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SNSで慢性疾患の治療法を改善

医学が進歩したとはいえ、多くの慢性疾患の治療法はいまだに場当たり的で一貫性がない。例えば痛みを伴う消化器系疾患であるクローン病の場合、投薬や食生活の改善、代替療法をめぐって矛盾した情報が存在する。そこで、患者が受ける治療法を改善するため、小児科医とコンピューター科学者のチームが新タイプのソーシャルネットワークを開発した。このネットワークを通じて、臨床研究に参加してもらう試みだ。

医師と患者は治療法を少し変えるたびに、いわば“ミニ版の臨床試験”として、その結果を報告する。患者は症状を毎日記録し、その記録を携帯メールかインターネットを通じて提出する。医師はこの情報を利用して、「薬の投与量を変えるべきか」「新しい食事療法は症状の改善に役立っているか」などを速やかに判断する。これら個別の実験から得られたデータはウェブ上のデータベースに蓄積する。同様の実験データが集まれば、問題の症状について理解は深まるはずだ。

新たな臨床試験の基盤に

初期のテスト運用では、新たな薬を用いずに症状改善率を55%から78%に高めることができた。「途切れなく患者をケアし、リアルタイムのデータを集めて、クローン病に関する理解と治療法を変えていきたい」と、新ポータルサイト「共同慢性病治療ネットワーク」の共同設立者であるシンシナティ小児病院医療センターのPeter Margolisは言う。

英語名称の頭文字を取って「C3N」と呼ばれるこのネットワークは、2011年前半に全米の約30の医療機関が参加してスタートした。いまのところ小児のクローン病に焦点を絞っているが、将来は、糖尿病、心疾患、乾癬、一部のがんなどにも広げる可能性がある。

C3Nの設立者たちは、この試みが利益主導によらない新たな臨床試験の基盤となると考えている。「大規模臨床試験には多額の費用がかかるので、実際には大きな利益を生むような治療法しか試験できていません」と、マサチューセッツ工科大学メディア研究所の研究員でC3Nのウェブ設計主任でもあるIan Eslickは言う。「C3Nならそんな制限はありません。プロバイオティクス、グルテン除去食、鉄分摂取の調整など、すでに患者が家庭で進めている試みはもちろん、お金になりそうもない治療法でも、科学的に試験できるのです」。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2011.111210a