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ラブルパイル小惑星を1つにまとめている力

図は、コンピューターシミュレーション。2個の岩を重力に等しい力で上下に引き離そうとしても、レゴリスによる凝集力のために離れない(左)。重力をある程度上回る力で引っ張ると引き離される(右)。レゴリスはのりの役目をしている。

The Meteoritical Society

直径1.3kmほどの地球近傍の小惑星(29075) 1950 DAは、将来わずかながら地球に衝突する可能性がある。テネシー大学(米国ノックスビル)の惑星科学者Ben Rozitisらが今回、この小惑星の密度を観測結果をもとに計算したところ、この小惑星はがれきが緩く集まった「ラブルパイル(破砕集積体)型」の小惑星であることが分かった。さらに、自転による遠心力は重力よりも大きく、このがれきでできた小惑星が1つにまとまっているためには、重力、摩擦力に加えて凝集力(ファンデルワールス力)も働いている必要があることが示され、Nature 2014年8月14日号に掲載された1。ファンデルワールス力は、月のレゴリス(表土)の粒子間でも働いている。

これまでも、一部の小惑星、特に土砂と岩が集まってできているラブルパイル小惑星が1つにまとまっているのは、未検出の凝集力が働いているためと考えられてきた2。ラブルパイル小惑星の中には自転速度が遅いために、粒子間に働く重力だけで1つにまとまることができるものも確かに存在する。しかし、自転速度が速い場合は、重力よりも遠心力の方が大きくなるため、こうした小惑星はばらばらになってしまうはずだ。

1950 DAは、高速で自転している小惑星であり、2880年に地球近傍を通過する。その際、地球に衝突する確率は、4000分の1と見積もられている3

Rozitisらは、自転する小惑星が太陽光で加熱されて発する熱放射でその軌道が変わる効果を踏まえ、小惑星の形状、小惑星表面の熱特性、および軌道の観測結果を基に1950 DAの密度を計算した。その結果、1950 DAの密度は驚くほど小さく、水のわずか1.7倍であることが分かった。「この結果は、1950 DAにはたくさんのすき間があることを意味します。このため、1950 DAはラブルパイル小惑星と結論しました」とRozitisは話す。

1950 DAが高速で自転するラブルパイル小惑星であるなら、1つの塊にまとまっているためには、重力以外の力も働いている必要がある。1950 DAが重力だけでまとまっているならば、計算上は、約2.2時間に1回より速く自転できない。だが実際は、1950 DAの自転速度はそれより速く、2.1時間に1回である。Rozitisらは、1950 DAで働いている凝集力の単位面積当たりの大きさは、手のひらに置かれた100円玉が手のひらに及ぼす圧力の半分ほどと見積もった。

Nature同号で今回の研究についてのNews & Viewsを執筆したコロラド大学ボールダー校(米国)の航空宇宙工学者Daniel Scheeresは、「小惑星を月の軌道へ引っ張ってきて調べる米航空宇宙局(NASA)の探査計画(Nature ダイジェスト 2013年10月号9ページ)や、小惑星の資源採掘計画を発表している民間企業にとって、今回のような凝集力の解明は大いに役立つ可能性があります」と指摘する。

今回明らかになった凝集力に関する知見は、地球に向かっている小惑星が発見された場合にも重要になるだろう。小惑星の軌道を変える方法を検討する際には、凝集力も考慮する必要があるからだ。1998年に公開された米国のSF映画「アルマゲドン」では、地球に向かってくる小惑星を爆破によってばらばらにしたが、そうした方法よりも小惑星を新たな軌道に徐々に誘導する方が安全な選択肢といえるかもしれない。Rozitisは、「小惑星に直接働きかけることは賢明な方法とはいえません」と話す。

地球に向かう小惑星の軌道をそらせる有望な方法の1つに「重力トラクター」がある。「重力トラクター」とはある種の宇宙船で、この宇宙船は小惑星に沿って飛び、宇宙船の重力場で小惑星を引っ張って新たな軌道に導く。Rozitisは、「重力トラクターは、小惑星を爆破してばらばらにするよりも良い方法です。小惑星を爆破するとき、この凝集力がどのように影響するかはまだ正確に分かっていないからです」と話す。

翻訳:新庄直樹、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141003

原文

Near-Earth asteroid held together by weak force
  • Nature (2014-08-13) | DOI: 10.1038/nature.2014.15713
  • Alexandra Witze

参考文献

  1. Rozitis, B., MacLennan, E. & Emery, J. P. Nature 512, 174–176 (2014).
  2. Scheeres, D. J. et al. Icarus 210, 968–984 (2010).
  3. Farnocchia, D. & Chesley, S. R. Icarus 229, 321–327 (2014).