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暗黒物質のフィラメントを検出

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120903

原文:Nature (2012-07-04) | doi: 10.1038/nature.2012.10951 | Dark matter’s tendrils revealed

Zeeya Merali

暗黒物質のフィラメントが直接検出され、超銀河団に暗黒物質が存在することが確かめられた。

銀河団エイベル222とエイベル223は暗黒物質のフィラメントでつながっている。

Jörg Dietrich, University of Michigan/University Observatory Munich

目に見える星と銀河の分布は、「宇宙のクモの巣」と呼ばれる網目構造を作っていることがわかっている。宇宙論の標準的モデルによると、この宇宙のクモの巣は、宇宙の物質のほぼ80%を占める暗黒物質(ダークマター)の網目状の分布に導かれてできたとみられている。では、暗黒物質の分布はどのように生じたのか。ビッグバン後まもなく、ほかよりもわずかに密度の高い領域が暗黒物質を引き込んだ。暗黒物質は凝集し、やがて平たいホットケーキ状につぶれた。このホットケーキが交差するところに暗黒物質の長いひも、すなわちフィラメントができ、フィラメントが交差する所に銀河団が発生したと考えられている。

このほど、ルートヴィッヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン付属天文台(ドイツ)のJörg Dietrichらの研究チームにより、重力レンズ効果から、2つの銀河団をつなぐ細い橋の存在が確かめられた。つまり、暗黒物質フィラメントが初めて直接検出されたのだ。

暗黒物質の存在は通常、その背後にある遠い銀河からやって来る光が、暗黒物質の強い重力によって曲げられる現象をもとに推定されている。地球上の望遠鏡で観測すると、この重力レンズ効果のために銀河の見かけの形は歪む。しかし、フィラメントに含まれる暗黒物質の質量は小さいため、フィラメントによる重力レンズ効果を観測することは難しい。

そこでDietrichらは、エイベル222とエイベル223という銀河団を結んでいる、特に巨大なフィラメントを調べることにした。このフィラメントの長さは18メガパーセクにもなる。「幸運にも、この暗黒物質でできた橋はその質量の大半が地球からの視線方向にあるため、重力レンズ効果が強くなります」とDietrichは説明する。研究チームは、フィラメントの背景にある4万個以上の銀河の像の歪みを調べ、フィラメント内の質量は、太陽質量の6.5×1013倍から9.8×1013倍の間だとはじき出した1

暗黒物質の正体の手がかりにも

さらに、X線観測衛星「XMM-Newton」 で、このフィラメント中のプラズマが出すX線を調べたところ、高温のガスでできている質量はフィラメントの9%以下にすぎないと見積もられた2。また、コンピューターシミュレーションにより、目に見える星と銀河は、フィラメントの質量の約10%であることもわかった。「したがって、フィラメントの大部分は暗黒物質に違いないのです」とDietrichは話す。

マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)のMark Bautzは、「目に見える物質が暗黒物質が敷いた経路をどのように広がっていったのかはまだ正確にわかっていません」と指摘する。「エイベル222とエイベル223をつなぐフィラメントから、暗黒物質と目に見える物質の両方の分布をとらえることができました。現在我々は、両者がフィラメントに沿ってどのようにつながり、進化したのかを解明しようとしています。これは本当にわくわくすることです」。2014年打ち上げ予定の日本のX線天文衛星「ASTRO-H」は、フィラメントのプラズマの電離状態と温度を調べることができる。その観測結果は、数多くあるフィラメント形成理論モデルのうち、どれが正しいのかを教えてくれるだろう。

今回使われた研究手法を改良すれば、宇宙の構造の理解や、暗黒物質という不可解で目に見えない物質の正体の解明にも役立つだろう。暗黒物質は冷たい(ゆっくり運動する)粒子なのか、ニュートリノのように熱い(高速で運動する)粒子なのか。この疑問は、フィラメントについてさらに解析が進めば、解けるかもしれない。粒子の種類によって、フィラメントへの集まり方も異なっていると考えられるのだ。さらに、欧州宇宙機関が2019年に打ち上げを計画している宇宙望遠鏡「ユークリッド」では、重力レンズ効果のデータが大量に得られるはずだ。チューリッヒ工科大学(スイス)のAlexandre Refregierは、「こうした研究は、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での実験のように、直接的な暗黒物質探索を補うものなのです」と説明している。

(翻訳:新庄直樹、要約:編集部)

参考文献

  1. Dietrich, J. P. et al. Nature 487, 202-204 (2012).
  2. Werner, N. et al. Astron. Astrophys. 482, L29–L33 (2008).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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