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Nature Video活用事例

ミツバチの蜂球を支える知性

Shake those bees back and forth: Smart swarm intelligence

What happens when you shake a swarm? This bundle of buzzing bees changes shape to form a more stable structure. This clever response is the result of individual bees following simple rules - a kind of emergent intelligence.

To find out how ants use similar simple rules to create complex structures, watch this film:
https://www.youtube.com/watch?v=wdsHe...

To read the original research paper in Nature Physics click here:
https://www.nature.com/articles/s4156...

その他の Nature Video

ミツバチはミツバチ科ミツバチ属に分類され、現在9種類存在するハチの一群である。人類はおよそ5,000年も前から養蜂が行われていたことがわかっており、蜂蜜や蜜蝋などを利用してきた。また、蜜源の場所と方向をダンスによって仲間に伝えるコミュニケーション手法をもっていることや、建設資材や航空機材料にも応用されているハチの巣の形状(ハニカム構造)など、さまざまな研究の対象となっている。

1個のミツバチの巣には1匹の女王バチがおり、毎日1,000個ほど産卵するという。これらの受精卵のほとんどは働きバチとなるが、栄養価が高く、特別なタンパク質を含んだ「ローヤルゼリー」で育てられたメスが次の世代の女王バチとなる。初夏になり、次世代の女王バチが羽化すると、もとの女王バチは半数の働きバチをともなって、新しい巣を作るために旅立つ。

ミツバチの集合体「分封蜂球」

映像で紹介されている、このぶら下がった物体は、すべてミツバチでできており、風が吹いて揺れても、ミツバチはこの塊を保持することができる。1年に一度、ミツバチの群れは、新しい場所を求めてそれまでの巣を旅立つ。ミツバチが新しい巣となる場所を見つけるまでの間、映像に見られるような塊(分封蜂球)となる。この分封蜂球は、通常樹木に見られることがあるが、映像はハーバード大学(米国マサチューセッツ州)の研究室にできたものだ。

研究者は、ミツバチの分封蜂球が運動に対してどのように反応するかを調査するために、この振動する装置を作った。蜂球が左右に動かされると、水平方向にずれるような力がかかるため、ミツバチは蜂球を支えようとする。このずれを生じる力は、蜂球を不安定にする恐れがある。やがてミツバチは、全体的に高さを低くし横に広がった形へと変化する。より平らな形は蜂球の重心を変え、ぐらつかなくなる。

このことは、立っているあなたが地震を感じたとき、本能的に身をかがめるのと同じ原理だと考えることができる。ここでとくに興味深いことは、力が蜂球の全体にはたらいているが、それぞれのミツバチがどうやってどこに移動すべきか、あるいはすべき行動をどのように知るのか、ということである。

社会的に生きるミツバチ

この答えを見つけるため、研究者は蜂球の外側のミツバチを追跡した。蜂球が振動すると、ミツバチはずれの力がもっとも大きいところに移動した。すべてのミツバチが「もっともずれの力が大きくかかるところに移動する」というルールに従うと、蜂球は平らになり、蜂球は安定化し、それぞれのミツバチにかかる力は減少することを、研究者はモデル化した。巣にとって安定を求めるために、それぞれのミツバチはもっとも力のかかるところへと自らの身を置くことになる。

このような利他的行動は、ハチやアリなどのような社会的な昆虫を除いて、自然界ではあまり一般的でない。それぞれのミツバチはなにが起こっているかを知らないにも関わらず、もっとも力が大きくはたらくところへ移動することで蜂球は全体としてうまく機能する。こうして、ミツバチの集団は形態学的に安定に維持されていくのだ。

自らの集団を存続させるように行動をとるミツバチだが、現在、養蜂業で働きバチが突然、巣からいなくなってしまうという「蜂群崩壊症候群」(別名ミツバチいないいない病)が問題になっている。この原因には、農薬の成分として広く使用されているネオニコチノイド類が影響しているのではないかということが長く議論されており、ミツバチの脳神経機能を損なうだけでなく、栄養状態を低下させたり、免疫機能を低下させたりすることも指摘されている。

学生との議論

Credit: Lisa-Blue/E+/Getty

現在、欧州などでネオニコチノイド類の使用が規制されているが、ハチに影響を及ぼす農薬はネオニコチノイド類のみでないことが最近の研究から示唆された。その農薬は、ネオニコチノイド類の後継品として開発されたスルホキシイミン類である。ハナバチに対するスルホキシイミン類の影響を研究した報告によると、スルホキシイミン類はハチの生殖能力を低下させ、場合によっては女王バチが誕生しないこともあったという。そうなるとハナバチの生息数は減少し、生態系に大きな影響を及ぼす。

人間は、ミツバチが集めた植物の花粉からつくられる蜂蜜を食料として利用している。しかし、ミツバチの集める花粉もまた、自然環境の中では、ほかの昆虫によって花粉を媒介された結果である。このような関係性はハチ類と花粉の関係に限ったことではなく、自然環境は多くの生物によって成り立っており、その中の関係性が損なわれると、その修復には極めて長い年月がかかるか、ときには永久に損なわれてしまう。環境へのリスクを慎重に検討し、自然と共存して開発を進めていくことは、人間の食料調達にも大きく関係しているのだ。

学生からのコメント

ハチやアリなどの小さな昆虫がさまざまな外敵に打ち勝つための、生物の群れに特有な行動が、どのような方法であってもそれぞれが理にかなっていることを知った。ほかの群れをつくる生物にも、私がまだ知らない、いろいろな面白い習性があるのだろう。(小澤 理佳)

分封蜂球なる恐ろしい姿で移動するミツバチ。しかし、この動画と解説記事を知ってから分封蜂球を見れば、「へぇ、これが分封蜂球か」と余裕をもって見られる気がする。「知らない」がために恐怖心を感じることが多いが、「知る」ことで適切に判断できるようになると考えた。(納富 廉)

Nature ダイジェスト で詳しく読む

浸透性農薬の根深い問題
  • Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181231

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Nature ダイジェストISSN 2424-0702 (online) ISSN 2189-7778 (print)