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ホモ・サピエンスの移動に新説を突きつけたイスラエルの化石

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180514

原文:Nature (2018-02-01) | doi: 10.1038/d41586-018-01261-5 | Israeli fossils are the oldest modern humans ever found outside of Africa

Ewen Callaway

アフリカ以外の場所で発見されたヒト化石の中で、これまでで最古のものが見つかった。この骨は、人類が18万年前にアフリカを離れたことを示唆している。

このほどイスラエルで見つかった上顎と歯は、アフリカ外のホモ・サピエンスを示す最古級の証拠と考えられる。 | 拡大する

ISRAEL HERSHKOVITZ, TEL AVIV U

2018年1月25日付のScienceで発表された論文1によれば、イスラエルの洞窟で発見された上顎と歯は、その地域で出土した他のヒト化石よりも5万年以上古いものであるという。この結果は、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)が、これまでの想定をはるかにさかのぼる約18万年前にアラビア半島まで広がっていた可能性を示唆している。しかし、その化石がホモ・サピエンスの一時的な進出を示しているのか、それとももっと長期的な拡散を示しているのかは、明らかになっていないという。

当初、ホモ・サピエンスは、20万年前にアフリカ東部に出現し、その後、小集団がアフリカを出て世界各地に進出して住むようになったと考えられていた。出アフリカの時期は約6万年前と推測されているが、それが正しければ、出アフリカ以前のものと推定された化石は、定着に至らなかった移動の痕跡ということになる。1920年代と30年代にイスラエルで発見された12万~8万年前の頭蓋骨などの遺物は、そうした移動の証拠の一部とされている。

しかし近年の発見により、この説明は不透明なものとなっている。2017年にモロッコで発見されたホモ・サピエンス様の化石2は30万年以上前のものであり、人類が、さらに古い時代に、ことによるとアフリカの別の地域で進化した可能性を浮かび上がらせた。中国南部で出土した歯3は、約12万年前の長距離移動を示唆している。そして、世界各地の集団のゲノムを比較した研究がさらなる混乱の種をまいている。アフリカからの人類の移動が1回かぎりだったことを示すものもあれば4,5、移動の波が繰り返されたことを示唆するものもあったからだ6Nature ダイジェスト2017年8月号「ホモ・サピエンスの歴史を書き換える化石を発見か」、2015年12月号「中国で出土した歯が示す、初期人類の旅」、2017年1月号「現生人類の分散を描く」参照)。

旅立ちは早かった

今回の上顎と歯に関する研究を率いた テルアビブ大学(イスラエル)の古人類学者Israel Hershkowitzと、ハイファ大学(イスラエル)の考古学者Mina Weinstein-Evronは、2000年代前半に、イスラエルの一連の洞窟を発掘するプロジェクトを立ち上げた。「それを『最初期の現生人類の起源の探索(Searching for the Origins of the Earliest Modern Humans)』と名付けました。これこそ、私たちが求めていたものでした」とWeinstein-Evronは話す。

研究チームは2002年に、ミスリヤ洞窟で顎の断片を発見した。この場所は、1920年代と30年代に12万~8万年前の人骨が発見された遺跡の1つ、スフール洞窟から、わずか数kmしか離れていない。研究チームは複数の異なる方法を用いて、その顎と歯の年代を19万4000~17万7000年前と推定した。

この化石について、チームのメンバーで、国立人類進化研究センター(スペイン・ブルゴス)に所属する古人類学者のMaría Martinón-Torresは、明らかにホモ・サピエンスのものだと断言する。歯の形状が、現代人にも古代人にも一致する一方で、当時ユーラシア各地に住んでいたネアンデルタール人に典型的な特徴は認められないからだ。

オックスフォード大学(英国)の考古学者Huw Groucuttによれば、推定された年代は間違いなさそうで、その化石はホモ・サピエンスだという。Groucuttは、イスラエルでホモ・サピエンスとみられる化石が見つかることにあまり驚いていない。彼は2015年に、中東の他の遺跡で発見された17万5000年前の石器が、アフリカ東部でホモ・サピエンスによって使われていたものと似ているとした論文を発表している7

未知との遭遇

Hershkowitzによれば、その顎と歯は、初期のホモ・サピエンスが中東に長く住んでいたことを示しているという。「中東は交通の要衝でした。人々は、大陸から別の大陸へと、この回廊地帯を通って行き交っており、ここには常に人が存在していたのです」。かつてこの地域では、人類がネアンデルタール人と出会い、混血が起こっていたと考えられる。その証拠としてHershkowitzは、混血が20万年以上前に起こっていたことを示唆した2017年の古代DNA研究8を挙げる。

Hershkowitzらの論文に関連する解説記事9を執筆した自然史博物館(英国ロンドン)の古人類学者Chris StringerとJulia Galway-Withamはその記事の中で、中東は、雨の多い時期は人類を引き寄せたかもしれないが、乾燥した時期の方が長かったため、「初期の人類にとって、安定した避難所というよりも『夢破れた大通り(boulevard of broken dreams)』であるときの方が多かったことだろう」と記している。

ストーニー・ブルック大学(米国ニューヨーク州)の考古学者John Sheaによれば、ホモ・サピエンスが進化を遂げた地域はこれまで考えられていたよりも広く、このたび見つかった化石は、イスラエルやアラビア半島各地がその地域の一部だったことを示している可能性があるという。「地政学的な理由から、イスラエルはアジアの一部と考えられがちですが、実はアフリカ北部と西アジアとの移行地帯なのです」とSheaは語る。ヒョウやライオン、シマウマなど、「そこに生息する、あるいは最近まで生息していたアフリカ・アラブ産の動物はたくさんいます。ホモ・サピエンスも、そうした動物の1例にすぎないのです」と彼は話す。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Hershkovitz, I. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.aap8369 (2018).
  2. Hublin, J.-J. et al. Nature 546, 289–292 (2017).
  3. Liu, W. et al. Nature 526, 696–699 (2015).
  4. Mallick, S. et al. Nature 538, 201–206 (2016).
  5. Malaspinas, A.-S. et al. Nature 538, 207–214 (2016).
  6. Pagani, L. et al. Nature 538, 238–242 (2016).
  7. Groucutt H. et al. Quat. Int. 382, 8–30 (2015).
  8. Posth, C. et al. Nature Commun. 8, 16046 (2017).
  9. Stringer, C. & Galway-Witham, J. Science 359, 389–390 (2018).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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