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羽根の罠

羽根が落ちていても特に危険を感じないが、ブラジルの熱帯サバンナにいる虫は落ちている羽根にうっかり近づいてはいけない。Pheidole oxyopsというオオズアリ属のアリが地中の巣につながる入り口の周囲に疑似餌として羽根を置き、近づいた生き物を巣に引きずり込んでいることが新たな研究で示された。積極的に獲物を狩るのではなく疑似餌や罠を使う行動は、アリとしては珍しい。

ヴィソーザ連邦大学(ブラジル)の生態学者Inácio Gomesは最初に市街地の公園で、次いで大学のキャンパスで、アリの巣の入り口の周りに羽根があることに気付いた。彼は罠を仕掛けるアリを報告した科学文献を見たことはなかったが、改めて調べると2つの仮説が見つかった。羽根は乾燥した地域で朝露を集めるためのものであるという説と、疑似餌として置かれているという説だった。

Gomesらはこれらの説を実験的に検証し、その結果を2019年8月のEcological Entomology に報告した。彼らが湿った綿の玉を置いてもアリは羽根を集めたので、水を集めるために使われているのではないと考えられる。周囲に羽根を置いた罠と羽根のない罠を作って比較したところ、羽根のある罠の方が多くの節足動物を捕らえた。

オオズアリの罠にダニやトビムシ、他種のアリなどの獲物が落ちると、巣穴の入り口が軟らかいのでよじ登って脱出するのは難しく、巣の主の餌食となる、とGomesは言う。

ハーバード大学(米国)の生物学者Helen McCreeryは、「カリスマ的な驚くべき行動です。巣を離れずに餌を得るアリの例は非常にまれです」と言う。

そもそもなぜ獲物が羽根に引きつけられるのか、McCreeryはいぶかる。Gomesは羽根の匂いと形に引きつけられるのだろうとみている。「土壌昆虫は一般に好奇心がとても旺盛です。落とし穴型の罠が非常に有効な理由もそこにあります」とGomesは言う。科学者は野生の標本を採集するのに同様の罠を使っている。

P. oxyopsは単独で食物を探すこともあれば、他の種と同じように集団で狩りをすることもあるが(Gomesはこのアリがカマキリを解体しているのを見たことがある)、獲物の乏しい長い乾期を切り抜けるために羽根の罠で狩りを補っているのだろうとGomesは言う。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2019.191205a