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太陽の「彩層」に目を凝らす宇宙望遠鏡

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130916

原文:Nature (2013-06-20) | doi: 10.1038/498284a | NASA sets sights on the Sun

Alexandra Witze

太陽表面とコロナの間にある「彩層」を詳しく調べる観測衛星IRISが打ち上げられた。

太陽観測衛星「IRIS」は、太陽の「彩層」を詳しく調べる。この太陽の画像は、太陽観測衛星「ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー」によって撮影された。

Credit: GODDARD SPACE FLIGHT CENTER SCIENTIFIC VISUALIZATION STUDIO/SDO/NASA

太陽は、天文学者の関心を強く引きつけてきた。太陽の表面である「光球」には多数の黒点があり、力強いフレアを噴き出す。その外側に広がる「コロナ」は揺らめき、そこには磁力線に沿った糸のようなコロナ・ループも見える。この2つの目立つ領域の間にある、厚さ約1700kmの層が「彩層」だ。これまでこの彩層が注目を浴びることは少なかった。

しかし、彩層が注目される時がやってきた。米航空宇宙局(NASA)は6月27日、IRIS(Interface Region Imaging Spectrograph=境界領域撮像スペクトログラフ)という、1億8100万ドル(約180億円)をかけた太陽観測衛星を打ち上げた。IRISが搭載する望遠鏡は、紫外スペクトルをとらえ、彩層での質量とエネルギーの流れを追うために設計されている。太陽表面の温度は約6000℃だが、コロナでは100万℃以上に達する。太陽表面からコロナにかけて温度がどのように急上昇しているのかも含め、光球とコロナがどのように関係しているのかを解明するのがIRISの目的だ。ロッキード・マーチン太陽・宇宙物理学研究所(米国カリフォルニア州パロアルト)のIRISの科学研究リーダーであるBart de Pontieuは、「彩層は、太陽というパズルの『行方不明のピース』なのです」と話す。

彩層を調べる計画は、これまでにもあった。ドイツのマックス・プランク太陽系研究所の太陽望遠鏡「サンライズ2」は、気球を使って高い高度から太陽を観測するもので、北極圏での5日間の飛行の後、2013年6月17日に着陸した。しかし、IRISは従来のほとんどの計画よりも空間分解能と時間分解能が高く、その分解能で彩層を特に重点的に調べることになっている。

IRISは、5秒ごとに画像を撮影し、1秒から2秒ごとにスペクトルを調べ、太陽の上の240kmほどの大きさの対象まで見分けることができる。IRISの科学研究チームの一員で、米国立大気研究センター(NCAR;コロラド州ボールダー)に所属するScott McIntoshは、「これほどの分解能があれば、驚くべきダイナミクスを見ることができるでしょう」と期待する。

この分解能を使えば、2007年に見つかった、指のような形の小さなプラズマのジェットを詳しく調べることができる。このジェットは「2型スピキュール」と呼ばれる。de Pontieuらは2010年、日本が打ち上げた太陽観測衛星「ひので」と、NASAの太陽観測衛星「ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー」(SDO)が得たデータを使い、2型スピキュールの振る舞いを追った。その結果、2型スピキュールは、彩層を通じて短時間で質量とエネルギーを運んでおり、コロナ加熱問題における重要な要素であるらしいことがわかった。ところが、この2型スピキュールは、誰も予想しなかったほど急速に現れ、数分で消えてしまう(B. de Pontieu et al. Science 331, 55-58; 2011)。ロッキード・マーチン社(米国メリーランド州ベセスダ)の太陽物理学者で、IRISの研究責任者(PI)であるAlan Titleは、「この新たな現象が、太陽全体にわたって非常に重要であることが、突然、明らかになったのです」と話す。

IRISの口径20cmの望遠鏡と撮像スペクトログラフ(分光写真器)は、スピキュールのように急速に変化する現象を調べられるよう設計されている。計画どおり、IRISを搭載したペガサスロケットを抱いた航空機は、カリフォルニア州南部のバンデンバーグ空軍基地から離陸し、空中でロケットを切り離した。続いて、ペガサスロケットがIRISを宇宙空間に押し上げた。IRISは、地表から660km上空の極軌道を、常に太陽を向きつつ、飛行する。IRISの視野は円板として見た太陽の面積の約1%と狭く、彩層の小さな部分に向けられている。

IRISは7月17日にファーストライト(初受光)を迎え、観測データも届き始めている。「IRIS計画チームは、まずは彩層に関する長年の疑問のいくつかに答えを出すことから、観測を開始するつもりです」とMcIntoshは話す。太陽プラズマが彩層の中を上昇するとき、また、太陽プラズマが下降し、その過程で冷えて密度が上がるとき、どれだけの光子が放出されるのかといった問題だ。

Titleは、「太陽物理学者たちは、この10年間に行われた太陽のシミュレーションモデルの研究で、彩層の観測計画から得られるデータを、モデルに基づいて分析することができるという自信を得ました。それが、IRISが今、打ち上げられる理由の1つです」と説明する。IRIS計画のチームには、オスロ大学(ノルウェー)のMats Carlssonなどの太陽シミュレーションモデルの研究者が加わっている。Carlssonは、「彩層の上層の加熱について私のモデルが適切な値を予測しないのはなぜなのか、IRISは教えてくれるでしょう。シミュレーションと観測結果を突き合わせることにより、こうした問題が解明できると思います」と話す。

IRISはちょうどよい時期に観測を始める。太陽は現在、11年周期の活動の極大期にあるからだ。ただし、今回の極大期は、前回の極大期に比べるとかなり穏やかだ。NASAゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州グリーンベルト)の太陽物理学者Dean Pesnellは、「太陽活動の1つの指標は、太陽嵐によって放出されて地球に届く放射の量ですが、それを見ると、現在の極大期は1996年の極小期とほぼ同じくらいにすぎません」と言う。

de Pontieuは、「IRISは、太陽活動の極大期に観測をする必要があるというわけではありません。しかし、2年間の計画期間中に太陽の活動が盛んになれば、それは歓迎すべきことです」と話す。計画の科学的目標の1つは、太陽表面の曲がった磁力線が、質量とエネルギーの大量放出をどのようにして引き起こすのか、より詳細に解明することだ。IRISは、こうした大きなフレアをコロナの中まで追跡でき、フレアのライフサイクルの最初期の各段階を調べることにより、フレアの全体像を明らかにすることができる。

もう1つ、今回の計画のタイミングがよい点が、もう1つある。2013年11月、ISON彗星が太陽に非常に接近すると予測されている。IRISは、ISON彗星と太陽の接近を観測するためには最良の位置にあり、他の太陽観測計画とともに予期しない現象を見つけるかもしれない。これには前例がある。2011年12月、ラブジョイという彗星が、太陽のコロナの中を通過し、その波打つ尾が太陽の磁場と相互作用する様子は、物理学者たちを驚かせた。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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