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ガイア衛星打ち上げへ

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140124

原文:Nature (2013-10-03) | doi: 10.1038/502022a | Europe’s star power

Devin Powell

欧州宇宙機関(ESA)のガイア衛星が、これまでで最も高い精度で宇宙の地図を作成するミッションに着手しようとしている。

ガイア計画(イメージ図)は10 億個の星の位置を正確に測定するミッションである。

Credit: D. DUCROS/ESA

ルンド天文台(スウェーデン・スコーネ)には、19世紀に作られた真鍮製の望遠鏡がある。あちこち壊れているし、もはや現在の科学研究に利用できるものではないが、その望遠鏡は、若きLennart Lindegrenの心を強く捉えた。

精巧で、かつては最先端であったこの技術にLindegrenが夢中になったのは、今から40年も前、ルンド天文台の大学院生だったときのことだった。当時の天文学者が星の運動を追跡し、時間を測定することを可能にしたこの望遠鏡には、精巧な機械式ストップウオッチが付いていた。もともとは、競走馬のタイムを計るために発明されたものであったという。望遠鏡には、角度を調節するための金属製の大きな車輪も付いていた。「私は、この望遠鏡の美しさに魅了され、修理して再び使えるようにしたいと思ったのです」と、Lindegrenは話す。彼は今、ルンド天文台のスタッフである。

どうせなら、日時計に恋をした方がよかったかもしれない。天体の位置と運動の地図を作る位置天文学は、古代バビロニアと中国にルーツを持ち、かつては天文学の主要な関心事であったが、1970年代にはすっかり時代遅れの分野になっていたからだ。地上からの観測では精度が頭打ちになっていたため、この分野の天文学者のほとんどが他の問題に移ってしまっていた。「位置天文学は発展の見込みがなく、若手科学者が志すような分野ではないと考えられていたのです」とLindegren。

彼はその後、望遠鏡の修復は断念したが、位置天文学を復興させることは決して諦めなかった。天文学者がより良い星図を手にすることができれば、銀河系の進化の過程や、宇宙の質量の大半を占めるダークマター(暗黒物質)の組成などの根本的な問題の解決に役立つ可能性があるというのが彼の主張である。位置天文学が限界に来てしまったのは、地球の大気の乱れが星からの光を微妙に歪め、測定の精度に限界を設けているからである。ならば、観測機器が地球の大気の影響を受けないように、宇宙空間に打ち上げてしまえばよい。

Lindegrenや、彼と同じ志を持つ科学者によるこの提案が、間もなく実を結ぼうとしている。欧州宇宙機関(ESA)が、位置天文学衛星ガイアを打ち上げるのである。このミッションを実現させるためには、多くの妥協と、13年に及ぶ年月と、約10億ユーロ(1400億円)の費用を要した。この衛星は、打ち上げから5年間観測を行い、これまで地球近傍の250万個の星について作成されていた高精度地図の範囲を、銀河系の端、あるいはその向こうに分布する星にまで広げて、少なくとも10億個が含まれるようにする予定だ。そのうち約1000万個の星については、完全に三次元の地図を作成することになる。ガイア衛星は、これらの星の天球上の位置を測定するだけでなく、地球からの距離についても誤差1%未満の精度で測定するのだ。現時点では、この精度で位置が特定されている星は数百個しかない。

このミッションの前任のプロジェクト・サイエンティストであったブリストル大学(英国)の天文学者Michael Perrymanは、楽観的である。「ガイア計画はとてつもないプロジェクトであり、位置天文学を大きく変えることになります。測定を行う星の数も、測定の精度も、以前とは段違いです」と彼は言う。

星の地図を作る

これまでにない精度の観測を可能にするのは、第一にガイア衛星のデジタルカメラによるところが大きい。このカメラは、市販のカメラに搭載されているものとよく似たセンサーで光を集めるが、その106個のセンサーは900メガピクセル以上の解像度を提供する。ちなみに、NASAのハッブル宇宙望遠鏡のメインカメラのセンサーは2個で、その解像度は16メガピクセルより少し大きい程度である。

第二に重要な役割を果たすのが、星からの光をカメラに導き入れる2台の望遠鏡だ。この2台は、広い視野を得るために106.5度離れた方向を向いている。ガイア衛星は6時間で1回のペースで自転しながら、何カ月間も同じ星々を見渡している。それぞれの星は約70回撮影され、5年間で、ハッブル宇宙望遠鏡が軌道に投入されてからの21年間に生成した画像データ量の約2倍になる。

全てのデータが分析されると、個々の星に関する1対の座標が得られ、天球の中での位置が6マイクロ秒角(1マイクロ秒角は36億分の1度)という小さな誤差で決定される。6マイクロ秒角とは、月面に置いた小さいコインを地球から観測したときの見かけの直径ほどである。ガイア衛星が作成する星表は、現代最高の星表より何百倍も高精度になるはずだ。今から2000年以上前に、古代ギリシャのニカイア生まれの天文学者ヒッパルコスの裸眼での観測に基づいて作成された西洋最古の星図と比べれば、何百万倍も優れているに違いない。

SOURCE: CSIRO

星の位置を三次元で決定するためには、さらなる測定が必要である。それには、視差と呼ばれる幾何学的な現象(「視差効果」参照)を利用する。太陽の周りを公転する地球から星を観測すると、星の位置が1年を周期として変化するように見え(年周視差という)、地球に近い星ほど、年周視差は大きくなる。高速で走っている車から外を見るとき、道端の木々が猛スピードで過ぎ去ってゆくのに対して、遠くの山はほとんど動かないように見えるのと同じである。地球の公転軌道の大きさは分かっているので、星の左右の動きを正確に測定することができれば、単純な幾何学により星までの距離を計算できる。

だが、大気の乱れはこうした努力を台無しにする。地上に設置された現代最高の可視光望遠鏡でさえ、年周視差を観測できるのは、地球からの距離が約100パーセク(326光年)の星までである。一方、大気の影響を受けにくい電波望遠鏡では、もっと遠くまで見ることができるが、強い電波を発する天体しか観測できない。これに対し、大気の外にあるガイア衛星は、地球と太陽の両方に対して固定された安定な軌道に投入すれば、約1万パーセク離れた星の年周視差まで測定できるはずである。

高精度の観測ができるガイア衛星は、天球の中での星の「固有運動」についても、より遠くまで測定できるはずである。固有運動は、星が、視線に対して直角方向に実際に運動することで生じるもので、地球の公転運動による見かけの動きに重ね合わされた、横方向への安定した運動として現れる。

上述に加え、ガイア衛星はそれぞれの星が発する光のスペクトルの変化を利用して、星が地球に近づいたり遠ざかったりする速度も測定することができる。これらの能力を駆使して、三次元空間における星の位置と速度を表すための完全な情報を得る予定である。

生まれ変わった位置天文学

ガイア衛星は、実は2番目の高精度宇宙位置天文学衛星である。というのも、1989年にESAが位置天文学衛星として打ち上げた、精度視差収集衛星ヒッパルコスによって、この手法の有効性が実証されていたからだ。5億8000万ユーロをかけて作られたヒッパルコス衛星は、打ち上げ直後にトラブルに見舞われた。ブースターロケットの不調により、予定とは異なる軌道に入ってしまったのである。それでもヒッパルコスは観測を行い、十分に役目を果たした。1993年のミッション終了までの間に、ヒッパルコスは約11万8000個の星までの距離を明らかにした。そのうちの約400個の星までの距離は1%の誤差で測定された。地上からこの精度で距離を測定できていた星は、それまでは50個しかなかった。ヒッパルコス星表は、今日でも最高の星表であり続けている。

しかしながら、ヒッパルコス計画では比較的近い星ばかり測定していたため、その星表は、科学の革命というよりは進歩という程度の位置付けであった、とカリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の天文学者Shrinivas Kulkarniは言う。「ヒッパルコス計画は、星についての私たちの理解が基本的に正しいことを示しました」。ニールス・ボーア研究所(デンマーク・コペンハーゲン)の名誉天文学者で、このミッションの最初の青写真を描いたErik Høgは、「ヒッパルコス計画の成功は、原理の正しさを証明し、位置天文学を大いに活気づけました。人々は、このプロジェクトの周りに集まることができました」と言う。

けれども彼らは、ヒッパルコスの後継機を宇宙に送り出すことがなかなかできなかった。先進的な位置天文学ミッションが次々と提案されては、予算オーバーを理由に破棄された。その顕著な例が、NASAの宇宙干渉計ミッション(Space Interferometry Mission:SIM)であった。このミッションは意図的に焦点を絞っていて、地球から非常に近いところにあるわずか1万個の星の位置を正確に特定することに集中する代わりに、こうした星が、周りを軌道運動する地球ほどの大きさの惑星の重力によってふらつく様子を検出する予定だった。けれどもSIMは数度にわたって延期され、当初は6億ドル(約600億円)とされていた予算も膨れ上がった。NASAがこのミッションに数億ドルもの開発費を投じてきたにもかかわらず、さらに12億ドルの費用を要するという見積もりが出たため、SIMは2010年に中止になった。「そんな資金はありませんでした」と、NASAジェット推進研究所(米国カリフォルニア州パサデナ)の天文学者でSIMのプロジェクト・サイエンティストだったMichael Shaoは言う。

一部の研究者は、SIMやその他の衛星がつまずいたところも、ガイア衛星なら乗り越えられるだろうと言う。人工衛星を建造する際のスタイルが、欧州と米国では違っているからである。ヴァージニア大学(米国シャーロッツビル)の天文学者Ken Seidelmannは、「欧州のシステムでは、開発に際し科学者が希望する仕様を書き出すと、請負業者が、できるだけ安くそれを建造する方法を考えるのです」と説明する。この方法では、ミッションの能力が制約されることもある。「米国では、科学者が開発にもっと深く関わる傾向があります」と彼は言う。そして、科学者が目標について妥協することを拒むなら、開発費はうなぎ上りに上がっていく。

ガイア衛星の場合、2000年にESAがこのミッションを承認したときの予算を逸脱しないよう、いくつかの点で性能を落とさざるを得ず、その能力は当初の設計を大幅に下回るものになってしまった。なかでも大きかったのは、視差の測定精度を予定の半分にしたことだった。その結果、ガイアが取り組むはずだった問題のいくつかは、手の届かないものになってしまった。例えば、小惑星などの潜在的に危険な地球近傍天体の軌道を、次の世紀までに正確に予測できるだけの精度で追跡することは不可能になった。実はこれは、英国科学大臣の特別調査委員会が最優先事項として掲げていた目標であった。視差の測定精度の引き下げを受け、2000年から科学チームを率いてきたPerrymanは、2006年にこのプロジェクトから降りた。「科学的根拠に基づかずにプロジェクトの目標を引き下げる決定にひどく失望したからです」とPerryman。

けれどもガイアは生き延びて、早ければ2013年11月20日にも打ち上げられる予定である(訳註:その後、打ち上げ予定は2013年12月19日に延期されている)。ミッションから離れ、これまで断念されてきた数々の宇宙位置天文学ミッションのことを思うPerrymanは、今では、ガイア計画が大きな成果を挙げることを期待している。

銀河系へのまなざし

ガイア衛星は、ヒッパルコス衛星が始めた宇宙の国勢調査を引き継ぎ、その範囲を拡大する。これにより、新たに数百万の連星系と数万個の褐色矮星(質量が小さいため、軽水素の核融合を起こすことができず恒星になれなかった天体)が発見されると考えられている。地球に比較的近い恒星の周りで、木星サイズの惑星も1000個ほど発見できるはずである(厳密にいえば、発見できるのは惑星そのものではなく、惑星が母星に引き起こすふらつきである)。より地球に近いところでは、ガイアの視野を横切ると考えられる数十万個の太陽系内小惑星に関するデータも得られると期待されている。

PICTURE: S. BRUNIER/ESO; GRAPHIC SOURCE: ESA

けれども、ガイア衛星の真価が発揮されるのは、位置天文学の範囲を銀河系全体に広げるときだ(「ガイア衛星の観測範囲」参照)。ESAの欧州宇宙技術研究センター(オランダ・ノールトウェイク)のシステム科学者でガイアの副プロジェクト・サイエンティストであるJos de Bruijneは、「私たち独自の科学的な目標は、銀河系の構造と力学と歴史を解明することにあります」と言う。

基本的な構造はすでに分かっていると彼は言う。銀河系は目玉焼きのような形をしている。その中心には星が球状に集まった「バルジ」があり、バルジの周囲には星が円盤状に集まった「ディスク」がある。ディスクは端に行くほど薄くなり、銀河系の渦状腕はここにある。さらにディスクの外側には、古い星がまばらに集まった大きな球状の「ハロー」があり、銀河系を包んでいる。けれども、これらの構造がどのようにして、どのような順序で形成されたのか、まだ解明されていない(Nature 2012年10月4日号 24〜27ページ参照)。ガイア衛星は、星の組成と明るさを測定することで、1つの重大な手掛かりを提供してくれるはずだ。そのデータは、多くの星が形成された時期を初めて明らかにし、天文学者が銀河系のさまざまな部分の年齢を解明するのに役立つだろう。

ガイア衛星から期待される手掛かりがもう1つある。それは、星の運動の測定から得られるデータだ。天文学者は、この測定値に基づいて過去を推定し、銀河系の進化の過程を明らかにすることができる。非常に小さな誤差がみるみるうちに膨れ上がって大きな不確実性になるため、この作業は困難である。「どこまで時間をさかのぼることができるかは、まだ分かりません」とLindegrenは言う。けれども、ガイア衛星の観測精度の高さは、これまでよりはるかに古い時代までさかのぼることを可能にするはずだ。

ガイア衛星による測定は、銀河系の歴史における多くの荒っぽい出来事の解明にも役立つはずだ。銀河系は、他の小さい銀河を共食いすることで成長してきた。銀河系の重力が、近くにやってきた小さい銀河を捉えて、これを細長く引き伸ばし(恒星ストリーム)ながら、さまざまな角度で銀河中心に引き寄せるのである。2002年には、いて座矮小楕円銀河という死にかけの天体から数十億年前に引き出された恒星ストリームが確認されている。オハイオ州立大学(米国コロンバス)の天文学者Andrew Gouldは、「銀河系の周囲には、他にもいくつか恒星ストリームがあり、銀河系の進化に関する情報を記録しています。ガイア衛星は、こうした恒星ストリームを発見することができるでしょう」と話す。そして、星の運動の測定値を用いて、小さな銀河がどのように解体されていったかを明らかにするだろう。

星の運動を正確に知ることができれば、銀河系の全体を満たす、目に見えないダークマターの分布を明らかにするのにも役立つはずだ。ダークマターは光を発しないが、重力により星を引っ張って摂動を引き起こすため、その影響はガイア衛星の観測データに表れるはずである。天文学者はこれらを利用して、ダークマターがどのような塊を形成しているかを調べたり、理論家が提案しているようにディスクを形成しているのかどうかを調べたりすることができるだろう。

ガイア衛星がどのような発見をするにしても、1つだけ確実に思われることがある。2021年に発表予定のガイア星表をしのぐ星表は、その後数十年は出てこないということだ。ESAは、将来のミッションとしてSIMに似た惑星探索衛星の打ち上げを考えているが、ガイアの位置天文学ミッションを引き継ぐものはまだ選定していない。「15年後に何かを実現したいなら、今から考え始めなければなりません。けれども、どの方向に進むのがベストなのか、まだ分からないのです」とLindegrenは言う。精度を大幅に上げることは技術的に非常に難しい。それに比べ、20年後にガイアと同じ仕様の衛星をもう1機打ち上げるのは簡単だ。20年経てば、星の位置はかなり変わるので、その位置と速度をさらに正確に捉えることができるはずだ。

現在提案されているもう1つの後継ミッション候補は、銀河系の中でガイアには見ることができない部分を調べるというものである。ガイアは可視光で観測を行うため、銀河系のバルジとディスクの遠方部分はダストに隠れてしまい見ることができない。それに対し、赤外光で観測を行う衛星ならば、この部分を何の問題もなく調べることができる。

もしかすると、ガイア衛星自身が、こうした議論を根底から覆すこともあるかもしれない。位置天文学の精度が高くなるにつれ、完全に予想外のものが見つかる可能性が高くなるからだ。そうなれば非常におもしろい。「科学はしばしば精密な測定によって前進してきました。時には、既存の理論から逸脱した測定値が得られ、その値に深い意味があることが分かる場合もあるのです」とKulkarniは言う。

(翻訳:三枝小夜子)

Devin Powell は、シンガポール在住のフリーライター。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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