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サブミリ波銀河HDF850.1の正体

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120934

原文:Nature (2012-06-14) | doi: 10.1038/486199a | An infant giant

Alberto D. Bolatto

非常に遠方にあるらしい、サブミリ波長(1mm未満)で明るく輝いている銀河の分光観測が行われ、ビッグバンからわずか10億年ほどの、生まれたばかりの銀河団の中心部にあることが明らかになった。

他分野の科学と同様、天文学もまた技術の進歩によって大きく前進することがあり、その傾向はより強いかもしれない。新しい性能を持った装置が導入されると、以前は想像することさえなかったか、仮説でしかなかったような現実が姿を現すこともある。そうした進歩の一例が1990年代後半に見られた。大判のサブミリ波カメラが登場し、その結果、明るいけれども正体のよくわからない銀河のグループが見つかったのだ。これに特に貢献したのが、ハワイのマウナケア山頂にあるジェームズ・クラーク・マクスウエル望遠鏡に搭載されたSCUBA(サブミリ波共同利用ボロメーターアレイ)というカメラだった。マックス・プランク天文学研究所(ドイツ・ハイデルベルク)のFabian Walterらは今回、このグループに含まれる銀河の理解を進め、その起源に関する議論を締めくくる分析を行い、Nature 2012年6月14日号233ページに報告した1

SCUBAで撮影された画像から、早い段階で、サブミリ波長で明るく輝く一群の銀河が明らかになった。これらは、その特徴そのままに「サブミリ波銀河」と命名された。SCUBAで初めて深宇宙を観測してサブミリ波銀河を発見した画像の1つが、1998年にハッブル・ディープ・フィールドを観測したものだった(図1)2。ハッブル・ディープ・フィールドは、おそらくは、ハッブル宇宙望遠鏡が観測した中で最も象徴的な領域だった。

図1:初期宇宙で見つかった構造
これは、SCUBAカメラを使って得られたハッブル・ディープ・フィールドのサブミリ波長画像で、最も明るいサブミリ波源はHDF 850.1と呼ばれる銀河だ2。Walterらの分光観測で、この銀河の赤方偏移は5.183で、発生期の銀河団の中心部にあることがわかった1。白と黄色は明るいサブミリ波源を、赤は暗いサブミリ波源を示している。円の直径は約200秒(満月の視直径の10分の1)。

Ref.2

ただし、この領域でもほかの領域でも、サブミリ波銀河は、可視光の画像では、きわめて暗いか、全く見えなかった。さらに、SCUBAのデータでは分光情報が得られず、この天体の赤方偏移、つまり天体までの距離は直接にはわからなかった。赤方偏移は銀河の性質を明らかにするのに不可欠の情報だ。この不思議なサブミリ波源は、いったい何なのだろうか。

この問題のいわば象徴的存在となったのが、ハッブル・ディープ・フィールドで最も明るいサブミリ波銀河HDF850.1だった。Walterらは今回、この銀河の赤方偏移を決定し、サブミリ波銀河という謎を解く重要な手がかりを手に入れた。

サブミリ波銀河は、発見当時から、地球から宇宙論的な距離にあって、宇宙が現在の年齢の数分の1だった時代の天体だとみられていた。それは、可視光画像の分析結果から推定されたことで、そこに映っていた銀河は、SCUBAで観測されたサブミリ波源の位置と誤差の範囲内で一致していた。また、この分析によって、サブミリ波銀河は、太陽の1012倍のオーダーという非常に強力なエネルギーを放出している系であることもわかった2,3

これほどの光度があるということは、もしもサブミリ波銀河が星の生成によって主にエネルギーを得ているなら、私たちの住む銀河系(天の川銀河)よりも、数百倍も速い速度で星を作っていることになる。しかし、こうしたスターバースト(爆発的星生成)の光は塵が覆い隠してしまうため、可視光による観測では、初期宇宙で起こっていたさまざまな星生成活動のかなりの割合が、見逃されてしまう可能性が高い3

サブミリ波銀河がどれだけ遠くにあるかについては、間接的な証拠はあったものの、銀河から来る光の分光、つまり赤方偏移の直接測定は難しいままだった。間接的な方法で成功したのは、電波および遠赤外波長域における光度の相関を利用し、電波干渉計を使って銀河の正確な座標を決定する方法だった。赤方偏移の測定には、最大の光学望遠鏡を使って、長時間露光による分光観測が必要だった。このような間接的方法によって、多くのサブミリ波銀河の赤方偏移は約1.5~3であり、宇宙の星生成活動のピークの時期にあることがわかった4

ただし、この方法では観測対象が限定されるため、どれだけ多くのサブミリ波銀河が3を超える赤方偏移にあるのか、という問題は未解決のままだ。サブミリ波銀河は、サブミリ波長なら、電波で見るよりもずっと遠い距離でも見える。したがって、このような方法では、遠くのサブミリ波銀河は検出できないのかもしれない。

Walterらは今回の研究で、フランスのモンモール近くにあるミリ波電波天文学研究所(IRAM)のビュール高原電波干渉計を使い、HDF850.1を直接分光測定して、赤方偏移5.183という値を得た。これは、ビッグバン後、わずか11億年という時代に相当する。今回の方法は、一酸化炭素分子(CO)の2つの回転遷移に関与するスペクトル線を検出するもので、明確に赤方偏移を決定できる。これは、近年、(サブ)ミリ波干渉分光器の情報伝送速度と計算処理能力が向上したおかげで可能になった方法で、数十ギガヘルツにわたる瞬間のスペクトルを得ることができる。ミリメートル波長とサブミリメートル波長の赤方偏移が決定できるということは、まさに強力な科学の道具であり、チリのアタカマ砂漠に設置されたアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)など、先進的な天文施設における初期宇宙の研究で、ますます広く使われていくだろう。

Walterらの分光分析で、電離炭素に関係するスペクトル線も見つかった。このスペクトル線の検出は、サブミリ波銀河の赤方偏移を確かめるだけでなく、SCUBAによってすでに検出されていた放射が、現在の天の川銀河の800倍も速く星が生まれる、途方もないスターバーストによって起こっている証拠ともなった。しかしサブミリ波源は、宇宙最深部の可視光画像では全く見えない。若い星からの放射は、放射源に存在する塵に隠されて検出されないからだ。このような塵は、紫外線と可視光を吸収し、遠赤外波長の光を再放出する。遠赤外線はさらに宇宙の膨張によって赤方偏移し(つまり波長が延び)、SCUBAが観測するサブミリ波領域へと入るという訳である。

Walterらは、HDF850.1におけるガスに対する塵の存在度が、天の川銀河での存在度と同程度であることを見いだした。塵は主に重元素(水素とヘリウム以外の元素)からなり、重元素の大部分は、大質量星の死によって生じる超新星爆発で作られる。宇宙初期の時代に、ガスに対する塵の存在度が予想外に高いということは、HDF850.1内の星間物質においては、重元素の増加が極端に速いペースで進んだことを示している。大量の塵をこれほど速く作ったメカニズムは完全にはわかっていない。

注目すべき発見は、HDF850.1のような銀河はこれだけではない、ということだ。HDF850.1は放射源の明らかな密度超過領域の中央部にあって、放射源には、クエーサー(超大質量ブラックホールによってエネルギーを供給されている活動銀河核)も含まれている。HDF850.1の位置から約0.03の赤方偏移差の範囲に、ほかに12個の放射源が発見されている。この赤方偏移差はその場所での深さ(視線方向の距離)で約2.5メガパーセク(800万光年)に相当する。これは、この宇宙空間におけるこの構造のおおよその大きさを示している。

高赤方偏移にある原始銀河団候補を分光によって確かめた例は2例ある。今回の密度超過領域はその1つで、すでに見つかっている中では最も初期の構造の1つだ5。この構造は、ビッグバンの名残の放射(宇宙マイクロ波背景放射)が生まれた時代の後に生じた。

最も明るいサブミリ波銀河は、宇宙の全体構造の中ではめったに見られない密度超過領域のありかを教えてくれる標識のようなものだと考えられており、今回の発見はそれを支持している。こうした極端な密度超過領域が、現在の巨大銀河団に進化したと考えられ、その領域の中で最も明るいサブミリ波銀河は、おそらくは、銀河団の重力ポテンシャルの井戸の中央にある巨大楕円銀河となったのであろう6。HDF850.1の物語の結論は、このサブミリ波銀河は急成長を続ける幼い巨人にほかならない、ということだ。

(翻訳:新庄直樹)

Alberto D. Bolattoは米国メリーランド大学カレッジパーク校天文学科に所属。

参考文献

  1. Walter, F. et al. Nature 486, 233–236 (2012).
  2. 2 Hughes, D. H. et al. Nature 394, 241–247 (1998).
  3. Blain, A. W., Smail, I., Ivison, R. J. & Kneib, J.-P. Mon. Not. R. Astron. Soc. 302, 632–648 (1999).
  4. Chapman, S. C., Blain, A. W., Smail, I. & Ivison, R. J. Astrophys. J. 622, 772–796 (2005).
  5. Capak, P. L. et al. Nature 470, 233–235 (2011).
  6. Tacconi, L. J. et al. Astrophys. J. 680, 246–262 (2008).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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