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ホーキング博士の偉大な足跡

イギリスの物理学者スティーブン・ホーキング博士は、難病と向き合いながらも常に宇宙物理学の最先端で研究を行い、広く市民に向けて科学を発信し続けていた。2018年3月の訃報は日本のニュースでも大きく取り上げられた。ホーキング博士が残したものを振り返る。

スティーブン・ホーキング(1942年〜2018年)は、この時代でもっとも影響力のあった科学者の1人だった。ブラックホールから『ザ・シンプソンズ』(アメリカのテレビアニメ番組)、科学やポップカルチャーへのホーキングの影響は計り知れない。この動画では、ホーキングの経歴を形作った3点の著作を振り返ろう。

その1 “The singularities of gravitational collapse and cosmology”

この論文は1970年に発表されたものだ。物理学者にとって、ブラックホールが存在するのかどうか、つまり密度が無限大となる特異点が存在するのか、について一般相対性理論に述べられていることを理解することがまだ難しかったときの話である。ホーキングとほかの研究者は、少なくとも抽象的な数学の方程式で、特異点が形成されるはずであることをすでに明らかにしていた。

ホーキングの博士論文で、彼は時間が始まったとき、宇宙自身がどのようにして特異点から生じたのかということについて研究していた。著名な物理学者ロジャー・ペンローズとともに研究したこの論文で、一般相対性理論は現実の世界であっても、特異点の存在を実際に予想することが明らかにされた。

その2 “Black hole explosions?”

時間が経つにつれて、スティーブン・ホーキングの名はブラックホールと切り離すことができない存在になっていった。この論文は、実際にクエスチョンマークをつけた『ブラックホールは蒸発するか?』というタイトルで発表された。この論文におけるホーキングの考え方には、人々の注目を引くポイントがあった。

多くの物理学者がホーキングのもっとも重要な遺産であると考える、ホーキング放射として知られている内容が、この論文で述べられている。ホーキングは、一見したところ相容れない2つの理論を融合させようとしていた。その一つは宇宙というもっとも大きなスケールを記述する一般相対性理論であり、もう一つはもっとも小さいスケールを記述する量子理論である。ホーキングは、これらの両方の理論を信じるとするなら、ブラックホールの事象の地平線からは放射が起こっているはずだということに気がついた。このことを「ホーキング放射」という。「黒い」とはすべての電磁波を吸収した結果であるため、ブラックホールが電磁波を放射するということになると「黒く」はならない。彼は、ブラックホールが実際は黒くないことを示したのだ。

その3 “A brief history of time”

これは学術論文でなく、ホーキングを優れた科学者からもっとも有名な科学者へと知らしめた、人気の一般向けの科学書籍(邦訳『ホーキング、宇宙を語る』)だ。この出版は、科学コミュニケーターとして、あるいは市民と科学者との間で科学文化を担う役割としての新しい舞台をホーキングに与えた。それ以来、世界中の人々が、彼の話、彼の知性と粘り強さに魅了された。

多くの人々は、特徴的な合成音声、テレビ番組への出演、あるいはAI(人工知能)から地球外生命体まで議論のある話題に関する幅広い論客として、スティーブン・ホーキングを知っている。しかし、彼は大衆文化の象徴としての姿の背後に、科学者としての信念をもっていた。ホーキングはかつて、「『ザ・シンプソンズ』に出演したようなことではなく、ブラックホールと宇宙の起源についての私の研究を思い出して欲しいものです」と語っていたのだった。

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ホーキング博士の新論文に割れる物理学界

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160414

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

本文に述べられている「特異点」。「なにか特別な場所」ということなのだろう、とは予想がつくだろうが、一体どう特別なのだろうか。

ビッグバン宇宙論では、宇宙は大昔のある時点から始まり、その後膨張し続けているとされる。時間を遡れば、宇宙の大きさはどんどん小さくなるが、密度はどうなるだろう。密度は質量を体積で割ることで決められる。

10kgの質量で10m3の体積をもつ物体と、同じ質量で1m3の体積の物体とでは、後者の方が密度は大きくなる。では、体積を0.1m3、0.01m3とどんどん小さくしていったら、どういう数字になるだろう? 体積を小さくしていくと、密度はどんどん大きくなり、無限に大きい値(無限大[∞])に近づいていく。体積が0になってしまえば、密度は無限大になる。このように、あるところの物理量が0になったり無限大になったりする状況(物理量が発散する、ともいう)を「特異点」という。

アインシュタインの一般相対論の考え方の中で、ブラックホールの内部や宇宙のはじまりでは数学的に必ず特異点が存在することを、「その1」で紹介した論文が明らかにした。

学生からのコメント

納富 廉

科学者である彼は、自身の研究こそが世の中に、また人の心に残ることを願った。知識は間違いなく財産である。しかし専門知識は一般の人々をなかなか受け入れてくれない。そのため、世の中の興味を惹きつけた彼の科学書は偉大であり、すぐに読むべきものだと確信した。(納富 廉)

鵜澤 駿

卒業研究でSFの研究に取り組んでいるが、ブラックホールとタイムマシンは深いつながりがあるらしい。そのようなストーリーにはsingularityという語がよく出てくるが、ホーキング博士の著作物からもSF作品の知見になる情報を見つけられるのではないかと感じた。(鵜澤 駿)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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