Nature Video活用事例

バーチャル・タイムマシンで過去のヴェネチアを再現する

現代の科学技術は、ヴェネチアに残されている過去の膨大な記録から、当時の都市の様子や社会的な状況をもバーチャルで再現することに成功した。現代の私たちは科学技術によって過去を再現したり、また古代建造物を非破壊的に調査したりすることを可能にした。

眠る資料よ、目を覚ませ!

イタリアの古都ヴェネチアのある修道院に、この街の1,000年以上の歴史が眠っている。書棚に保管されている地図や原稿、単行本、ヴェネチアの官僚政治の歴史を記録している文書は、積み上げると80キロメートル以上の高さにもなるという。この膨大なコレクションのほとんどは、近代史の研究者には決して読まれることはなかった。

新しいプロジェクトは、この巨大なアーカイブの秘密を明らかにし、それらに記述されているヴェネチアをデジタルで再現しようとしている。ヴェネチア・タイムマシン・プロジェクトは、ヴェネチア公文書館(State Archives of Venice)に保存されている大量のデータを、研究者が入手しやすいようにすることを目的としている。

そのために、さまざまな技術が駆使されているのだ。たとえば文字情報を検索し、相互に参照できるよう、文書類のすべてのページがスキャンされ、デジタル化される必要がある。また、一般的な文字認識ソフトウェアは、記録文書に書かれた多種多様な手書き文字をうまく認識できない。そこで、単語を認識し、それぞれの文書間で単語を一致させるために人工知能(AI)の機械学習が用いられている。

データから再現されるヴェネチア

人名をさまざまな記録の間で相互に参照することにより、研究者はヴェネチアの街で、誰がどんな役割を担っていたのか、という社会的ネットワークを再現することが可能となる。また、地図に含まれたデータは、ヴェネチアの建築物がつくられたり、ときには壊されたりした年代を把握することに役立つ。

地図の情報は、現代の写真と歴史的な彩色を相互に参照させることができる。また、店舗や企業について示されたありふれた文書と画像を結びつけることは、歴史研究者が都市の歴史のあらゆる場面の詳細を再現できることを意味する。

このバーチャルなタイムマシンは、現代の歴史研究者を超え、すべての人々に、かつてのヴェネチアへの探訪を可能にし、貿易と金融から公衆衛生や病気の蔓延まで、ありとあらゆるもののデータセットを提供できるようになった。ヴェネチア・タイムマシン・プロジェクトのために開発された技術は、ほかの古いアーカイブに対しても適用することができ、過去の街の詳細を再現し、過去への扉を開くものだ。

ピラミッド内部を科学で明かす

科学の力で過去の状況を探ろうとする試みは、このシリーズで紹介してきたように、古代人類の遺跡、はるか昔の地球環境などいろいろなものがある。最近、ピラミッドの内部を宇宙からやってくる物質を使って解明しようとする研究が行われた。

この研究は、貴重な歴史遺産であるエジプトのクフ王のピラミッドの内部を、宇宙線に含まれている素粒子である、ミューオンを使って非破壊的に調査するというものだ。ミューオンは毎分1cm2あたりにおよそ1個が宇宙から降り注ぎ、とても物質を通り抜けやすいのだが、物質の密度や構造そのものによってその度合いが変わる。ピラミッド内部でどれだけミューオンが透過したかを計測すれば、内部の構造を推測できるわけだ。X線が皮膚や筋肉を透過しやすく、骨を透過しにくいことを利用した医療用レントゲン写真と同じ原理である。

この研究で、ピラミッド内部の大回廊の上に、旅客機程度の巨大な空間が存在することを明らかにした。最新の科学技術が、古代建造物の謎を解き明かしたり、過去の状況を復元したりすることに積極的に活用されているのだ。

Nature ダイジェスト で詳しく読む!

ピラミッドの巨大新空間を科学的に発見

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180320

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

宇宙空間には地球から遠く離れた銀河や銀河系内の星々を起源とした、高エネルギーで飛んでいる小さな粒子が存在しており、これが宇宙線である。その実体は90%が水素の原子核(つまり陽子)、9%がヘリウムの原子核、1%が素粒子や重い原子核であり、これらが地球大気に突入する前の宇宙線を一次宇宙線と呼ぶ。

地球大気に一次宇宙線が到達すると、大気中の窒素や酸素の原子核と核反応を起こし、電子やガンマ線、ニュートリノやミューオンが生じ、これらを二次宇宙線と呼ぶ。ほとんどの電子やガンマ線は大気中で吸収されてしまうため、地表にはニュートリノやミューオンのみが到達する。

ミューオンは素粒子の一種であり、X線よりも物体を通り抜ける性質が強い。この性質を利用し、ピラミッド内部に設置した専用の「写真乾板」に記録されたミューオンの軌跡を解析することで、ピラミッドの構造を明らかにしたものだ。この技術は福島第一原子力発電所2号機・5号機の原子炉内部の状況を把握し、2号機の炉心溶解の状況を明らかにした技術でもある。

学生からのコメント

中村 優輝

膨大な過去の資料を、人工知能で文字認識を行うという科学技術の活用方法に感心した。かつて大規模な自然災害によって、残念ながら消滅してしまった街がいくつも存在するが、このような街を同じような方法で再現し、防災研究に役立てられるのではないだろうか。(中村 優輝)

武本 陸

過去のヴェネチアを再現する試みは、なんらかの災害に巻き込まれた都市の再現などにも活用できそうに感じた。さらに、膨大な歴史資料が残されている日本の江戸時代の街並みを再現し、エンターテイメントに活用すれば、歴史に関心をもつ人々がもっと増えるように感じた。(武本 陸)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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