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2020年ジャパンプライズは低密度パリティ検査の考案者と古遺伝学の先駆者に

ロバート・ギャラガー氏(左)、スバンテ・ペーボ氏(右)。 Credit: 公益財団法人 国際科学技術財団

1985年に創設されたジャパンプライズは、独創的かつ飛躍的な成果により科学技術の進歩に大きく寄与し、人類の平和と繁栄に著しく貢献した科学技術者に贈られる。毎年、物理・化学・情報・工学領域および生命・農学・医学領域の各領域から1分野が選ばれ、その分野から受賞者が決定される。2020年は、前者ではエレクトロニクス、情報、通信分野が選ばれ、ロバート・ギャラガー(Robert Gallager)マサチューセッツ工科大学名誉教授が受賞。後者では、生命科学分野が選ばれ、スバンテ・ペーボ(Svante Pääbo)マックス・プランク進化人類学研究所教授が受賞した。

ロバート・ギャラガー氏は、ノイズのあるデジタル情報通信路において誤りのない通信を実現するための効率的な方法として知られる「低密度パリティ検査(LDPC)符号」を1960年代に考案した。LDPCにより、符号化効率の理論限界値であるシャノン限界に極めて近い効率にてデータ送信が可能になったことで、高速大容量通信を高信頼で実現する道が開かれた。提案当時は大量のデータを扱うことがなかったためにこのアイデアは放置されていたが、通信速度と通信機器の進歩によりその価値が見直されたのだ。現在では、LDPC符号はデジタルテレビ衛星放送やWiMAX高速データ通信に採用されているだけでなく、5G移動通信システムにも実装され、現代のデジタル化社会を支える極めて重要な技術となっている。こうした情報通信技術での貢献が評価された。

スバンテ・ペーボ氏は、数万年前の古代人の特徴をDNAから描き出す方法を編み出した古遺伝学の先駆者だ。1997年にネアンデルタール人のミトコンドリアDNAを解読し、ネアンデルタール人と現生人類は別のヒト族であることを示して従来の考え方を覆しただけでなく、2010年にはネアンデルタール人の核DNAの解読に成功。さらに、現生人類のゲノムに彼らの痕跡が残されていることも明らかにした。また同年には、未知のヒト族「デニソワ人」の存在を報告している。数々の発見によりホモ・サピエンスと他のヒト族との関わりを明らかにしただけでなく、古遺伝学の手法を広めて世界を牽引したことが評価された(2018年11月号「古代人類の混血第一世代を確認」および2019年12月号「エピゲノムからデニソワ人の肖像」参照)。

同財団は2018年に、物理・化学・情報・工学領域の資源・エネルギー、環境、社会基盤分野として吉野彰氏(2019年ノーベル化学賞受賞)に同賞を贈っている。

(編集部)

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200333