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新型コロナウイルス感染で糖尿病発症リスク上昇か

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200802

原文:Nature (2020-06-24) | doi: 10.1038/d41586-020-01891-8 | Mounting clues suggest the coronavirus might trigger diabetes

Smriti Mallapaty

SARS-CoV-2はインスリン産生細胞などの血糖制御に関わる組織を傷害することが、ミニ臓器での研究で示された。

1型糖尿病の人はホルモンであるインスリンを産生できない。 | 拡大する

Samara Heisz/iStock/Getty

2020年4月中旬、ドイツ・キールに住む18歳の学生Finn Gnadt は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していたことを知った。両親がオーストリアでのリバークルーズ後にCOVID-19を発症したため、ウイルス抗体の検査を受けたのだ。

その時Gnadtは無症状だったので、感染に耐えたと思っていた。だが数日後、疲労や喉の渇きを感じ始め、5月初めには1型糖尿病と診断された。彼を診たシュレースヴィヒ・ホルシュタイン大学附属病院(ドイツ・キール)の医師Tim Hollstein は、この突然の糖尿病発症はSARS-CoV-2感染と関連があるかもしれないと考えた。

1型糖尿病の大部分の人では、インスリンの産生を担う膵臓のβ細胞が体内の免疫細胞によって破壊され、これは突然始まることが多い。Hollsteinは、Gnadt の場合、SARS-CoV-2によってβ細胞が破壊された可能性を考えている。1型糖尿病では通常、β細胞を含む膵島は特定の種類の免疫細胞によって傷害されるが、Gnadt の血液にはそれが見つからなかったからだ。

糖尿病は、重症型COVID-19を発症する重要なリスク要因であり1、糖尿病を罹患する人はCOVID-19による死亡リスクが高い2。現在、糖尿病によってSARS-CoV-2に脆弱になるだけでなく、このウイルスによって一部の人に糖尿病が引き起こされるかもしれない3と考える研究者が増えている。モナッシュ大学(オーストラリア・メルボルン)で代謝疾患を研究しているPaul Zimmetもその1人だ。「糖尿病自体、COVID-19のように世界中で患者数が増加している疾患です。この2つの流行が同時に生じているかもしれません」とZimmet。

集まり始めた証拠

同様の考えの研究者たちが根拠として挙げるのは、SARS-CoV-2感染後に自然に糖尿病を発症したGnadtのような少数の人4や、来院時に血中の糖やケトンの値が非常に高かった数十人以上のCOVID-19患者5だ。糖やケトンは肝臓の貯蔵脂肪から作られ、体が糖を分解するのに十分なインスリンを作れないと、別の燃料源としてケトンを使う。重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすウイルスなどが1型糖尿病などの自己免疫疾患と関連している6ことも根拠の1つだ。また、SARS-CoV-2が細胞に感染するために用いるACE2タンパク質7は、血糖制御に関与する多くの臓器に豊富に存在する。

しかし、この提案に慎重な姿勢を示す研究者もいる。「COVID-19が発生する以前の糖尿病の発生率に注意を払い、発生率が予想レベルを超えているかどうかを判断する必要があります」と、グラスゴー大学(英国)の代謝疾患研究者Naveed Sattarは言う。

糖尿病データベース

6月の初めに、Zimmetを含む研究者の国際的なグループが、世界規模のデータベース「CoviDiab Registry」を立ち上げた3。糖尿病の病歴を示さず血糖の制御に異常がないが、血糖値が高いCOVID-19罹患者についての情報を収集するのが目的だ。研究者たちは、集まった症例から、SARS-CoV-2が1型糖尿病あるいは新しい型の糖尿病を誘導できるかどうかを明らかにしたいと考えている。

最新の手掛かりは、Cell Stem Cell 2020年7月2日号に掲載された膵臓オルガノイドを使った研究8だ。SARS-CoV-2は、血糖を制御するα細胞およびβ細胞に感染して傷害し、その後、感染細胞の一部は死滅した。またウイルスは、マウスに移植した膵臓オルガノイドや肝臓オルガノイドの細胞も攻撃した。肝臓はインスリンを感知すると、糖を貯蔵したり血流に放出したりするため、血糖の制御に重要だ。

一方、バーミンガム大学(英国)の研究者で臨床医のAbd Tahraniは「この研究8は、SARS-CoV-2が糖尿病を発症させたり悪化させたりする可能性があることを補強するものですが、その関連を確立するためには、もっと確実な証拠が必要です。十分に計画された疫学的コホート研究、機構的研究、実験的研究が必要です」と指摘する。

またSattarは、「重症型COVID-19による疲労や筋肉の喪失によっても、前糖尿病状態に陥る可能性があります。長期的な研究でしか、実際に何が起こっているかを突き止められないでしょう」と言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Docherty, A. B. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2020.04.23.20076042 (2020).
  2. Zhu, L. et al. Cell Metab. 31,1068–1077 (2020).
  3. Rubino, F. et al. New Engl. J. Med. https://doi.org/10.1056/NEJMc2018688 (2020).
  4. 4 Chee, Y. J., Ng, S. J. H. & Yeoha, E. Diabetes Res. Clin. Pract. 164, 108166 (2020).
  5. Li, J. et al. Diabetes Obes. Metab. https://doi.org/10.1111/dom.14057 (2020).
  6. Yang, J.-K., Lin, S.-S., Ji, X.-J. & Guo, L.-M. Acta Diabetol. 47, 193–199 (2010).
  7. Hamming, I. et al. J. Pathol. 203, 631–637 (2004).
  8. Yang, L. et al. Cell Stem Cell https://doi.org/10.1016/j.stem.2020.06.015 (2020).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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