Nature Video活用事例

サンゴ礁の豊かな海を取り戻す

現在の地球環境の変化や人間活動がサンゴに大きなダメージを与えていることは広く知られている。このような危機的な状況からサンゴを救うためにサンゴを養殖し、サンゴの育つ豊かな海を取り戻す研究が行われている。しかし、このような活動も気温上昇を食い止められなければ、努力は実らない。

サンゴはクラゲやイソギンチャクなどと同じ刺胞動物の仲間で、地球上にはおよそ800種類ものサンゴが存在する。サンゴには石灰質の骨格をつくる種があり、これらが集まって造られたものがサンゴ礁(「サンゴ礁を取り巻く危機」参照)である。サンゴは褐虫藻と呼ばれる植物プランクトンと共生し、褐虫藻が光合成でつくり出した物質をサンゴが栄養分として利用することで、効率よく成長する。ところが、共生している褐虫藻がサンゴから出て行ったり、死んでしまったりすると、じきにサンゴも死滅する。そうなると石灰質の骨格だけが残り、サンゴ礁が白くなる。

映像は海の環境資源の研究者が水中を探索している様子だ。サンゴが産卵するところにやってきて、サンゴの配偶子(卵と精子)を採集している。これは、世界中のサンゴを育て、再生する活動の一部である。

気候変動や環境汚染、その他の要因によって地球規模でサンゴ礁が減少する中で、この取り組みは「一時しのぎ」の活動ではある。しかし、二酸化炭素の放出が増え、地球の気温が上昇するなかで、ダメージを受けたサンゴ礁を支えてきた。

彼らは消滅してしまったサンゴ礁を復元するために活動している。この取り組みでは、かつてそこで生きていたサンゴをただ復元するのではなく、工夫を加えてサンゴの育つ海を取り戻そうとしている。

サンゴの受精と成長

この活動に携わる研究者たちは、できるだけ多くの卵を採集するために、サンゴ礁に特殊なネットを掛ける。そのあとは、卵や精子が生きている間に、研究室に持ち帰って受精させるため、時間との闘いになる。できる限り多様で強い子孫をつくり出すために、研究者たちは卵と精子を注意深く受精させる。

映像では、顕微鏡でなければ見えないほどの、小さなサンゴの幼生を確認できる。この段階のサンゴは「プラヌラ」と呼ばれる。やがて、プラヌラは成長するための適した場所にたどり着ければ、そこに定着して「ポリプ」と呼ばれる段階になる。映像に収録されたプラヌラ幼生は、幸運にも近くに適切な場所を見つけたようだ。実は、この場所は3Dプリンターで作られた星型のプレートなのだ。

そこに定着したのち、初期のサンゴはいわば「育児室」へと運ばれる。海の中に浮かぶ囲いの内側で、ヒトデなどの捕食者から守られて安全に成長することができる。サンゴが爪ほどの大きさになったころ、サンゴがほとんどないような場所へと移される。海底の割れ目にサンゴが定着したプレートをくさびで止めていく。

地球環境を守っていくための方策

研究者たちは、これまでの取り組みをメキシコやカリブ海のサンゴ礁で検証してきた。2012年にカリブ海のキュラソー島付近に植えられたミドリイシ(サンゴの種類名)は、4年後に産卵している様子が確認された。

サンゴ礁はいまだに気候変動による脅威にさらされたままで、地球上のサンゴの半分はすでに消滅してしまった。今回紹介したようなプロジェクトは、地球規模での気温の上昇を止めることができてこそ、これらの活力ある生態系を維持し、再生できる可能性があることを示している。

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サンゴの共生には3種の生物が関与

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190727

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

サンゴ礁は海の中でどのような役割を果たしているのだろうか。以前の記事でも紹介したとおり、「海の熱帯林」とも呼ばれるサンゴ礁は魚類や貝類、ナマコなど多様な生物種の生息場所となっているほか、気体として存在している二酸化炭素を固体の炭素化合物(サンゴ礁では石灰質の成分である炭酸カルシウム)に変え、大気中の二酸化炭素を吸収するというはたらきもある。

地球が惑星として誕生したころ、大気中の二酸化炭素が占める比率はおよそ96%と考えられており、現在の金星の二酸化炭素濃度とほぼ変わらない。現在の地球の二酸化炭素濃度はわずか0.04%であるが、当初の二酸化炭素は植物による光合成に使われたほか、サンゴなどの石灰質の殻をつくる動物によって使われた結果、大気の二酸化炭素が減少していったと考えられる。石灰岩として工業的に利用される岩石は、これらの動物によってつくられた炭酸カルシウムが堆積した結果で、地球上の石灰岩の炭素がすべて二酸化炭素に戻ってしまったとすれば、その温室効果によって地球温度は300℃も上昇してしまうという。

学生からのコメント

高橋 優太

3Dプリンターの使い道として生物の成長を促す目的に利用する発想が自分にはなかった。このような研究者の努力をもってしても、環境汚染や温暖化の問題が解決されない限り一時しのぎの活動になってしまう点から、いかに環境問題が深刻な問題であるか改めて感じ取ることができた。(高橋 優太)

小澤 理佳

「新型コロナウイルスとの共生」が言われている。今だからこそ広い意味で「共生」に対する考え方を見直すことは悪くはないだろう。地球上のすべての生物が共生関係にあるという視点をもてば、人種の違いや考え方の違いによる人間同士の衝突の解決にも繋がるのではないかと考える。(小澤 理佳)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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