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星たちが奏でる音色

NASAのケプラー宇宙望遠鏡がもたらすデータは、太陽系外惑星の探索だけでなく、星震学にも革命を起こそうとしている。赤色巨星の進化段階さえ区別できるのだ。

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SHUTTERSTOCK

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120420

原文:Nature (2012-01-05) | doi: 10.1038/481018a | The sounds of the stars

Ron Cowen

ほとんどの天文学者は、天をあおいで星を見る。しかし、William Chaplinは、天上のオーケストラが奏でるシンフォニーに耳をすませる。小さい星たちはフルート、中ぐらいの星々はトロンボーン、巨大な星たちはチューバの音を鳴り響かせている。

Chaplinはバーミンガム大学(英国)の天体物理学者で、星震学の専門家だ。彼によると、この音の正体は恒星の内部の振動であり、恒星が周期的にわずかに明るくなったり暗くなったりする現象として観測されるという。恒星の振動は、ほかの方法では入手できない貴重な情報を、天文学者に与えてくれる。振動は、恒星表面で高温のガスが激しく上昇したり下降したりすることによって発生し、恒星内部の奥深いところまで伝わって、共鳴する音となる。この音が、恒星の大きさや、組成や、質量を知るためのてがかりとなるのだ(「天上の調べ」参照)。つまり、恒星の明るさに見られる特徴的なゆらぎを観測することで、「文字どおり、恒星の内部の様子を描き出すことができるのです」とChaplinは言う。

彼によると、星震学者は、これまで常に地球大気の乱れに邪魔されてきたが、ここにきて、大量のデータを手にすることが可能になったという。地球上の望遠鏡で観測を行う場合、大気の乱れのために恒星の明るさの変化を精密に観測することは難しく、星震学の研究対象は、地球から近くて特に明るい約20個の恒星に限られていた。研究者たちは、今、新世代の宇宙望遠鏡がもたらす貴重な情報に驚かされている。フランスが中心となって2006年に打ち上げたコロー(Convection, Rotation and Planetary Transits:COROT)宇宙望遠鏡と、米国のNASAが2009年に打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡のおかげで、一度に数百個の恒星の音を聞けるようになったのだ。

オルフス大学(デンマーク)の天文学者Hans Kjeldsenは、「我々は今、恒星の構造と進化に関する研究の黄金時代にいます」と言う。

「自然は、我々に親切だったようです」と言うのは、ペンシルベニア州立大学(米国ユニバーシティーパーク)の天文学者Ronald Gillilandだ。「恒星は、たくさんの振動を惜しげもなく見せてくれています。我々はこれを利用して、彼らの最奥の秘密を明らかにすることができるでしょう」。実際、大量のデータは赤色巨星の内部に光を当て、天文学者がこれまで考えていた恒星と銀河の形成過程に疑問を投げかけている。

予想以上の収穫

コロー宇宙望遠鏡もケプラー宇宙望遠鏡も、主要なミッションは星震学ではなく、地球とほぼ同じ大きさで、同じくらいの軌道半径を持つ太陽系外惑星を探すことにある。どちらの宇宙望遠鏡も、太陽系外惑星が母星の前を横切るときに母星がわずかに暗くなる「トランジット」という現象を利用して惑星を探している。この方法で太陽系外惑星を発見するには、恒星の明るさのわずか1/1000の変化を捕らえなければならない。これがたまたま、恒星の音波の影響を検出できる精度だったのだ。

理論的にはそうであっても、宇宙望遠鏡が打ち上げられるまでは、本当にそんな測定ができるのか、誰も確信を持っていなかった。実際、ケプラー宇宙望遠鏡が観測を開始すると、恒星の明るさに予想以上のゆらぎがあって、トランジットの観測を難しくしていることが明らかになった。ただし、このゆらぎは恒星の磁気活動に起因するものであり1、音波とは関係なく、音波振動とトランジットが、互いに干渉することはない。音波は太陽に似た恒星の明るさを5~15分のタイムスケールで変化させるのに対して、惑星のトランジットは数時間続く。両ミッションの立案者が、星震学者を喜んでチームに迎え入れたのは、そのためだ。「我々は、惑星ハンターの背中に乗っているのです」と、ケンブリッジ大学(英国)の星震学研究者Dougkas Goughは言う。

いざ蓋を開けてみると、大量の音波データが得られた。特に、開口部が0.95mもあってコロー宇宙望遠鏡の9倍の感度があり、より大きな星々の集団を、より長時間にわたって観測できるケプラー宇宙望遠鏡からのデータは非常に多かった。「すべてが、驚異的にうまくいきました」と、Gillilandは言う。

2011年4月、Chaplinらは、ケプラー宇宙望遠鏡で観測した太陽に似た恒星500個の音波振動を分析した結果を発表した2。音波振動の周波数と振幅から、これらの恒星の大きさが、天体物理学の通説に基づいて予測された大きさとだいたい同じであることが明らかになったが、その質量は、予想よりかなり低めに分布していることが明らかになった。

Chaplinは、これらの知見をどう考えるべきか、まだ確信を持っていない。しかし、今後も同じ恒星の観測を続けて、その質量が予測を下回りつづけるなら、理論家は、恒星の形成と銀河の集合のモデルを考え直さなければならないかもしれない。「ケプラー宇宙望遠鏡を利用した星震学研究が始まるまで、これらのモデルを検証する方法はありませんでした」とChaplinは言う。恒星の質量を正確に知ることは非常に重要だ。恒星の質量は、銀河形成理論の基礎となるだけでなく、銀河系の歴史の中で、恒星の内部で起こる熱核反応が重元素を作り出してきた過程を理解するためにも欠かせないからだ。この重元素は、後に、地球を含む惑星を形成することになる。

「それが目撃できるのですから、すばらしい!」と、Kjeldsenは言う。最新のデータを手にすることで、「我々は、自分たちの仮定やアイデアや理論やモデルを詳細に検証し、間違いを正すことができるでしょう」。

赤色巨星の秘密

ケプラー宇宙望遠鏡がもたらした知見の中で特に予想外だったのは、赤色巨星に関するものだった。赤色巨星は、太陽に似た恒星が中心核の水素を使い果たして燃料危機に陥り、元の直径の100倍以上まで膨れ上がってしまったものである。これから50億年も経てば、我々の太陽も赤色巨星となり、太陽系の内側の惑星をのみ込んでしまうことになる。

赤色巨星の進化の初期段階では、中心部に地球の数倍程度の大きさしかない高密度の核が形成されていて、その周りの薄い殻の中で、まだ水素が燃えている。後期の段階では、中心核のヘリウムが燃えはじめている。この2つの段階を見分けることは、天文学者の夢だった。その区別がつけば、赤色巨星の年齢や、進化の速さや、各段階で星間空間に放出されるガスや重元素の量を知るのに役立つからだ。

ケプラー宇宙望遠鏡が登場するまで、赤色巨星の進化の段階を知ることは不可能だった。赤色巨星が何を燃やしていても、外からは同じに見えるからだ。しかし、2011年3月に、シドニー大学(オーストラリア)の天文学者Timothy Beddingらは、ケプラー宇宙望遠鏡が捕らえた振動のデータから、赤色巨星の進化の段階をはっきりと区別できたと報告した3

この研究論文の共著者であるオルフス大学の天文学者Jorgen Christensen-Dalsgaardは、「赤色巨星の表面の振動から、その小さな中心核の性質がわかるなんて、ワクワクしませんか?」という。

この研究チームは、2011年12月には、赤色巨星の中心領域の自転速度の測定に初めて成功し、表面の10倍も速いことがわかったと報告している4

彼らの知見は、赤色巨星の形成に関する標準モデルを支持するものと言える。すなわち、太陽に似た恒星では、表面に近い層は外に広がり、中心核は収縮する。基礎物理学は角運動量が保存されることを要請するため、大きく膨らんだ外層の自転速度は遅くなり、収縮した中心核の自転速度は速くならなければならない。まさに、観測されたとおりなのである。

ミッション延長への期待

ケプラー宇宙望遠鏡のミッションは、現時点では2012年11月に終了する予定になっているが、多くの天文学者が延長を求めている。NASAがその声に応えられるかどうかは不明である。ミッションの資金に余裕はなく、ほかのミッションも資金を必要としているからだ。しかし、星震学研究者たちによる今回の発見の重要性を考えれば、ミッションは延長するべきだ。例えば、太陽の音波振動の周波数は、太陽の磁気活動が11年周期で変化する間に、ほんのわずか(1万分の1)だけ変化することが明らかになった。この変化は、太陽の活動周期の長さを測定する方法の1つになるだろう。太陽の磁気活動の変化は、黒点やフレアやその他のエネルギーのゆらぎに影響を及ぼし、地球の人工衛星や通信システムを大混乱させるおそれがあるため、その周期の長さを知ることは非常に重要だ。

太陽の磁気活動の周期を、太陽に似た多くの恒星の磁気活動の周期と比較するのも興味深い。ほかの恒星の磁気活動の周期がもっと長い場合、ケプラー宇宙望遠鏡の当初の運用期間では追跡できないとGillilandは言う。「ケプラー宇宙望遠鏡は、あと11年間は問題なく観測を続けられるようです。7~8年、あるいはそれ以上にわたって観測を続けることができれば、多くの恒星の活動周期を知ることができるでしょう。その知識は、大いに役に立つはずです」。

ミッションが延長されれば、赤色巨星の中心核の奥深いところから生じる、別の種類の振動についても理解を深め、中心核の構造や密度について多くの情報が得られるかもしれない。恒星の表面でこうした振動の存在が明らかになるときには、その振幅は非常に小さいはずだ。しかし、重い鐘の共鳴時間が長いように、その共鳴は数か月から数年も続くだろう。「まさに今、興味深い天体物理学現象が見えてきたところなのです」とGillilandは言う。長期間にわたってデータを収集することができれば、もっと多くのことが明らかになるはずだ。

すでに述べたとおり、ケプラー宇宙望遠鏡の主要なミッションは、生命が居住できる領域にある地球サイズの太陽系外惑星を発見することにある。Chaplinによると、星震学は、この探査の役にも立つかもしれないという。ケプラー宇宙望遠鏡は、太陽系外惑星が母星の前を横切るときの母星の明るさの変化を測定するという方法でしか惑星を検出することができず、惑星の大きさは、母星に対する相対的な大きさという形でしか知ることができない。つまり、惑星の半径は、母星の半径と同じ精度でしか知ることができない。ここでもし、母星の音波振動が詳しくわかれば、惑星の大きさを高い精度で決定できることになる5。そのような測定ができるのは、ケプラー宇宙望遠鏡の視野にある恒星の中で、特に明るいものだけだが、それでも、自分たちのデータへの自信という点で、強い裏付けが得られるはずだ6,7

ケプラー宇宙望遠鏡は、17世紀の天文学者Johannes Keplerにちなんで名付けられた。Keplerは、地球と、その他の既知の惑星のすべてが、それぞれ独自の音を出しているとする理論をつくった。彼はこれを「天球の音楽」と呼んだ。ある種の天球の音楽が、ケプラー宇宙望遠鏡の最も重要な発見のカギとなったとしたら、これほどふさわしいことがあるだろうか!?

(翻訳:三枝小夜子)

Ron Cowenは、米国メリーランド州シルバースプリング在住のフリーライター。

参考文献

  1. Cowen, R. Nature 477, 142-143 (2011).
  2. Chaplin, W. J. et al. Science 332, 213-216 (2011).
  3. Bedding, T. R. et al. Nature 471, 608-611 (2011).
  4. Beck, P. G. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature10612 (2011).
  5. Howell, S. B. et al. Preprint at http://arxiv.org/abs/1112.2165 (2011).
  6. Hand, E. Nature 480, 302 (2011).
  7. Fressin, F. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature10780 (2011).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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