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HIVの潜伏場所を探す

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190112

原文:Nature (2018-10-19) | doi: 10.1038/d41586-018-07115-4 | Virus detectives test whole-body scans in search of HIV’s hiding places

Sara Reardon

HIVの潜伏場所を探る新たな取り組みから手掛かりが示された。

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KATERYNA KON/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library/Getty

HIVに感染している人々にとって、抗レトロウイルス薬の登場は、HIV感染を「死の宣告」から慢性疾患に変化させるものとなった。しかしHIVが体内から完全に除去されることはなく、抗レトロウイルス薬による治療を中断すると迅速にHIVのリバウンドが起こる。

感染者の血液検査でウイルス量が低いか検出できない場合に、HIVはどこに、どのような方法で潜伏しているのか。HIVの隠れ家は「潜伏リザーバー」と呼ばれ、その場所は長い間不明であったが、研究者らの取り組みにより、間もなく明らかになる可能性がある。強力な新技術により、HIVがヒトや他の動物の体内をどのように移動しているかが新たに分かり、潜伏場所や今後の治療標的に関する手掛かりが得られ始めているからだ。

HIVは宿主細胞のDNAに組込まれるので、根絶するのが難しい。HIVが自己の複製のために行う宿主細胞の乗っ取りを防ぐだけの現在の治療では、完全な治癒は達成できないかもしれないと一部の研究者は考えていて、HIVがDNAに残した全ての痕跡を感染者の体内から除去する必要があるかもしれないと論じている。「しかしHIV DNAを全て取り除くのは現実的ではないようだと分かってきたのです」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の感染症研究者Sara Gianellaは言う。

「考え得る最良の方法は、HIV感染後にHIVを永久に抑制する、あるいは封じ込めることかもしれません」とGianellaは言う。彼女は、米国立衛生研究所(NIH;メリーランド州ベセスダ)が2018年10月に開催した会合で、HIVの潜伏場所に関する新しい知見を報告した。複数の抗レトロウイルス薬の併用は、抗レトロウイルス療法(ART)として知られ、血中の免疫細胞のHIVを抑制できるが、HIVは数十の組織に潜伏できることが、Gianellaの「Last Gift」研究の最初の結果より確認されたのだ。

体内のHIVの存在場所について調べる「Last Gift」プロジェクトでは、HIVに感染しているが、HIVとは関係のない疾患により余命6カ月以内である人が登録されている。また、参加者は全員、登録時にはARTを受けているが、ARTの中断を依頼される参加者もいる。Gianellaの研究チームは、参加者が生存している間は血液試料を集め、死後は約50種類の組織を採取した。ARTを中断した人の試料からは、HIVがリバウンドする場所が明らかになり、ARTを継続した人の試料からは、ウイルスのリザーバーについての手掛かりが得られると考えられる。

最初の参加者は、死亡するまでARTを継続した。血液試料ではHIVを検出できなかったが、この男性の死後に組織を調べたところ、生存するウイルスが26の組織のほぼ全てで見つかった。

ジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルティモア)の病理生物学者Janice Clementsは、このプロジェクトを「素晴らしい」と言う。「HIV感染者が死亡した後、存在するウイルスレベルを測定できるほど迅速に組織試料を採取できることは稀ですし、また死亡した人がARTを受けていたかどうか、普通は知ることはできません」と彼女は言う。一方Clementsの研究からは、HIVが脳に残存し、神経学的障害を引き起こす傾向が明らかになった。ほとんどの抗レトロウイルス薬が血液脳関門を通過できないからだ。Clementsらは今回の会合で、HIVと近縁なサル免疫不全ウイルス(SIV)が、抗レトロウイルス薬を投与されたマカク属のサルの脊髄で生存していて、薬剤の投与を中断すると、それが迅速に増殖し体内に広まっていくという最初の証拠を示した。「HIVは私たちが治癒させてきたどんなウイルスとも異なっています」と彼女は言う。

モントリオール大学(カナダ)のウイルス学者Nicolas Chomontは、リザーバーの一部であることが知られる組織でのHIVの挙動は複雑で、ウイルスの量は増減すると言う。「体内の至る所にリザーバーが存在するといわれるようになるかもしれません。そしてそれは事実かもしれませんが、脳に存在しているウイルスと足の親指に存在しているウイルスが同じなのかどうか、理解する必要があります」。

感染者の体内のウイルスの存在パターンを経時的に追跡するには、生存している人のリザーバーでHIVの痕跡を特定する必要があるが、これは非常に困難だ。「このような非常に稀な事象を明らかにするには、どこを調べるべきか知っている必要があります」と、ノースウェスタン大学(米国イリノイ州エバンストン)の細胞生物学者Thomas Hopeは言う。

今回の会合でHopeは、SIVに感染しているマカクに対しSIVに結合する抗体を投与し、陽電子放射断層撮影法(PET)で体内のSIVを可視化するという、新しいイメージング技術について報告した。

この手法により、SIV感染から数時間以内に、SIVが腸やリンパ節で粘膜細胞を介して広がることが明らかになった。Hopeは、SIVに感染しているマカクにARTを開始していて、薬剤が、どこで、どれほど迅速に、SIVレベルを低下させるかを明らかにしようとしている。また、ウイルスがリバウンドする場所も突き止めたいと考えていて、6カ月間のARTの後にそれを中断したマカクを調べることも計画している。

また別のチームは、HIV感染者を対象にした初のPETイメージング研究の1つを、2018年中に始める予定で、この研究では、(Hopeの研究とは別の)抗体を用いて血液中にHIVを検出できる人とそうでない人を調べる。この研究を率いるカリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)の感染症研究者Timothy Henrichは、ARTを受けている人が治療を中断すると何が起こるかを明らかにしたいと言う。また、Gianellaの研究チームも、「Last Gift」プロジェクトの参加者にPETイメージングを試したいと考えている。

(翻訳:三谷祐貴子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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