素原子と暗黒物質(dark matter)しか存在していなかったと考えられ、重力によって水素が集まった所に星が誕生した。SKAでの観測によって、このとき暗黒物質がどのような役割を果たしたのかを解明する手掛かりをつかむことができるかもしれない。

宇宙の謎・暗黒物質

暗黒物質は宇宙初期から存在していたと考えられているが、その正体は今でもよく分かっていない(そのためdarkの名が付いている)。暗黒物質は電磁波を放出しないが質量を持つ物質のことで、その存在が明らかになったのは銀河の回転速度に関する予測と観測結果の違いからだった。

銀河内の天体の回転速度は、それぞれの場所に働く重力(観測で求められる物質の質量による)と遠心力が釣り合っていると仮定して求めることができる。ところが、1970年代のVera Rubinによる銀河の観測結果から、実際の銀河の回転速度はこの仮定とは全く一致せず、銀河の回転速度を説明するためには、観測されている物質の10倍以上の質量が必要であることが明らかになった。この電磁波で観測できない「光を放っていないが質量を持つ物質」を暗黒物質と呼ぶようになった。この暗黒物質が宇宙のあらゆる所にあり、その重力の働きで多くの物質を引き寄せていると考えられているのだ。

暗黒物質の正体は分かっていないものの、私たちの宇宙は暗黒物質が27%を占めていて、私たちの身の回りにあるような普通の物質はわずか5%にすぎない(残りは暗黒エネルギーで、これもまだ正体が分かっていない)ことが観測事実から明らかになっている。

Nature ダイジェスト で詳しく読む!

宇宙の暗黒時代を銀河団で調べる

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200436

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

原子がエネルギーを吸収・放出するとき、特定の波長の電磁波を吸収・放出することが知られており、このときの電磁波の波長は原子ごとに固有の値をとる。例えば、ナトリウムを熱したときの光を波長ごとに分ける(分光する)と、波長589nm付近に大きな強度を持つ。これは、ナトリウム原子が発している電磁波の波長を示している。観測された電磁波を分光することで、観測対象にどんな原子種が存在するかを知ることができる。これは原子を構成する電子の位置(エネルギー準位)が変化して生じる現象である。

一方で、映像に紹介された水素からの波長21cmの電波の由来は、上記の仕組みとは違っている。水素原子は陽子1個、電子1個でできているが、量子物理学で「スピン」と呼ばれる物理量があり、陽子と電子はそれぞれ±1/2のスピンをとることができる。陽子と電子が同じスピンの状態の水素よりも、陽子と電子が異なったスピンの状態の水素の方が、わずかにエネルギーが低い。高いエネルギーから低いエネルギーに移るときは、余分なエネルギーを電磁波で放出し、その逆であればエネルギーを吸収する。水素原子はこの2つの状態間で変化するときに、波長が21cmの電波を放出・吸収する。

学生からのコメント

大竹 七千夏

普段何気なく眺めている星空も、過去の姿を見ていると考えると少し感慨深い。電磁波がただ宇宙の過去を見るだけでなく、物質や素粒子の謎にまで迫ることに驚いた。クォークなどの素粒子にヒッグス粒子が結び付いて活発に動けなくなるような様子を見てみたいと思っている。(大竹 七千夏)

内冨 椋介

最近の研究で宇宙の歴史を知ることのできる研究を進める上で、高性能の望遠鏡や人工衛星など科学技術の発展が必要不可欠であり、今後さらなる技術革新を期待するとともに、間違った方向に進まないように関心を持ち続けることが大事だと思った。(内冨 椋介)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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