Nature Video活用事例

今、注目される火星探査

今、火星が惑星科学の研究者の視線を集めている。2012年2月の火星到達に向けて3機の探査機が航行中だ。火星には近年の観測で液体の水が存在する痕跡や、大気中に有機物の存在が確認され、かつては生命体が存在した可能性が指摘されている。探査機を打ち上げた3カ国のそれぞれの状況を紹介する。

火星探査が注目されている。火星に向かって3台の探査機が飛行中で、米国は2020年7月30日に、中国は同23日、アラブ首長国連邦(UAE)は同20日にそれぞれ探査機を打ち上げた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の中、なぜ今打ち上げる必要があったのか。天文学的な理由の他にも、各国のさまざまな事情が絡んでおり、それらが動画で紹介されている。

火星は地球のすぐ外側の軌道を回る惑星で、直径はおよそ地球の半分、質量は地球の10分の1程度だ。肉眼でも赤い星として確認できるが、これまでに行われた火星探査からも地面が赤茶色であることは明らかになっている。その色の起源は酸化第二鉄、つまり鉄さびによるものだ。地形の変化にも富んでおり、標高約27キロメートルで太陽系最大の火山「オリンポス山」や、同じく太陽系最大規模の「マリネリス峡谷」などが存在する。また、火星の北極と南極には水や二酸化炭素の氷(ドライアイス)が存在し、地球からも白く見えている。この白い部分は極冠と呼ばれ、火星の季節に応じて面積が変化する。さらに、火星表面にはかつて水が流れたことを示す地形が見つかっており、生命が存在する、あるいは存在した可能性が指摘され、さまざまな研究が行われている。

火星探査の歴史

月面探査(もちろん月に探査機を打ち上げるだけでも大変だが)に比べると、火星ははるかに遠いため難易度が高い。これまでに火星を周回して、あるいは着陸して調査する探査機として打ち上げられたもののうち、およそ3分の1は失敗している。火星探査は高い技術が求められる。

初めて火星に接近して写真撮影を行ったのは1965年のマリナー4号(米国)で22枚の画像を地球に送信した。初めて火星に軟着陸した探査機はマルス3号(旧ソ連)だったが、残念ながら科学的に意味のあるデータは送信できなかった。

最近の探査機は惑星の地表に着陸し、自ら移動できる「ローバー」が盛んに開発されている。例えば、米国のキュリオシティー(Curiosity)は火星の大気に有機物が含まれていることを検出するなど、さまざまな成果を上げている。

火星探査の目的

2020年に打ち上げられた3機の探査機は、どのような目的をもっているのだろうか。

米国の探査機パーシビアランスは、今回のミッションのローバーにつけられた愛称だ。ミッションの主な目的は、火星の太古の環境を探ること、過去に生命体が存在した痕跡があるかを探ること、さらに将来的なサンプルの回収に備えて火星の岩石サンプルを収集することなどである。岩石サンプルの採取のために掘削機を備えており、保管したこれらのサンプルを将来の別のミッションで地球へ送り出す役割も想定し、設計されている。

米国のNASAはこれまでも月探査や惑星探査で実績を重ねてきたが、パーシビアランスは開発経費の節約のため、すでに成功を収めているキュリオシティーに活用された技術を積極的に採用するなど、コスト面での工夫がなされている。

中国の火星探査ミッション「天問1号」には火星を周回して観測する探査機の他、ローバーも含まれており、火星の地質構造や岩石と土壌の成分の調査、水氷の存在の有無などの調査を主な目的としている。

近年、中国は宇宙開発技術を積極的に推進しており、2019年にはロケット打ち上げ実績が米国・ロシアを抜いて1位となっている。また2019年には嫦娥(じょうが)4号が人類初となる月の裏側への着陸に成功するなどしている。

UAEの探査機はホープと名付けられ、火星の周囲を回りながら大気を調査する。この探査機は、種子島宇宙センター(鹿児島)から日本のH2Aロケットで打ち上げられた。UAEの宇宙開発の歴史は浅く、このプロジェクトに着手してからわずか6年だ。ホープは火星全体の気象パターンの観測を目的としている。火星の大気はほとんどが二酸化炭素でできており、冬にはドライアイスに変わる。また、ときには太陽光を遮るほどの巨大な嵐を発生させる他、これまでの探査で水が存在する証拠も明らかになっている。これらのことから、火星の気象は非常に複雑であり、火星全球にわたる気象変化の研究が求められているのだ。

これらの探査機が火星に到達するのは2021年の2月ごろになる予定だ。新型コロナウイルス感染症対策で各国の科学技術に回す予算が制約される中、各国の宇宙研究機関がどのような計画を推進し、どのような工夫を凝らすのか、多くの人々に注目されている。

Nature ダイジェスト で詳しく読む!

火星の石を持ち帰れ!

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170418

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

ジョバンニ・スキャパレリは19世紀後半に火星を望遠鏡で観測し、火星表面の地図を作った。このとき、火星表面の直線上の模様をcanale(「溝」の意味)と名付けた。このイタリア語が英語に翻訳されたとき、canaleがcanal(「運河」で人工的な建造物の意味合いが強い)と誤訳されてしまった。このことから「火星には運河がある」と信じた米国の天文学者パーシヴァル・ローウェルは私財を投じてまで天文台を造り、火星の観測を続けたという。

もちろん、火星に運河はなく、生命体も確認されていないが、本文で述べたとおり、水が存在する証拠が確認されている。10億年前の火星の環境は温暖であり、表面は液体の水で覆われていたと考えられているが、現在の火星は乾燥した状態である。現在までのある時期に、水や温室効果をもつ二酸化炭素が急速に失われたことを示唆するが、まだよく分かっていない。

UAEの探査機ホープは、火星大気の対流状態を観測し、宇宙空間に流出する水素や酸素の量を計測できる。それらの結果が得られれば、どのようにして火星の環境が大きく変化したのかを明らかにできる可能性がある。

学生からのコメント

生沼 竜也

宇宙と南極はどこの国にも属さないという点で類似しており、南極条約や宇宙開発についてもっと詳しく知りたいと思った。今回の記事を通して、科学による恩恵を享受している私たちは、科学技術の発展の裏にある理由などについても知っておく責任があると強く感じた。(生沼 竜也)

小澤 朋実

このコロナ危機の中での探査機打ち上げは、直接的に人命を救うことに役立つ研究ではないが、他の部門への技術の応用で恩恵をもたらすことを期待している。宇宙開発の発展には争いが伴ってきたように思われるが、火星探査が人類の平和への足掛かりにもなってほしいと思う。(小澤 朋実)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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