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絶縁体が、割るだけで導電性に!

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110430

原文:Nature (2011-01-13) | doi: 10.1038/469167a | The conducting face of an insulator

Elbio Dagotto

2種類の酸化物絶縁体を積み重ねると、両者の界面に導電性の系が生じることが知られている。しかし、意外なことに、酸化物絶縁体をただ割っただけでも、その劈開面で同じ導電現象が現れることがわかった。

Santander-Syroらは、チタン–ストロンチウム酸化物(SrTiO3、略してSTO)という絶縁体の表面に、導電性の二次元電子系を発見した(Nature 1月13日号189ページ1。これはまさに予想外だった。なぜなら、これまでにSTOはよく研究されており、十分理解されていると考えられていたからである。今回の発見は、急成長を遂げている酸化物超格子や酸化物エレクトロニクスの分野など、日常的にSTOを使用する研究分野に大きな影響を及ぼすはずだ2,3

凝縮系物理学では新材料が続々と発見されており、ダイナミックな研究分野である。しかも意外性に満ちており、固体中での電子や原子の振る舞いに関する我々の理解は、いつ覆されるかわからない。有名な例として、高温超伝導体や、大きな磁気抵抗(磁場中に置かれると電気抵抗を変える材料特性)を示す遷移金属酸化物(TMO)4がある。TMOに限らず、一般にバルク材料では、系の全エネルギーが最小になるように、原子イオンと電子が特定の結晶配列(例えばペロブスカイト構造)をとる。それが相転移して、磁気状態など低温での特性変化が現れる。

しかし、特定の特性がどのように変化するかは、実際に化合物サンプルを作製して調べてみないと、予測するのは難しい。また、特定用途のために、ある特性が必要な場合、どの化学組成なら狙った結果が得られるのかを予想するのも困難である。つまり、バルクTMOの結晶構造とそれに伴う特性を制御することは容易ではない。

このため、新しいTMOを人工的に作製することに、大きな注目が集まっている。最近では、原子レベルの精度で新しい材料を作製することが可能である。ある酸化物層の上に別の酸化物層を成長させるという積層過程をいろいろな配列で繰り返すことによって、超格子を形成するのだ。非常に多様な組み合わせが実現でき、新しい材料が得られる。2種類のTMO(片方はSTO)を積み重ねることによって、金属性(導電性)はもとより超伝導性の界面状態が得られることもわかっている5–7

一見すると、2つの絶縁体の界面に金属状態が出現することは、不可解に思えるかもしれない。しかし、何人かの研究者によると、ポーラーカタストロフィーというメカニズムが起こる可能性があり、これにより金属状態の出現を説明できる。例えば、(LaO2と(AlO)+の電荷層が交互に積層したランタン–アルミニウム酸化物(LaAlO3; LAO)を、TiO2とSrOの電荷中性層からなるSTOの上に積むと、LAO構造の(LaO2–(AlO)+電気双極子からポーラーカタストロフィーが起こる8。電気双極子は電位差を発生させ、電位差は膜が厚くなるほど増大する。LAO構造が十分厚いと、発生した大きな電位差を補償するために突然の電子再構成、すなわちポーラーカタストロフィーが起こる。これにより、LAO/STO界面が導電性になる。

しかし、Santander-Syroらによって観測されたSTO表面(すなわち結晶最上部の真空と接している薄い部分)における導電状態の出現1は、どう説明されるのか。STOは電気的に中性な(電荷を持たない)TiO2層とSrO層から構成されているため、ポーラーカタストロフィーは起こり得ないはずだ。

図1:酸化物を割る
Santander-Syroら1は、ストロンチウム–チタン酸化物(SrTiO3)のバルク絶縁体を真空中で割る(真空劈開)だけで、その表面に金属性の二次元電子ガスを形成した。電子系は表面からわずか5単位格子内に閉じ込められており、その導電性は、劈開過程で生じた酸素空孔(この図では任意に分散させている)に起因する。 | 拡大する

Santander-Syroらは、STO結晶の表面特性を調べる目的で、清浄な表面を得るために超高真空中で結晶を割った(真空劈開)のだが、驚くべき結果が得られた。調べたすべてのサンプルの表面において、金属性の二次元電子ガスの特性が観測されたからだ。この二次元電子ガスは、表面から5単位格子の範囲内に閉じ込められていると推定されている(図1)。しかも、バルク中の電子密度は低くてさまざまな値をとるにもかかわらず、金属性の表面の電子密度はすべて高く同じ値をとった。

これは意外な結果だ。Santander-Syroらは、割ったときにSTO表面に多くの酸素空孔ができると主張している(図1)。結晶中の酸素はイオン状態(O2−)をとっているので、1個の酸素原子が取り除かれると、2個の電子が結晶格子に戻されることになる。これによって、酸素イオンの2個の過剰電子が材料中の空孔付近、つまり表面付近に残るため、電気伝導に利用できることになる。それぞれのサンプルのバルク電荷キャリア(不純物ドーピングによって導入される)はすべて異なっていたにもかかわらず、割ったすべてのサンプルが同じような結果を示した。このことは、すべてのサンプルにおいて生じた酸素空孔の密度が同程度であるため、同じような挙動が観測された可能性があることを示唆している。

酸化物エレクトロニクス2,3への応用を視野に入れると、STOの表面とLAO/STOなどの界面に存在する導電状態の特性を比較して、その起源を明確にすべきである。さらに、LAO/STOについて行われたように、STO表面における新しい導電状態を利用した電界効果トランジスター(電子チップの構成要素)も、検討・実現すべきであろう。

おそらく、Santander-Syroらの研究結果の最も重要な意義は、単に割ることによって、もっと一般化して言えば表面に酸素空孔を導入することによって、おなじみの基板上に新しい導電性二次元電子系を形成できるようになったことである。この方法は、複雑でコストのかかる超格子成長法に代わる簡便かつ魅力的な手法である。

今回の方法は、グラフェンエレクトロニクスの始まり方に似ている。その始まりは、普通の粘着テープでグラファイトから剥がし取ることによってグラフェン(原子1個分の厚さのハニカム状炭素格子)が得られるという発見だった。酸化物エレクトロニクスの今後の課題は、今回の真空劈開酸化物導電系を理解して制御すること、またその系を維持する方法を見いだすことである。

(翻訳:藤野正美)

Elbio Dagotto:テネシー大学物理天文学科

参考文献

  1. Santander-syro, A. F. et al. Nature 469, 189–193 (2011).
  2. Mannhart, J. & schlom, D. G. Science 327, 1607–1611 (2010).
  3. Cen, C., Thiel, s., Mannhart, J. & Levy, J. Science 323, 1026–1030 (2009).
  4. Dagotto, E. & Tokura, Y. MRS Bull. 33, 1037–1045 (2008).
  5. Ohtomo, A., Muller, D. A., Grazul, J. L. & Hwang, H. Y. Nature 419, 378–380 (2002).
  6. Ohtomo, A. & Hwang, H. Y. Nature 427, 423–426 (2004).
  7. Reyren, N. et al. Science 317, 1196–1199 (2007).
  8. Hwang, H. Y. Science 313, 1895–1896 (2006).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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