最新Review
Nature Reviews Chemistry に掲載された Review Article また Perspective について、その概要を日本語で紹介しています。
Review Article: 量子電磁力学的な光-物質相互作用の記述から新しい分光学まで
From a quantum-electrodynamical light–matter description to novel spectroscopies
doi: 10.1038/s41570-018-0118
量子電磁力学(QED)は、化学分野で実験分光学を補完する理論的枠組みとしてこれまでで最も完全なものである。QEDは複雑であるため、実際に適用できるようにするにはいくつかの近似が必要である。本Reviewでは、一部の近似が破綻するとどのように光–物質相互作用の理解に疑問が生じるかに注目し、新しい理論展開がこうした近似問題の克服にどう役立つかについて論じる。
Review Article: 触媒反応のための分子機械
Molecular machines for catalysis
doi: 10.1038/s41570-018-0117
複雑な分子機械を用いて生物系の能力を模倣して化学反応を制御する合成システムを設計することは、ナノテクノロジーの長年の夢である。本Reviewでは、生物系の複雑さを模倣し始めたばかりの触媒設計において、分子スイッチングと分子運動の制御の進歩がどのように利用されているのかについて論じる。
Review Article: 増大するバイオインターフェース材料の動的・機能的複雑さ
The increasing dynamic, functional complexity of bio-interface materials
doi: 10.1038/s41570-018-0120
さまざまな外部刺激に対して効率的に応答する天然系から着想を得たバイオインターフェース材料は、生物学的存在と材料表面の間の分子界面を動的に調節できる。今回Gomesたちは、細胞挙動、生物付着、特に医療用のオンデマンドデバイスの作製に関する知見をもたらす可能性があるバイオインターフェース材料の進歩について述べている。
Review Article: 主流となる原子核の量子効果
Nuclear quantum effects enter the mainstream
doi: 10.1038/s41570-017-0109
原子論的シミュレーションの大半は、原子核を古典的に扱う近似に基づいている。これによって、大きな誤差が生じ、重要な物理的影響を捉え損なう可能性がある。本Reviewでは、古典的シミュレーションに匹敵する計算コストで量子力学的な原子核のモデリングを可能にする最近の進展について報告している。
Review Article: 平面5配位炭素
Planar pentacoordinate carbons
doi: 10.1038/s41570-018-0114
平面4配位炭素の理論予測と実験的実現を基に、平面5配位炭素(ppC)中心を持つ化学種の理論予測が大きく進歩した。本Reviewでは、Cal5+などの単純なクラスターから2D物質中の複雑なppCまで、これまでに予測されたppC含有化学種とその設計原理についてまとめる。
Review Article: 小分子の汎用反復合成に向けて
Towards the generalized iterative synthesis of small molecules
doi: 10.1038/s41570-018-0115
反復合成法は、ペプチド、核酸、糖の合成と研究に革命をもたらした。本Reviewでは、有機小分子の大半を合成できるビルディングブロック法を開発するという究極の目標に向けて、そうした反復合成の適用範囲を広げることが可能か、またどのような方法で可能になるのかについて検討する。
Review Article: 電子豊富なポリオキソメタレートの合成と構造と応用
Synthesis, structures and applications of electron-rich polyoxometalates
doi: 10.1038/s41570-018-0112
ポリオキソメタレート中の金属が最高酸化状態である必要はない。実際、ポリオキソメタレートは還元型で存在する可能性があり、異なる数種の金属を典型的なさまざまな構造体に組み込むことができる。本Reviewでは、こうした多核錯体の合成や特性評価とともに、注目される触媒的、電子的、生物学的特性について説明する。
Review Article: 進化するフィトカンナビノイドの科学
The evolving science of phytocannabinoids
doi: 10.1038/s41570-017-0101
カンナビノイド受容体と結合する植物由来リガンドであるフィトカンナビノイドの一部は、有望な医薬品となる。本Reviewでは、他の方法では実用的な規模で得ることができない化合物の研究を可能にするために、フィトカンナビノイドと代謝物の化学合成について取り上げている。薬剤候補の入手可能性は政策問題によっても阻まれるが、ここでは、所有、使用、規制に関しても論じる。
Review Article: 水素生成とCO2還元用の低次元触媒
Low-dimensional catalysts for hydrogen evolution and CO2 reduction
doi: 10.1038/s41570-017-0105
水や二酸化炭素の電気化学的な酸化と還元は、エネルギーの放出と貯蔵を伴う。本Reviewでは、電極触媒的および光触媒的な水素生成とCO2変換を目的とした、低次元材料とそのファンデルワールスヘテロ構造体の設計と使用における最新の進展について報告する。
Perspective: グラフェンの精密合成と大量生産
Precision synthesis versus bulk-scale fabrication of graphenes
doi: 10.1038/s41570-017-0100
グラフェンやナノグラフェンを作製するために、これまで数多くの方法が開発されてきた。しかし、こうした魅力的なグラフェン材料の大量生産はどの程度実際的なのであろうか? 本Perspectiveでは、グラフェン作製の最近の進展と大量生産に移行できる可能性について論じる。
Perspective: 金属–配位子協同触媒作用を求めて自然から着想を得る
Natural inspirations for metal–ligand cooperative catalysis
doi: 10.1038/s41570-017-0099
金属–配位子協同触媒反応では、錯体の金属部分と配位子部分の両方が基質と複雑に相互作用する。 協同触媒作用は、ヒドロゲナーゼ、乳酸ラセマーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼといった酵素の機構の要となっている。本Perspectiveでは、これらの酵素について解説するとともに、こうした精巧な天然触媒から着想を得て模倣された小分子について述べる。
Perspective: 光駆動分子モーターによる動的な機能制御
Dynamic control of function by light-driven molecular motors
doi: 10.1038/s41570-017-0096
光で駆動される人工の分子スイッチや分子モーターは、触媒系から生体系まで、さまざまな分子系の動的制御を可能にする。本Perspectiveでは、この分野を概念実証段階から多種多様な実用化段階に移行させるために取り組むべき課題を探っている。
Review Article: タンデム多接合型ハロゲン化金属ペロブスカイト太陽電池
Metal halide perovskite tandem and multiple-junction photovoltaics
doi: 10.1038/s41570-017-0095
バンドギャップを調節できるペロブスカイトを多接合太陽電池に組み込むことで、高効率光起電力技術を実現できる。本Reviewでは、タンデム多接合型ペロブスカイト太陽電池における最新の進展を報告するとともに、この技術によってシリコン系太陽電池を大きく超えるエネルギー変換効率が実現される見通しを検討している。
Review Article: 酸素還元反応の分子電極触媒
Molecular electrocatalysts for the oxygen reduction reaction
doi: 10.1038/s41570-017-0098
酸素還元反応の電極触媒は、燃料電池などのエネルギー技術における重要な要素である。分子触媒の研究によって機構的な知見が得られ、活性とエネルギー効率が高いロバストな系の開発が促進される。本Review では、溶液中や、電極に固定した状態で機能する最先端の金属錯体について述べる。
Perspective: ブルーエネルギーの大規模ハーベスティングへの新たな道
New avenues for the large-scale harvesting of blue energy
doi: 10.1038/s41570-017-0091
塩分勾配からクリーンかつ再生可能な方法でブルーエネルギーをハーベスティングできる。この非断続的なエネルギー源の大規模な実用化は、現行のハーベスティング技術の非効率性などの特定の課題によって制限されている。本Perspectiveでは、ナノ流体工学によって、膜が化学ポテンシャルを電位にうまく変換できるようにする方法を説明する。
Review Article: 力で化学反応を操作する
Steering chemical reactions with force
doi: 10.1038/s41570-017-0083
機械的な力を代替エネルギー源として用いて、化学的な反応性を高めることができる。本Reviewでは、最新の単一分子測定について報告するとともに、こうした測定によって現在の単結合メカノケミストリーの理解がいかに深まったかについても報告する。
Perspective: 分子電極触媒の知的設計に向けて
Towards an intelligent design of molecular electrocatalysts
doi: 10.1038/s41570-017-0087
再生可能エネルギーの課題に関連する酸化還元反応は、分子電極触媒を介して行われうる。こうした触媒の知的設計には、触媒の系統的なベンチマーキングが必要である。本Perspectiveでは、触媒のターフェルプロットの解析例を提示し、性能や機構に対する「構造による影響」と「空間による影響」を指摘する。この方法は、ボルケーノ(火山型)プロット使用時に特有の過度の単純化よりも望ましいものである。
Perspective: 汎用性の高い溶媒としてのヘキサフルオロイソプロパノール
Hexafluoroisopropanol as a highly versatile solvent
doi: 10.1038/s41570-017-0088
溶媒の適用を再検討することは、一般的には珍しいことかもしれない。しかし、ヘキサフルオロイソプロパノールは特異な特性を示し、広範な化学分野で適用されていることから、こうした再検討が有望かつ興味深い取り組みとなっている。
Review Article: 一電子移動がきっかけとなって生じるラジカルカスケード反応
Radical cascade reactions triggered by single electron transfer
doi: 10.1038/s41570-017-0077
本Reviewでは、一電子移動によって開始されるカスケード反応について検討している。開殻中間体は、反応性が高いだけでなく、高い選択性で反応する。したがって、単純な出発物質から複雑な高価値生成物を生成するカスケード反応では、理想的な中間体となる。
Review Article: Cas9の化学とCRISPR関連タンパク質群
The chemistry of Cas9 and its CRISPR colleagues
doi: 10.1038/s41570-017-0078
CRISPR–Cas系は、特定の核酸配列をプログラマブルに切断できるので、精密ゲノム工学に用いられてきた。本Reviewでは、単一エフェクターCRISPR–Casタンパク質による干渉の化学と分子機構について検討している。
Review Article: アプタマーの発見とアプタマー技術の解析
Analysis of aptamer discovery and technology
doi: 10.1038/s41570-017-0076
アプタマーは、特定の分子標的に結合するよう進化できる核酸分子であり、センサーやアクチュエーターなどの技術に応用されている。本Reviewでは、アプタマー研究の最初の25年間における重要な解析結果について報告する。
Perspective: 平面状ホウ素クラスターからボロフェンやメタロボロフェンへ
From planar boron clusters to borophenes and metalloborophenes
doi: 10.1038/s41570-017-0071
ホウ素原子の特異な電子的特性によって、ホウ素クラスターがさまざまな構造配列をとるようになるが、その大半は2Dである。本Perspectiveでは、金属ドーピングによってホウ素系2D構造体の範囲を拡大できる可能性と、得られたクラスターを利用したメタロボロフェンの概念化について検討している。
Perspective: アルキル求電子剤間での立体特異的クロスカップリングと立体収束的クロスカップリング
Stereospecific and stereoconvergent cross-couplings between alkyl electrophiles
doi: 10.1038/s41570-017-0065
立体制御されたC–C結合を求電子剤のクロスカップリング(cross-electrophile coupling)によって形成する方法は、従来のクロスカップリング法を補完する代替的方法をもたらす。本Perspectiveでは、ニッケル触媒による求電子剤の不斉クロスカップリング反応の最近の進展を概説する。立体収束的クロスカップリングと立体特異的クロスカップリングの両方の例を検討し、機構的詳細を明らかにしている。
Perspective: フェロセンとその誘導体の医薬化学
The medicinal chemistry of ferrocene and its derivatives
doi: 10.1038/s41570-017-0066
含フェロセン化合物は、ユニークな特性があるため多くの病気の治療に役立つ。最も有名な薬剤候補である抗マラリア薬フェロキンと抗がん剤フェロシフェンは、20年以上にわたって研究されてきたが、まだ臨床承認は得られていない。本Reviewでは、含フェロセン薬剤の設計と臨床応用に持ち込む際の課題について説明する。
Review Article: DNAポリメラーゼはどのようにして大きく異なる忠実度で複製と修復を触媒するのか
How DNA polymerases catalyse replication and repair with contrasting fidelity
doi: 10.1038/s41570-017-0068
DNAポリメラーゼは、DNAの複製、修復、変異に関与している。こうした過程は、保存された機構を通して起こるが、本Reviewでは、個々のDNAポリメラーゼのわずかな構造の違いからどのようにしてDNA複製の忠実度の大きな違いが生じるのかについて、光を当てる。こうした違いがあることで、ポリメラーゼは、自然界にとっても技術にとっても重要なさまざまな機能を果たせるようになる。
Review Article: DNAにおける修飾塩基の機能のマッピングおよび解明
Mapping and elucidating the function of modified bases in DNA
doi: 10.1038/s41570-017-0069
塩基配列決定法と組み合わせることで修飾塩基の検出と解読を可能にする新しい化学的手法や酵素的手法によって、天然に存在する化学修飾DNA塩基に関する研究が活発化している。こうした手法は、通常の生理機能や病気における化学修飾DNA塩基の役割をより深く理解するために役立つ。
Review Article: インターロック分子のアクティブ鋳型合成法(active template approach)
The active template approach to interlocked molecules
doi: 10.1038/s41570-017-0061
インターロック分子のアクティブ鋳型合成法(active template approach)では、構成要素となる反応前駆体を事前に組織化するとともに最終的な共有結合形成を触媒してインターロック構造を獲得するために、金属イオンが用いられる。本Reviewでは、この方法の歴史、一層複雑なインターロック分子の合成への応用、今後の方向性について検討する。
Review Article: in vivoバイオセンシングに向けた表面増強ラマン分光法
Surface-enhanced Raman spectroscopy for in vivo biosensing
doi: 10.1038/s41570-017-0060
表面増強ラマン散乱(SERS)は、1974年に初めて発見された物理現象である。以後SERSは、感度が高く、複数の分析物を検出できるため、生物分析に利用されてきた。本Reviewでは、ヒトでのin vivo SERSの利用に関するこれまでの進歩と問題について述べる。
Review Article: 薬物送達システムにおける高分子の複雑さの進化
Evolution of macromolecular complexity in drug delivery systems
doi: 10.1038/s41570-017-0063
ポリマーナノ材料は、生物学的標的への小分子薬物の選択的送達に数多く応用されてきた。本Reviewでは、そうしたポリマーを用いる薬物送達の進化について論じ、より複雑な構造の高分子構造体が合成可能になるにつれて、こうした薬物送達の手法がどのように進化してきたかを探る。
Perspective: 二量体マグネシウム(I) β-ジケチミネート: 新種の準汎用還元剤
Dimeric magnesium(I) β-diketiminates: a new class of quasi-universal reducing agent
doi: 10.1038/s41570-017-0059
ビス(β-ジケチミナート)ジマグネシウム(I)錯体は、それぞれ2個の電子を選択的・化学量論的に渡す低原子価試薬である。こうした化学種は、取り扱いが容易で溶解しやすく、多くの無機基質や不飽和有機基質を還元する。本Perspectiveでは、マグネシウム(I)二量体の開発と反応性の範囲について取り上げる。
Perspective: テッセレーションによる多重多孔質二次元共有結合性有機構造体
Tessellated multiporous two-dimensional covalent organic frameworks
doi: 10.1038/s41570-017-0056
共有結合性有機構造体(COF)には、例えばガスの貯蔵や分離に応用できる可能性がある。構成要素を選択することでこうした材料の細孔サイズを調節できるが、望ましいのは、複数のサイズの細孔を有する材料である。本Perspectiveでは、テッセレーションを利用してそうした多重多孔質材料を作る2D COF合成方法について検討している。
Review Article: 遷移金属触媒反応と光触媒反応の融合
The merger of transition metal and photocatalysis
doi: 10.1038/s41570-017-0052
遷移金属触媒反応は、有機合成化学における有効な手段として定着している。最近、一電子移動経路を通して反応を進める方法として光酸化還元触媒反応が浮上してきた。今回我々は、それらの2つの触媒反応の併用について概説し、併用によって合成化学にさらに役に立つ反応性の高い酸化状態の遷移金属や異なる活性化モードを得る方法を示す。
Review Article: 酵素の低温適応の計算
Computation of enzyme cold adaptation
doi: 10.1038/s41570-017-0051
低温向けに最適化された酵素は、より温和な条件下で働く酵素とは特徴が異なる。本Reviewでは、低温適応した酵素を検討し、計算機による研究がいかにして低温環境への適応に起因する構造的影響やエネルギー的影響を浮き彫りにしたかを説明する。
Review Article: 質量分析による生物の全球的化学分析
Global chemical analysis of biology by mass spectrometry
doi: 10.1038/s41570-017-0054
ターゲットを定めずに生物試料を質量分析することによって、生体分子と、例えば餌や環境に由来する化合物の両方が検出される。本Reviewでは、そうした実験の設計、得られた膨大なデータの処理と解釈の方法、質量分析を用いて我々を取り巻く世界のインベントリを作成できるようになることが現状からどれくらい離れたことなのかについて検討する。
Review Article: 細胞電気化学とナノスケール分子イメージングを用いてシナプス小胞を測定する
Measuring synaptic vesicles using cellular electrochemistry and nanoscale molecular imaging
doi: 10.1038/s41570-017-0048
シナプス小胞は、神経伝達分子の貯蔵と放出を行うことによって、ニューロン間コミュニケーションに携わる。神経伝達物質は電気化学的手法と質量分析法を用いて検出でき、小胞の構造要素は超解像顕微鏡法によって検出できる。本Reviewでは、こうした分析手法と、こうした手法によって細胞間コミュニケーションの機構を解明する方法が説明されている。
Review Article: 工学的応用における小分子キラリティーの付加価値
The added value of small-molecule chirality in technological applications
doi: 10.1038/s41570-017-0045
キラリティーは多くの小分子の基本的な特性であるが、材料用途にはあまり広く活用されていない。確かに立体選択的合成の必要性が不利な点とみなされるかもしれないが、活用が進まないのは、キラリティーの利点が広く知られていないからである。本Reviewでは、工学的応用において、キラリティーが有効な影響を及ぼした最近の研究にスポットを当てる。
Review Article: 新材料生成のための廃プラスチックのケミカルリサイクル
Chemical recycling of waste plastics for new materials production
doi: 10.1038/s41570-017-0046
固体プラスチック廃棄物のリサイクル方法は数多く存在する。ケミカルリサイクルは、高温熱分解から温和な溶液ベースの触媒的解重合まで多くの形を取り、経済的・環境的に多大な恩恵をもたらしうる。本Reviewでは、ケミカルリサイクルの最先端と、そうしたリサイクル工程に適した高性能ポリマーの設計について取り上げる。
Perspective: 抗がん治療法の標的としての四重鎖核酸
Quadruplex nucleic acids as targets for anticancer therapeutics
doi: 10.1038/s41570-017-0041
四重鎖DNA構造は、50年以上前に初めて観察されたが、がんの発生におけるその役割が関心を集めたのは比較的最近のことである。本Perspectiveでは、抗がん治療法を開発する目的で、小分子を用いる四重鎖DNA構造の選択的結合と安定化の試みについて検討している。
Review Article: 分子電極触媒の評価のための電気化学的手法と分光学的手法
Electrochemical and spectroscopic methods for evaluating molecular electrocatalysts
doi: 10.1038/s41570-017-0039
均一遷移金属電極触媒は、電気エネルギーを処理したり化学燃料合成を仲介したりする役割を果たすため、話題になっている。電気化学的手法やデータ解析とともに補完的な分光学的手法を用いることで、さまざまな機構を明らかにできる。本Reviewでは、化学燃料生産向けの電極触媒反応という観点から、こうした手法の有用性を浮き彫りにする事例研究について報告する。
Review Article: 有機合成においてC–H結合開裂とC–C結合開裂を融合する
Merging C–H and C–C bond cleavage in organic synthesis
doi: 10.1038/s41570-017-0035
C–H結合やC–C結合の切断は、有機分子を官能基化する効率のよい方法である。特に有用なのは、C–H結合の開裂反応とC–C結合の開裂反応がタンデムに起こる変換である。本Reviewでは、このタンデム開裂戦略について説明するとともに、合成化学における応用例を示す。
Perspective: オピニオン: 持続可能なエネルギーの未来に向けた量子を用いた解決策
Opinion: Quantum solutions for a sustainable energy future
doi: 10.1038/s41570-017-0032
産業革命以降の技術の進歩は、「いかにして環境被害を最小限にしながら世界に電力を供給するか」という大きな課題をもたらした。本Perspectiveでは、持続可能なエネルギー研究において量子化学が果たす重要な役割に光を当てる。
Review Article: 化学的方法で生成した偽造防止のためのPUF(physical unclonable function)
Physical unclonable functions generated through chemical methods for anti-counterfeiting
doi: 10.1038/s41570-017-0031
商品の偽造は、経済に影響を及ぼすとともに、健康や安全に対する脅威となる。PUF(physical unclonable function)を組み込むことは、有望な製品認証方法である。本Reviewでは、確率論的化学過程を利用して、1つしか存在しない複製不可能な偽造防止タグがどのように実現されるかを説明する。
Review Article: 二窒素の配位モードと反応性の関係を調べる
Examining the relationship between coordination mode and reactivity of dinitrogen
doi: 10.1038/s41570-017-0026
二窒素は比較的不活性だが、適切な有機金属化合物に配位させることによってこの特性を克服できる。本Reviewでは、官能基化の可能性と、NH3やN2H4などの化学種や、窒素を含有する錯体や有機化合物という形をとる生成物の性質に、配位モードが及ぼす影響を調べている。
Perspective: オピニオン: 外因性シグナルを乗っ取って共生相互作用時に新しい二次代謝産物を生成する
Opinion: Hijacking exogenous signals to generate new secondary metabolites during symbiotic interactions
doi: 10.1038/s41570-017-0021
天然物生合成の実験室研究では、単一種によって産生される特定の二次代謝産物に注目することが多い。本Perspectiveでは、細菌と宿主が協同してハイブリッド天然物を産生する例について検討している。
Review Article: クロスカップリングのための構造の明確なニッケルプレ触媒とパラジウムプレ触媒
Well-defined nickel and palladium precatalysts for cross-coupling
doi: 10.1038/s41570-017-0025
有機クロスカップリング反応を利用すれば、比較的温和な条件で複雑な分子を組み立てることができ、10族金属錯体によるクロスカップリング反応は、特に有用である。本Reviewでは、ニッケルプレ触媒とパラジウムプレ触媒の開発について取り上げ、最新の触媒系を比較するとともに、将来技術のための設計指針を提示している。
Review Article: 微生物と電極の間における電子移動反応の概観
The ins and outs of microorganism–electrode electron transfer reactions
doi: 10.1038/s41570-017-0024
微生物電極触媒を定着させた電極は、有用化学品の電解合成において有益な部品として役立つ可能性がある。本Reviewでは、微生物と電極の間を電子が移動する機構を概説し、ロバストで効率の高い系の設計に関わる課題について述べている。
Perspective: オピニオン: 生命の起源に関する研究—始まりの終わり
Opinion: Studies on the origin of life — the end of the beginning
doi: 10.1038/s41570-016-0012
最近のシステム化学の進展によって、「生命を構成する分子が、生命誕生以前の妥当な原料からどのように生成された可能性があるのか」が明らかになってきている。本Perspectiveでは、全体像の解明にはまだほど遠いと主張し、何が未解明なのかを考察している。
Review Article: 2D単元素物質の合成と化学
Synthesis and chemistry of elemental 2D materials
doi: 10.1038/s41570-016-0014
2D単元素物質は、独特な特性を持つ話題の物質種である。本Reviewでは、2D単元素物質の合成と安定化における最近の進歩と現在の課題について取り上げている。今後さらに合成方法の開発が進めば、2D単元素物質ライブラリーが天然層状物質の枠を大きく超えて拡張され、ユニークな構造と機能を有する生成物が得られるようになるだろう。
Review Article: 製薬業界における複雑な医薬品候補の合成の設計について
On the design of complex drug candidate syntheses in the pharmaceutical industry
doi: 10.1038/s41570-017-0016
プロセス化学における主要な目標は、既知医薬品候補の合成に向けて商業的に実現可能な合成経路を開発することである。したがって、合成上の課題に対処する手法は、医薬品化学に用いられる手法とは全く異なる。本Reviewでは、事例研究を用いて考慮すべき重要事項に注目するとともに、効率の高い医薬品合成の設計と選択の際に用いる戦術にスポットを当てている。
Review Article: 金–硫黄表面とナノ粒子に作用するファンデルワールス力と化学力の競合
Competition of van der Waals and chemical forces on gold–sulfur surfaces and nanoparticles
doi: 10.1038/s41570-017-0017
有機硫黄配位子で修飾された金表面は、ナノテクノロジーにおいて重要である。にもかかわらず、ファンデルワールス力の寄与が大きい金と硫黄の相互作用に関して詳細な研究が行われたのは、ごく最近のことである。本Reviewでは、金と硫黄の相互作用を含めて、ファンデルワールス力によって結合の効果が決まるソフト–ソフト相互作用を取り上げている。
Review Article: 地球に豊富に存在する触媒による電気化学的水分解と光電気化学的水分解
Earth-abundant catalysts for electrochemical and photoelectrochemical water splitting
doi: 10.1038/s41570-016-0003
水の分解は、電気エネルギーや光エネルギーを貯蔵し、必要に応じて消費する魅力的な手段である。しかし、アノード反応やカソード反応用の高効率活性触媒は、貴金属を必要とすることが多い。本Reviewでは、より利用しやすくより持続可能な方式で高い性能を実現できる卑金属触媒について取り上げている。
Review Article: 原子間力顕微鏡法による分子の生成、操作、キャラクタリゼーション
Generation, manipulation and characterization of molecules by atomic force microscopy
doi: 10.1038/s41570-016-0005
原子間力顕微鏡(AFM)は、原子分解能での個々の分子の撮像や操作を可能にする。本Reviewでは、動作モードや、ティップと基板の選択を含めて、実験で考慮すべきことを取り上げている。また、AFMを用いて分子を撮像した例や、結合を形成したり切断したりした例を提示する。
Review Article: 立体的に込み合った無機分子と有機金属分子におけるロンドン分散力
London dispersion forces in sterically crowded inorganic and organometallic molecules
doi: 10.1038/s41570-016-0004
ロンドン分散力は、相対的に弱いにもかかわらず、分子の物理的特性や化学的特性に強い影響を及ぼす可能性がある。本Reviewでは、ロンドン分散力の累積的効果が、どのようにして有機金属分子や無機分子の構造と反応性に大きな影響を及ぼすかについて明らかにしている。
Review Article: アクチニド系の化合物と触媒による含酸素炭素化合物の変換
Carbon oxygenate transformations by actinide compounds and catalysts
doi: 10.1038/s41570-016-0002
アクチニド金属錯体の特異な反応性から、含酸素炭素化合物を付加価値化学物質に変換する機会が得られる可能性がある。本Reviewでは、再生不能資源への依存を減らすことを最終的な目標として、アクチニド金属錯体をそうした変換反応の触媒として用いる研究の進展について解説している。