Nature Video活用事例

航空写真から明らかになる氷河の変遷

世界最大の島であるグリーンランドは、その80パーセント以上が氷で覆われている。地球温暖化によってグリーンランドの氷河は融け続けているといわれるが、気温上昇と氷河の変化は詳細に調べられてはいなかった。過去に撮影された航空写真を利用した氷河の変遷に関する研究を紹介しよう。

1930年代のはじめ、デンマークとノルウェーの間には東グリーンランドに関しての領土問題があった。そのこともあり、デンマークもノルウェーもグリーンランドを上空から写真撮影していた。写真は飛行機によって撮影され、氷河も撮影されていた。それらは私たちにとっては宝物だ。なぜなら、それらは衛星写真の時代よりも前の、氷河の状況を示しているものなのだから。

現在、私たちは地球温暖化に直面し、地球の平均気温が年々上昇し、極端な気象現象(局地的な豪雨や干ばつなど)が発生していることも事実だ。温暖化の結果、氷河が急速に後退し、全球的な海面上昇が発生するとの予測もある。

研究者たちは、氷床(地表を覆う大規模な氷の塊)が気温変化にどの程度影響を受けるのかを理解することに関心がある。過去の気温変化が氷河にどのように影響したかを知ることは、その手がかりになる。そこで、研究者は飛行機とカメラマンを雇い入れた。1930年代初期に撮影したところと厳密に同じ場所から写真を撮影し、当時と現在の写真を見比べるのだ。

氷河の後退と地表面の低下

古い画像を見れば、氷河が非常に汚れていることがわかる。これは氷河の移動によって、山から削り取られた大量の岩屑(デブリ)である。80年前と2013年を比較すると、氷河が大きく後退していることもわかる。映像では大きく後退した氷河を確認でき、地表面が低下している。

現代の写真で山を見ると、多くの水平の線が見られる。これらはかつて氷河が存在していたところだ。写真によると、その低下は400メートル以上にもなる。島から大量の氷河と岩屑(デブリ)が失われ、海に流れることで、全球的な海面上昇につながっている。

当時の撮影では、飛行機に窓はなく、酸素ボンベなどもなかった。飛行機が高度5,000メートルほどに到達したら、そこは気温マイナス30度の世界だ。1933年8月のミッドガード氷河の写真を見てみよう。飛行機の尾翼も見えるはずだ。

2013年の同じ場所の写真では、まだ多くの氷が水に浮いているが、氷河フロントを見つけることはできない。この氷河は、80年の間に30キロメートル以上後退したため、氷河フロントは画面の奥の方でなければ確認できない。この氷河の後退は、グリーンランドでもっとも大きなものだ。

歴史的資料を科学に活用する

気温の上昇と氷河の後退・質量損失との関係は、現時点で明らかになっているわけではない。これらの関係を予測することは非常に難しく、氷河が急速に質量を失うような時期が存在したかどうかを見つけることが、時間をさかのぼって調査を行う研究の動機の一部である。

勇敢な飛行士たちが1930年代のグリーンランド上空を飛行したとき、誰が将来このようなことになると予測しただろうか。彼らは、地球温暖化や海面上昇など気にとめることなどなかった。しかし、彼らが記録したデータは、氷河の歴史をまとめる上で、そして将来起こりうることをより理解するための知識を私たちにもたらす上で、非常に重要な資料になっている。

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グリーンランドの氷河下からメタンが放出されている

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190433

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

氷河が融けると、どれくらい海面上昇に影響を及ぼすのだろうか。本文で紹介したグリーンランドの氷河は、2012年の北極地域の異常な高温によって、氷床のほぼ全面が融けだしたという。この年にグリーンランドから流れ出した水により、地球の海面は1ミリメートル以上上昇したと考えられている。グリーンランドの氷床の厚さは約1.6キロメートルであり、膨大な量の氷が存在している。もし、これらの氷がすべて融けてしまったとすれば、海面は7メートル上昇するという計算がある。

氷河はグリーンランドや南極などの極域のみでなく、アルプスやヒマラヤなど高山にある山岳氷河も存在する。これらの氷河も年々縮小していることが確認されている。NASAの観測によれば、1993年から海面は毎年3ミリメートルずつ上昇しており、その約1/3は山岳氷河が融け出したことが原因であるという。

オセアニアの島国ツバルは海抜が低く、海面上昇による影響が懸念されている。日本であっても、海面が1メートル上昇すると東京など都市部も水没する、との環境省の報告もある。まさに温暖化対策は誰もが考え、行動しなければならない問題なのだ。

学生からのコメント

大竹 七千夏

1930年代と現在の写真で氷河の変化を見比べることは、アナログで時代遅れにように感じた。しかし、そこから得られる情報は、海面上昇など写真には写らないところでの問題に関連性がある。私たちが日常的に気をつけなければならないことは何か、真剣に考えたい。(大竹 七千夏)

石井 友哉

かつて領土問題で撮影された空中写真が、現代の環境問題の研究に利用されていることが興味深かった。実験や理論での過去の予測は可能かもしれないが、実際に記録されたものがあればより信頼性が高まる。記録されたデータの貴重性を認識できる話題だった。(石井 友哉)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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