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いざ、沖縄へ!

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110904

原文:Nature (2011-06-30) | doi: 10.1038/474553a | Okinawa goes recruiting

沖縄は、自由な研究で、日本の学際的研究を推進する旗手となる。

自分の研究に自由に没頭できる環境として、欧米の前途有望な若手研究者はどんな場所を選ぶのだろうか。意外なことに、沖縄県にある研究機関がその選択先として浮上してきている。この研究機関は10年前に構想され、独立行政法人・沖縄科学技術研究基盤整備機構(Okinawa Institute of Science and Technology;OIST)がその実現を進めてきた。今秋の大学院大学としての本格的始動に向けて、初代学長兼理事長にはスタンフォード大学線形加速器センターの元所長で物理学者のJonathan Dorfanが就任する予定で、そのほか多数の教員採用も進めている。

日本の学術研究機関には厳然たる上下関係があり、若手研究者が自由に研究する機会はほとんどない。また日本の大学では、新規採用の研究者に終身雇用が保証されていないため、外国人教員の勧誘はなかなかうまくいかない。20年前から国際化に努めているにもかかわらず、大学教員に占める外国人の割合は3%前後のほぼ横ばい状態だ。さらに、沖縄県は、本土に比べインフラが弱く経済も低迷している。

300億円をかけたOISTの本館と研究棟は2012年に完成予定である。 | 拡大する

撮影:東出 清彦

そこで、政府は、科学と沖縄県の双方の振興策として、2001年、沖縄科学技術大学院大学(OIST;英名と略称は研究基盤整備機構と同じ)を設置し、国際的な学際研究の拠点とする構想を打ち立てた。OISTでは、教員と学生の半分を海外出身者にすることを義務付けている。また、学部はなく、教授や准教授という階級もない。学長は、国内外の著名な科学者で構成される運営委員会の意見を聞きながら大学運営を進める。緑に囲まれた施設はまるでリゾートホテルのようで、眼前には海が広がり、研究者どうしが親交を深められる設計になっている。さらに、給与水準は世界トップクラスで、研究室の立ち上げにも潤沢な資金が提供される。

OISTでは、2004年、初代理事長であるノーベル賞受賞者のSydney Brennerの下で、日本人を代表研究者(Principal Investigator; PI)とする4つの研究ユニットが選定され、先行研究を開始した。最終的にPIは25人ほどになった(多くは生物学者である)。しかし、その立地条件や、年間およそ100億円という高額な経費などに批判的な見方もあった。それでもOISTは、文部科学省から大学設置認可を得て大学院生を受け入れるため、質の高いPIを集められることを示そうとしてきた。

昨年7月に、初代学長予定に決まって以来、Dorfanは、政治的駆け引きや管理業務、社会への働きかけ、PI募集などに尽力してきた。彼は、テニュア制度(終身雇用制度)を導入し、海外出身の研究者であっても、将来に不安のない終身雇用となれるようにした。本土から遠いという点や、若者を地方に呼び寄せるという難しい問題は、こうした潤沢な研究資金と豊かな自然という魅力的な環境で、ある程度は克服できるだろうと、Dorfanは話す。「沖縄に研究者を勧誘するにはそれなりのお膳立てが必要です。テニュア制度がなければ、PI募集の時点でOISTは自滅してしまいます」。

2010年12月には、3週間にわたってPI候補者27人がOISTを訪れた。「私が知っている中でも最大級の勧誘活動でした」とDorfanは言う。この勧誘活動の成功の裏には、候補者に合同で沖縄に来てもらい、お互いに研究の話をしてもらったらいいのではないか、というDorfanの妻の提案があった。「応募者たちは張り合う感じではなかったですね。バーの席をとるために競い合っていましたが」と彼は話す。Dorfanは、このうち26人に誘いの声をかけ、これまでに物理学者11人を含む20人が応じた。Dorfanは、PI勧誘の成功により、OISTの大学設置は認可されるだろうと考えている。認可されたらすぐに、大学院生の受け入れを始める。最終的には、幅広い専門分野の大学院生、およびPI300人を含む、計2400人の研究者を受け入れる予定だ。すでに、海洋科学や神経科学、画像化技術の分野で際立った成果が現れてきている。

OISTのPIの多くは若く、平均年齢は41歳だ。一方で、シニアの研究者に研究を延長する機会も提供している。京都大学を定年退職後、OISTのPIとなって2年になる海洋生物学者の佐藤矩行(さとうのりゆき)は、沖縄という環境に合わせて新しいプロジェクトを起こした。サンゴのゲノムプロジェクトだ。1998年の夏に酷暑に見舞われた後、沖縄周辺海域では、白化現象を起こしたサンゴと起こさなかったサンゴがあった。その違いを解明しようというのだ。(編集部註:サンゴの全ゲノム解析は Nature 2011年8月18日号に掲載。関連Nature Newsの翻訳を Nature ダイジェスト 2011年10月号に掲載。)

研究設備もOISTの魅力の1つで、電子顕微鏡や最新の遺伝子シーケンサー、2光子励起顕微鏡はもちろん、約7億5000万円の構造解析用の卓上型シンクロトロン、約4億円の沿岸海洋観測システムなどが備わっている。新規採用の研究者の1人、新竹積(しんたけつもる)は、兼任している理化学研究所でX線自由電子レーザーの設計に携わった。彼は現在、溶液中にあるDNAなど生体分子の三次元像を撮るための、新型の低エネルギー電子顕微鏡を作ろうとしている。「さまざまな設備の力を信じています」とDorfanは話す。

しかし、OISTの看板は、なんといっても「自由」だ。それぞれのPIの研究室には、5年間の資金提供が保証されており、大学院生やポスドクへの支援もある。「私は、何の制約条件もなく、やりたい研究に必要な支援をすべて受けてきました」と、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校から移動してくる31歳になる流体力学者Pinaki Chakrabortyは話す。ミシガン大学からやってくる29歳の生態学者Evan Economoも、同意見だ。「OISTではどれほど多くの研究用リソースを利用できるのか、また、米国で同じことをしようとすると全米科学財団を相手にどれだけ大変な交渉をしなければならないかがよくわかりました。私は今、自分の研究の成否は、匿名委員からなる研究助成審査会ではなく、自分自身にかかっていると感じています」。

(翻訳:船田 晶子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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