最新Research

Nature Food に掲載された一次研究論文(Articles および Letters)について、その概要を日本語で紹介しています。

Article: 収量ギャップを確実に推定するための空間的枠組み

Spatial frameworks for robust estimation of yield gaps

doi:10.1038/s43016-021-00365-y

農業での研究開発投資に効果的な優先順位をつけるには、主要な作物体系の収量ギャップを確実に推定する必要がある。「トップダウン式」の空間的枠組みから生じた潜在収量は高度な不確実性の影響を受けやすく、「ボトムアップ式」の空間的枠組みによる推定を組み入れることで、有益な結果が得られる可能性がある。

Article: 全世界の動物性食料由来の温室効果ガス排出量は植物性食品由来の排出量の2倍である

Global greenhouse gas emissions from animal-based foods are twice those of plant-based foods

doi:10.1038/s43016-021-00358-x

食料の生産と消費に関連する温室効果ガス排出量の定量化では、部門間の一貫性のある空間データをどの程度利用できるかが、依然として大きな障害となっている。本稿では、植物性食料と動物性食料に関連する土地利用の変化、農地、家畜、農場以外での活動に由来する排出量について詳細に報告する。これは、主要なそれぞれの農産物から地域的、国家的、世界的レベルの排出量を算出したものである。

Article: 複合的な気候リスクは水産食品システムによる利益を脅かす

Compound climate risks threaten aquatic food system benefits

doi:10.1038/s43016-021-00368-9

栄養と経済、生活に対する水産食品システムの貢献は、気候変動によって脅かされている。気候変動に対するレジリエンスを構築するには、社会的脆弱性を軽減する体系的な介入が必要である。

Article: 小さく的を絞った食生活の変化は人間の健康と環境に大幅な利益をもたらす可能性がある

Small targeted dietary changes can yield substantial gains for human health and the environment

doi:10.1038/s43016-021-00343-4

栄養と持続可能性を高めるには食生活の変化が必要だが、どれくらい思い切った変化にすべきかは依然として明らかになっていない。今回、疫学に基づく新たな栄養指数と18種類の環境指標を組み合わせることにより、具体的な食品の置き換えがもたらすプラスの影響に関する評価が行われた。

Article: 極端な気候事象は世界的な食料不安のリスクと適応ニーズを増大させる

Extreme climate events increase risk of global food insecurity and adaptation needs

doi:10.1038/s43016-021-00335-4

世界の将来の食料安全保障が極端な気候事象の影響を受けることは間違いないが、どの地域がどの程度の影響を受けるかは見落されていることが多い。今回、さまざまな社会経済的条件下での作物収量と食料ニーズの予測を用い、温室効果ガスの高排出シナリオと低排出シナリオの下で、極端な気候に直面した場合の飢餓リスク人口の割合が推定された。

Article: 種子コーティングの機能のプログラム可能な設計は半乾燥地域での水ストレス耐性を誘導する

Programmable design of seed coating function induces water-stress tolerance in semi-arid regions

doi:10.1038/s43016-021-00315-8

今回、根圏細菌を含むシルク/トレハロース内層と、種まき後に再膨張してウォータージャケットとして働くペクチン/カルボキシメチルセルロース外層からなる種子コーティング法が開発された。コーティングしたインゲンマメの種子は、半乾燥土壌で優れた植物定着を示した。

Article: COVID-19危機は低・中所得国での母親と小児の低栄養および小児死亡率を悪化させる可能性がある

The COVID-19 crisis will exacerbate maternal and child undernutrition and child mortality in low- and middle-income countries

doi:10.1038/s43016-021-00319-4

今回、母親と小児の栄養転帰、および小児期の発育阻害と死亡率に起因する生産性の低下に対するCOVID-19危機の影響について、楽観的なシナリオ、中間的なシナリオ、悲観的なシナリオの下、118の低・中所得国での予測が行われた。また、過度の発育阻害および小児死亡率を抑制するための6種類の栄養介入の財政的コストが見積もられた。

Article: スペクトルシフトおよび一方向性光取り出しフォトニクスによる温室での生産量の増加

Increasing greenhouse production by spectral-shifting and unidirectional light-extracting photonics

doi:10.1038/s43016-021-00307-8

今回、屋内や温室で栽培されるリーフグリーンレタスの光合成とバイオマス生産をパッシブに増強するための、一方向性光取り出し蛍光フィルムが設計された。バッチ処理したフィルムのトータルの光取り出し効率は89%であり、変換光の大部分はレタスの方向に導かれていた。このフィルムは、温室などの保護された環境で作物の生産効率を高めるために応用できる可能性がある。

Perspective: リスクに対する回復力のある食生活をもたらす未来食

Future foods for risk-resilient diets

doi:10.1038/s43016-021-00269-x

従来の農業システムはさまざまなストレス源の影響を受けやすいが、微細藻類、マイコプロテイン、ミールワームは健康的でより持続可能性が高い食事を提供できる。今回の研究は、未来食の農業システムを回復力のあるものにしているのは何か、また、その可能性をどのようにして引き出すのかを明らかにしている。

Article: 花粉から着想した酵素封入微小粒子で飼育下の花粉媒介生物での有機リン系殺虫剤の毒性を軽減させる

Pollen-inspired enzymatic microparticles to reduce organophosphate toxicity in managed pollinators

doi:10.1038/s43016-021-00282-0

有機リン系殺虫剤は、花粉媒介生物に対して強い毒性をもつ。花粉から着想した微小粒子にホスホトリエステラーゼを封入したものを与えたマルハナバチは、有機リン系殺虫剤で汚染された花粉パティを与えた後でも生存率が100%だった。

Article: 米国の個人の食事は水不足フットプリントの幅広い変動を示す

Individual US diets show wide variation in water scarcity footprints

doi:10.1038/s43016-021-00256-2

水利用が環境に与える影響は、食料生産の持続可能性に影響を及ぼす。今回、食事中の食品の種類と量、それらの食品を生産するのに必要となる灌漑用水、その灌漑が行われている地域での相対的な水不足に基づき、自身で選択した食事に関連する米国での水利用の影響が推定された。

Article: ネットワーク医学の枠組みはポリフェノールの標的と疾患タンパク質の近接性からポリフェノールの治療効果が予測されることを明らかにする

Network medicine framework shows that proximity of polyphenol targets and disease proteins predicts therapeutic effects of polyphenols

doi:10.1038/s43016-021-00243-7

今回、ポリフェノールの標的タンパク質と疾患関連タンパク質間の分子相互作用が、ネットワーク医学の枠組みによって調べられた。ポリフェノールの標的タンパク質と疾患タンパク質のネットワーク近接性から治療効果を予測することが可能であり、栄養科学のツールとしてのネットワーク医学の可能性がより幅広く明らかになった。

Article: 1970~2010年の世界的な食の収斂は農業、栄養および健康での不平等を変化させた

Global dietary convergence from 1970 to 2010 altered inequality in agriculture, nutrition and health

doi:10.1038/s43016-021-00241-9

今回、公開データを利用して各国のフードシステムの不平等が検証された。自然資源の投入、食料/栄養生産、栄養/健康指標の変化から、不平等は一般的に減少しているが、変数によって減少の仕方が非常に異なることが明らかになった。

Article: 大気の不透明度は世界の作物収量に非線形的な影響を及ぼす

Atmospheric opacity has a nonlinear effect on global crop yields

doi:10.1038/s43016-021-00240-w

作物が浴びる日光は、大気汚染や気候変動、地球工学による影響を受ける可能性がある。大気の不透明度が日光に及ぼす影響に関する実証的推定から、米国と欧州、ブラジル、中国ではトウモロコシとダイズの収量に重大な変化が起きていることが明らかになった。

Article: ニュトリネット・サンテコホート研究に基づくフランス成人での栄養と環境への影響、コストを最適化するための伝統的な食事から「破壊的」な食事への移行

Conservative to disruptive diets for optimizing nutrition, environmental impacts and cost in French adults from the NutriNet-Santé cohort

doi:10.1038/s43016-021-00227-7

環境への影響を減らして自然食品の消費量を増やし、十分な栄養を供給して経済的に受け入れられるようにするため、ニュトリネット・サンテコホート研究に基づいて、フランス成人での保守的な食事パターンから「破壊的な」食事パターンへの変化が検討された。動物性食品を植物性食品でシナリオごとに段階的に代替すると、持続可能性の側面とより密接に同調した。

Article: 中国での都市化は大規模農業による農業生産に有益な結果をもたらす可能性がある

Urbanization can benefit agricultural production with large-scale farming in China

doi:10.1038/s43016-021-00228-6

Wangらは空間統計学とシナリオ分析を用い、中国の2800以上の県で作物生産に最も適した田園地帯を特定した。彼らは、中国の都市化レベルを選択的に向上させることで、田園地帯の約600万ヘクタールの土地を農業に開放できると推定している。

Article: 養殖と養鶏による内水漁業の代替はペルーのアマゾンの人々の栄養状態を悪化させる

Substitution of inland fisheries with aquaculture and chicken undermines human nutrition in the Peruvian Amazon

doi:10.1038/s43016-021-00242-8

衰退しつつある天然漁業からの食料生産を養殖種で代替すると、ペルーのアマゾンの都市部などの地域で流行している微量栄養素欠乏症を悪化させ、農用地利用と温室効果ガス排出量に悪影響を及ぼす可能性がある。

Article: 世界の人為的なGHG排出量の1/3はフードシステムが原因である

Food systems are responsible for a third of global anthropogenic GHG emissions

doi:10.1038/s43016-021-00225-9

フードシステムからのGHG排出量のデータはほとんどが各部門に分散しており、多くの国々はいまだに利用できていない。今回、世界的に統一された食品関連排出量のデータベースであるEDGAR-FOODにより、1990~2015年の国レベルでの食品関連の土地利用および土地利用変化、生産、加工、販売、消費、残渣からの排出量が1つに統合された。

Article: フードシステムのプラスチックが環境、食品の安全性、健康に及ぼす影響に関する体系的スコーピングレビュー

A systematic scoping review of environmental, food security and health impacts of food system plastics

doi:10.1038/s43016-021-00221-z

フードシステムはプラスチックに依存しているが、プラスチックが環境、食品の安全性、人間の健康に及ぼす影響に関するトップレベルの知見の調査はほとんど行われていない。今回の体系的なスコーピングレビューでは、2000年以降の研究の状況について解説し、農業生産に関する文献は多いものの、低所得地域や人間の健康への影響に関する知識には欠落があることを見いだしている。

Article: 熱ストレスは東アフリカでの将来の家畜生産に悪影響を及ぼす可能性がある

Heat stress will detrimentally impact future livestock production in East Africa

doi:10.1038/s43016-021-00226-8

東アフリカでの動物産品の需要は増加すると予測されているが、気候変動による気温の上昇は家畜生産に悪影響を及ぼす可能性がある。今回のモデル化研究では、6種類の主な家畜で危険な熱ストレス事象が生じる潜在的な頻度と期間を定量化し、最も影響を受ける可能性がある地域を特定し、最もリスクが高いと思われる家畜の種類を明らかにしている。

Article: 農家主導の大規模実験は被覆作物が土壌の健全性に関する複数の指標に及ぼすプラスの影響を明らかにする

Large-scale farmer-led experiment demonstrates positive impact of cover crops on multiple soil health indicators

doi:10.1038/s43016-021-00222-y

被覆作物が土壌の健全性に及ぼす影響を現実世界の条件下で評価するには、網羅的データセットが必要となる。米国の9つの州の農家78軒で5年の間に得られた1522点の土壌試料(strip-year)に関する農家主導の試験から、土壌の重要な指標が改善し、活性炭濃度が最も迅速に反応することが明らかになった。

Article: 南アフリカでのGMトウモロコシの収穫量増加は家畜飼料用より人間の消費用の方が大きい

Yield gains larger in GM maize for human consumption than livestock feed in South Africa

doi:10.1038/s43016-021-00231-x

南アフリカでは、GM白トウモロコシは人間が直接消費するために栽培されているが、GM黄色トウモロコシと従来の雑種トウモロコシは主に家畜用として栽培されてきた。南アフリカの106カ所の地域で、28年間、491種類の栽培種にまたがり、乾燥地で4万9335回、灌漑地で9617回の観察を行なったところ、GMトウモロコシの平均収量は従来の雑種トウモロコシを上回り、GM白トウモロコシはGM黄色トウモロコシより高い収量の増加を示した。

Article: 機械学習を用いる非破壊的ペーパークロモジェニック(発色ろ紙)アレイによる食品上の多重生存病原体の検知

Machine learning-enabled non-destructive paper chromogenic array detection of multiplexed viable pathogens on food

doi:10.1038/s43016-021-00229-5

食品上の複数の生存病原体を迅速かつ同時に同定することは、公衆衛生において極めて重要である。今回、ペーパークロモジェニックアレイ(paper chromogenic array;PCA)と機械学習を組み合わせることによって、多重生存病原体のPCAパターンを系統レベルの特異度で自動的に認識するシステムが開発された。

Article: ヒヨコマメとデュラムコムギの構造と機能の研究は細胞壁の特性がデンプンのバイオアクセシビリティーに影響を及ぼすメカニズムを明らかにする

Structure–function studies of chickpea and durum wheat uncover mechanisms by which cell wall properties influence starch bioaccessibility

doi:10.1038/s43016-021-00230-y

ヒヨコマメとデュラムコムギに代表されるタイプIとタイプIIの細胞壁は、加工食品と非加工食品での細胞の健全性、消化動態、デンプンのバイオアクセシビリティーに可変的な側面をもたらしている。今回、組織の破壊特性と細胞壁の透過性が、食物繊維がデンプンのバイオアクセシビリティーに影響を及ぼすメカニズムであることが明らかになった。

Brief Communication: COVID-19パンデミック中の穀物の輸出規制は多くの低・中所得国に食料不足のリスクをもたらす

Grain export restrictions during COVID-19 risk food insecurity in many low- and middle-income countries

doi:10.1038/s43016-020-00211-7

COVID-19と蝗害は国際的な農業サプライチェーンを脅かしている。今回、コムギ、コメ、トウモロコシの貿易に及ぼす影響をモデル化したところ、貿易制限によって食品価格の高騰と局地的な食料不足が生じる可能性があることが明らかになった。

Brief Communication: 世界的な土地収奪(ランドラッシュ)による炭素排出と排出緩和の可能性

Carbon emissions from the global land rush and potential mitigation

doi:10.1038/s43016-020-00215-3

大規模な土地売買は農業集約化を促進できるが、社会的、環境的な悪影響を伴う可能性がある。売買された土地を大規模農場に転換した場合の炭素排出量は最大で2.26 Gtに達し、その大半はアフリカと東南アジア、ラテンアメリカ、オセアニアからのものと推定される。本稿では緩和戦略についても論じる。

Article: 気温の上昇と需要の増加はスーダンでのコムギの供給に困難をもたらす

Rising temperatures and increasing demand challenge wheat supply in Sudan

doi:10.1038/s43016-020-00214-4

スーダンでは2050年までに人口が8000万人に増加し、気温が上昇し、コムギの需要が3倍になる。気候と社会経済に関するシナリオを用いた作物モデルから、コムギ生産を気候変動と需要の増加に適応させるため、高温耐性品種の育種によって達成しなくてはならない地域的な収量増加率が示された。

Article: 欧州の作付体系における土壌多機能性と穀物収量にとっては輪作の多様性よりも作物による被覆の方が重要である

Crop cover is more important than rotational diversity for soil multifunctionality and cereal yields in European cropping systems

doi:10.1038/s43016-020-00210-8

土壌の生物多様性が作物体系に及ぼす影響については、システムレベルの解析が不足している。欧州の従来の方法で管理されている農地では、作物の多様性より過去10年間の輪作の間に作物で被覆されていた時間の割合の方が、土壌微生物の多様性、土壌の多機能性および作物収量に対してより大きな影響を及ぼしていた。

Article: 欧州連合のダイズ飼料の輸入停止はブタと家禽より反芻動物に有利に働く

Halting European Union soybean feed imports favours ruminants over pigs and poultry

doi:10.1038/s43016-020-00203-7

欧州連合は、たんぱく質が豊富な動物飼料としてのダイズの輸入に依存している。今回、EUでの動物性食品の供給に関するシナリオがEUの土地利用と人間の食事に及ぼす影響について、ダイズの生産と動物飼料の輸入に関連する制約条件に基づいた場合の評価が行われた。

Article: 革新的な管理プログラムは中国の野菜生産が環境に与える影響を削減する

Innovative management programme reduces environmental impacts in Chinese vegetable production

doi:10.1038/s43016-020-00199-0

中国の野菜生産は、世界の作物収穫面積の1.7%を占めるが、世界の農業部門と比べて化学肥料の使用量は7.8%、作物由来の温室効果ガスの排出量は6.6%となっている。今回の革新的な管理プログラムは、環境に与える影響を小さくしながらより多くの野菜を生産する機会をもたらすものである。

Article: 環境的ショックに対するレジリエンスを持つ食品サプライチェーンに向けて

Towards food supply chain resilience to environmental shocks

doi:10.1038/s43016-020-00196-3

環境的な変動とショックが食品サプライチェーンに沿って伝搬または減衰する過程を解明することは、食料安全保障にとって重要である。今回のスコーピングレビューでは、変動のエントリーポイント、変動が拡散する主要因子、食品や研究されているショックの種類に関する研究のギャップ、個人・企業・政府レベルでのリスク削減への対応策を明らかにする。

Review Article: CO2濃度上昇が作物に及ぼす影響の不確実性を狭める

Narrowing uncertainties in the effects of elevated CO2 on crops

doi:10.1038/s43016-020-00195-4

CO2濃度上昇が作物に及ぼす影響に関する理解が十分に進んだため、将来の気候が農業に与える影響のモデルでは、「CO2を考慮しない」シミュレーションを除外すべきだと考えられる。より幅広い生育条件下でより幅広い種類の作物種を研究し、極端な気候事象への応答に関する作物モデルの表現を改善し、作物の栄養価に関連する新たな生理学的過程のシミュレーションを行えば、こうした影響の推定をさらに向上させることができる。

Brief Communication: フードシステムからのフィードバックによる情報に基づいた保全政策は予期せぬ結果を回避することができる

Conservation policies informed by food system feedbacks can avoid unintended consequences

doi:10.1038/s43016-020-00192-7

海洋生息環境の保護対策では、保全政策とフードシステムの相互接続を考慮する必要がある。今回の研究では、パラオの新たな海洋保護区によって魚の供給と観光客による消費がどのように変化する可能性があるのかを示し、環境への悪影響を避けるための政策を明らかにしている。

Brief Communication: 家庭での調理方法と調理機器が食品のGHG排出量に与える影響

Impacts of home cooking methods and appliances on the GHG emissions of food

doi:10.1038/s43016-020-00200-w

家庭での調理に関するデータが限られていることは、気候変動に対する家庭での調理の寄与を推定する際の障害となっている。今回、700人以上の回答者の調査に基づいて、英国でのさまざまな調理方法と調理機器に伴うGHG排出量と、それらを削減する戦略について評価が行われた。

Article: 国内消費と国際貿易に関連するブルーウォーターフットプリントは持続不可能である

Blue water footprint linked to national consumption and international trade is unsustainable

doi:10.1038/s43016-020-00198-1

世界の水資源に対する圧力が高まることで、将来の食料安全保障について懸念が生じている。今回、世界的な空間明示型の水消費の評価から、持続可能なブルーウォーターの流量がどこでどれだけ侵害されているのかが明らかにされた。この研究は、世界174カ国における1996~2005年の146種類の食品を対象とした。

Article: ブラジルの「アマゾン大豆モラトリウム」で森林伐採が減少

Brazil’s Amazon Soy Moratorium reduced deforestation

doi:10.1038/s43016-020-00194-5

森林伐採に対抗する介入策の影響を他の保全活動と分けて解析することは、いまだ困難である。今回、遠隔測定データの計量経済学分析から、ブラジルの「弧状の森林伐採地域(Arc of Deforestation)」での大豆モラトリウムの有効性と、その成功が補完的政策にどの程度依存しているかが明らかになった。

Article: フェージングを行なったバニラ(Vanilla planifolia)ゲノムは風味と生産量の改善を可能とする

A phased Vanilla planifolia genome enables genetic improvement of flavour and production

doi:10.1038/s43016-020-00197-2

バニラの染色体規模でフェージングを行なったゲノム配列解読から、バニリンの経路、ひいてはバニラ豆の品質に影響を及ぼす可能性のあるバリアントが明らかになった。バニラの近縁種のリシーケンシングは、バニラの生産性に有益な結果をもたらし収穫後損失を減少させることが期待される。

Perspective: 軽量化トレーサビリティシステム: 持続可能な食料供給ネットワーク

Mobile-based traceability system for sustainable food supply networks

doi:10.1038/s43016-020-00163-y

トレーサビリティは食品の品質と安全性にとって重要だが、それを幅広く実施するには高いコストと技術的な複雑さが障害となっている。 本研究では二次元バーコード情報を連結させ軽量化された携帯型の双方向システムを提案し、効率的で安価な柔軟性の高いソリューションである。

Perspective: 農業は環境に優しい水産養殖に役立つ

Agriculture can help aquaculture become greener

doi:10.1038/s43016-020-00182-9

水産養殖は、地球の限界内で発展させる必要がある。単作の管理や遺伝子組換え作物の使用といった農業での経験は、水産養殖の持続可能な解決策にとって有用な情報になると考えられる。

Article: 酵素的グリセロール分解は植物油を食品中のパーム油の代替物となる可能性がある構造脂肪に変換する

Enzymatic glycerolysis converts vegetable oils into structural fats with the potential to replace palm oil in food products

doi:10.1038/s43016-020-00160-1

パーム油には、食品の成分として食感や知覚特性などをもたらし、トランス脂肪酸を代替するという機能的な利点がある。ここでは、酵素的グリセロール分解という確立された技術を利用し、脂肪酸組成を変えることなく液状の綿実油と落花生油を固形脂肪に構造化した。これは、商品の構造や栄養、持続可能性を向上させる可能性がある。

Article: Pisum sativum L.(エンドウ)の自然突然変異はデンプンの集合体を変化させヒトのグルコース恒常性を改善する

A natural mutation in Pisum sativum L. (pea) alters starch assembly and improves glucose homeostasis in humans

doi:10.1038/s43016-020-00159-8

今回、エンドウの極めてよく似た2つの遺伝子型(BC1/19RRおよびBC1/19rr)から得られた種子、粉末、食品を用いてin vitro、ex vivoおよびin vivoで一連の研究を行うことにより、食後の血糖値に対するデンプン構造、食品マトリックスおよび腸内環境の寄与を探求した。

Article: 英国の果物と野菜の供給は気候変動の影響を受けやすい生産国からの輸入品への依存度を高めている

United Kingdom’s fruit and vegetable supply is increasingly dependent on imports from climate-vulnerable producing countries

doi:10.1038/s43016-020-00179-4

英国での果物と野菜の供給では、果物と野菜の国内生産量の減少と、気候変動の影響を受けやすい国々からの輸入品への依存度の増加という特徴が強まっている。これは、気候変動の増大とともに英国での果物と野菜の入手しやすさ、価格、消費に影響を及ぼし、特に高齢者と低所得世帯では影響が健康に及ぶ可能性がある。

Article: 国家は作物収量と窒素汚染の間のトレードオフに影響を及ぼす

Countries influence the trade-off between crop yields and nitrogen pollution

doi:10.1038/s43016-020-00185-6

全球地理空間データセットと回帰不連続デザインにより、作物収量や窒素汚染に対する農業政策などの国家レベルの影響を定量化することが可能になった。国家の影響は、作物収量に対するものより窒素汚染に対する方がはるかに大きかった。

Article: 将来の気候の下でのコムギの収量予測に関する不確実性の原因は地域特異的である

Sources of uncertainty for wheat yield projections under future climate are site-specific

doi:10.1038/s43016-020-00181-w

収量の変化における不確実性の主な原因を解明すれば、作付体系の適応戦略が進めやすくなる。8種類の作物モデルと32種類の全球気候モデル、2種類の気候ダウンスケーリング法を用いることで、気候-作物モデルの不確実性に対するこれらの原因の相対的寄与は、地域によって左右されることが示された。

Article: 米国のトウモロコシ収量における干ばつ感受性の変化

Changes in the drought sensitivity of US maize yields

doi:10.1038/s43016-020-00165-w

農業を気候変動に適応させる際の重要な目標は、作物収量の干ばつ感受性を低下させることである。今回、干ばつ感受性の変化を検知するために2つの経験的戦略を米国のトウモロコシに適用して比較したところ、干ばつへの曝露では、主に土壌の保水力の差によって生じる国内の空間的なばらつきを利用する方が優れていることが明らかになった。

Article: アミロース分子の微細構造はフライ中の水と油の動態とポテトチップのカロリー密度を決定する

Amylose molecular fine structure dictates water–oil dynamics during deep-frying and the caloric density of potato crisps

doi:10.1038/s43016-020-00180-x

ポテトチップを揚げている間の油の取り込みは、短鎖アミロースの存在によって変化させることができる。短鎖アミロース量が増加するような栽培品種の選択と加工条件によって、低カロリーのポテトチップを生産しやすくなる可能性がある。

Article: 粉ミルクを調乳している間のポリプロピレン製哺乳瓶の分解によるマイクロプラスチックの放出

Microplastic release from the degradation of polypropylene feeding bottles during infant formula preparation

doi:10.1038/s43016-020-00171-y

ポリプロピレン系の食品容器は広く利用されているが、それらの分解によってマイクロプラスチックが生じる可能性はほとんど明らかにされていない。今回、ポリプロピレン製哺乳瓶で粉ミルクの調乳手順で放出されるマイクロプラスチックが定量化され、世界中の乳児がマイクロプラスチックに曝露されている可能性が示された。

Perspective: 農業生態系と育種の見直しによってバナナの立ち枯れ病を防除する戦略

Strategies to revise agrosystems and breeding to control Fusarium wilt of banana

doi:10.1038/s43016-020-00155-y

立ち枯れ病は、バナナに感染する最も破壊的で対処しにくい真菌病で、現在世界的な脅威となっている。本稿では、農業生態系の見直しや精密育種など、バナナの立ち枯れ病を管理するための相補的戦略を提案する。

Article: 低、中所得国での青少年の農業技能訓練プログラムによる雇用結果に関する総説

A systematic review of employment outcomes from youth skills training programmes in agriculture in low- and middle-income countries

doi:10.1038/s43016-020-00172-x

低、中所得国では、農業における青少年の雇用が社会的、経済的機会を提供し、食料安全保障を支えている。農業技能訓練は青少年の雇用にとって重要だが、雇用結果に対するこれらのプログラムの効果については評価が十分に行われていない。

Article: 小規模農業に対する農民団体の寄与に関するスコーピングレビュー

A scoping review of the contributions of farmers’ organizations to smallholder agriculture

doi:10.1038/s43016-020-00164-x

協会や協同組合、女性団体などの農民団体は、小規模農家にとって有益だと一般的に考えられているが、これらの団体の幅広い影響に関してはさらなる証拠が必要である。今回のスコーピングレビューではアフリカ・サブサハラ地域とインドに注目し、239件の研究の知見を利用して生産や収入、地位向上、食料安全保障、環境に対する農業団体の寄与を明らかにした。

Article: インドは栄養安全保障を達成し、健康リスクを低減し、環境の持続可能性を向上させることができる天然資源を有している

India has natural resource capacity to achieve nutrition security, reduce health risks and improve environmental sustainability

doi:10.1038/s43016-020-00157-w

今回、統合地域環境・栄養最適化アプローチから、インドは現在の生産パターンと消費パターンから移行することで、国の食料自給目標を達成すると同時に、地域の耕作地利用や水需要、GHG排出量を削減できることが示された。

Article: 養殖生産システムの方向転換はバングラデシュの環境に与える影響を削減し栄養安全保障を改善することができる

Reorientation of aquaculture production systems can reduce environmental impacts and improve nutrition security in Bangladesh

doi:10.1038/s43016-020-00156-x

今回、環境に与える影響を最小限に抑えながら微量栄養素の供給を最適化するため、バングラデシュの養殖生産システムを設計した。小型の固有種の生産を増やせば、養殖物の栄養素密度は天然物に匹敵するものになり、魚とコメを同時生産するシステムでは環境負荷が最小となる。

Article: 中国の空気質、窒素利用効率および食料安全保証は費用対効果の高い農業分野の窒素管理によって改善される

Air quality, nitrogen use efficiency and food security in China are improved by cost-effective agricultural nitrogen management

doi:10.1038/s43016-020-00162-z

窒素の利用は中国の食料安全保障を強化してきたが、環境問題も引き起こしている。今回、複数の環境課題に取り組みながら中国の食料安全保障と公衆衛生を改善させるための、農業分野の窒素管理戦略が明らかになった。

Perspective: 殺虫剤政策を促進するための道筋

Pathways for advancing pesticide policies

doi:10.1038/s43016-020-00141-4

欧州では、殺虫剤を削減するため多数の政策が導入されている。ここでは、現在の政策の欠点について論じ、規制機関が効果的な殺虫剤政策を実施するための指針となる10の道筋を示す。

Review Article: 農業と食料安全保障を結びつける概念的枠組み

Conceptual frameworks linking agriculture and food security

doi:10.1038/s43016-020-00142-3

農業と食料安全保障を結びつける概念的枠組みの展望や仮定、用途は多種多様である。本稿では、こうした36個の枠組みを評価した後で、幅広く引用されている1個の枠組みにシステムモデル化規則を適用し、学際的な食品界を対象とする食料安全保障の枠組みにこれらのツールを組み入れることの有用性を実証した。

Article: 中国のテイクアウト用包装廃棄物の問題では食器類の共有が廃棄物の発生、汚染物質排出量および水消費量を減少させる

Sharing tableware reduces waste generation, emissions and water consumption in China’s takeaway packaging waste dilemma

doi:10.1038/s43016-020-00145-0

中国ではオンラインのフードデリバリーとテイクアウトの市場が成長しており、2018年には4億600万人の消費者から100億件の注文があった。今回、あるオンラインフードデリバリープラットフォームのデータから、中国の353都市で生じた包装や食器類の廃棄物がライフサイクルを通じて環境に及ぼす影響と、紙製代替物の使用や食器類の共有に関するシナリオが示された。

Article: 気温の上昇と農業管理慣行が18種類の作物の世界的な収穫量に及ぼす影響

Impacts of rising temperatures and farm management practices on global yields of 18 crops

doi:10.1038/s43016-020-00148-x

本稿では、世界の耕作地の70%、世界のカロリー摂取量の2/3を占める18種類の作物の収量の変動に対する、気候(気温および降水量)と農業経営慣行(殺虫剤と肥料の使用、および灌漑)の影響を国レベルで評価した。

Article: 中国での食料生産では国と省の環境的限界との整合性を保つために対策の強化が必要である

Food production in China requires intensified measures to be consistent with national and provincial environmental boundaries

doi:10.1038/s43016-020-00143-2

2030年に中国での持続可能な食料生産を達成するには、施肥の最適化、生産効率の改善、食品ロスと廃棄物の削減、食事パターンの移行といった戦略を地域間にまたがって組み合わせ、食料生産を中国北部から南部へ再配分する必要がある。ここでは、戦略を実施する手段と障害について論じる。

Perspective: ワンヘルスの視点から見た持続可能な養殖

Sustainable aquaculture through the One Health lens

doi:10.1038/s43016-020-0127-5

2050年までには、水産物による食事性タンパク質の大半が養殖部門で生産されることになる。本論文では、養殖業の急激な成長と発展を持続可能な形で切り抜ける指針となる15の指標を示している。

Review Article: 人間の健康のためにコムギを改良する戦略

Strategies to improve wheat for human health

doi:10.1038/s43016-020-0134-6

精白小麦粉を使用した食品と人間の健康に関する懸念が生じている。本総説では、コムギを使用した食品中の主な炭水化物成分の量や組成、相互作用が人間の健康に及ぼす影響と、これらの成分を操作する戦略について概説する。

Brief Communication: 「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」の採用は各国の温室効果ガス排出量に異なる影響を及ぼす

Adoption of the ‘planetary health diet’ has different impacts on countries’ greenhouse gas emissions

doi:10.1038/s43016-020-0128-4

気候変動緩和活動では、食生活の変化が各国に及ぼす影響を考慮する必要がある。今回、国際貿易を含む食品の移動経路のモデル化したところ、EATランセット委員会が提案する食生活を採用することにより、低、中、高所得国の温室効果ガス排出量がどのように変化するかについての予想が明らかになった。

Brief Communication: 大学のカフェテリアでカウンターに置く料理の順番と選択肢の間隔はベジタリアン料理の売り上げに影響を及ぼす

Order of meals at the counter and distance between options affect student cafeteria vegetarian sales

doi:10.1038/s43016-020-0132-8

食肉消費量を削減する方法の1つとして、ベジタリアン料理を最初にカウンターに並べておくことが提案されている。今回、大学の2カ所のカフェテリアで行われた10万5143回の料理の選択に関する実験的研究により、料理の選択肢の間の物理的距離という条件つきで、この仮説が裏付けられた。

Article: Sukkula様転移因子の遺伝子移入による低カドミウムオオムギの育種

Breeding for low cadmium barley by introgression of a Sukkula-like transposable element

doi:10.1038/s43016-020-0130-x

人間が毒性の高い重金属であるカドミウム(Cd)にさらされる主な原因は食事である。今回、オオムギの穀粒へのCd集積に関与するP型重金属ATPase 3(HvHMA3)をコードする遺伝子が同定された。また、Sukkula様の転移因子がHvHMA3の発現の上方制御で重要な役割を果たしており、穀粒でのCd集積を低減させることが明らかになった。

Article: チーズのマイクロバイオームのメタ分析は品質に関する複数の側面への寄与を明らかにする

Meta-analysis of cheese microbiomes highlights contributions to multiple aspects of quality

doi:10.1038/s43016-020-0129-3

チーズのマイクロバイオームとこれに対応するボラチロームの高分解能メタ分析から、チーズの生産を向上させるための技術的・生態学的洞察が得られた。

Article: 産業的に飼育された食用昆虫での細菌芽胞の同定と食品由来ウイルスの選択的検出

Identification of bacterial endospores and targeted detection of foodborne viruses in industrially reared insects for food

doi:10.1038/s43016-020-0120-z

産業的な昆虫の生産は、これまで昆虫が消費されていなかった地域で特に拡大しているが、食品安全性基準はいまだに制定されていない。ここでは、未加工の昆虫由来の微生物学的汚染物質が存在する可能性について調査し、細菌胞子による食中毒のリスクは高いが、ウイルスによるリスクは低いことが明らかになった。

Review Article: 培養肉に関する科学、持続可能性、規制の問題点

Scientific, sustainability and regulatory challenges of cultured meat

doi:10.1038/s43016-020-0112-z

従来の畜産のような欠点がない食肉の生産は、将来の食料安全保障と栄養安全保障に大きく寄与することになると考えられる。ここでは、この急速に発展しているバイオテクノロジー分野の生物学的・技術的問題と、規制や消費者の受け入れに関する問題について取り上げる。

Review Article: ナノテクノロジーを使用する栽培農業の技術成熟度および持続的な実施における障害の克服

Technology readiness and overcoming barriers to sustainably implement nanotechnology-enabled plant agriculture

doi:10.1038/s43016-020-0110-1

ナノテクノロジーは、栽培農業に応用できる大きな可能性を秘めている。本稿では、この分野の技術成熟度を明らかにし、ナノテクノロジーを用いる技術の採用に対する最大の障壁について検討し、ナノテクノロジーを用いる農業を促進するためのロードマップを提案する。

Article: ニュートリオームとメタボロームの相互関係は食事摂取と代謝に関する洞察をもたらす

Nutriome–metabolome relationships provide insights into dietary intake and metabolism

doi:10.1038/s43016-020-0093-y

今回、米国の成人1848人の尿の代謝表現型解析から、構造的に同定された46種類の代謝物が67種類の栄養素の摂取による影響を受けること、これらの代謝物によって健康な食事パターンと不健康な食事パターンを正確に予測できることが明らかになった。これらの尿中バイオマーカーは食事由来で安定しており、測定可能で疾患リスクと関連していることから、食事パターンに関する情報を得るための従来の方法より進歩したものとなっている。

Article: 世界の畜産物のサプライチェーンに伴う窒素排出量

Nitrogen emissions along global livestock supply chains

doi:10.1038/s43016-020-0113-y

畜産による温室効果ガスの排出量は、フードシステムの持続可能性にとって重要である。世界の畜産物のサプライチェーンに関する空間明示型分析から、種やシステム、生産強度、家畜飼料の由来や管理によって窒素利用効率が大幅に変動することが示された。

Article: アフリカ・サブサハラ地域の作物収量の低さを克服するための保全農業の限界

Limits of conservation agriculture to overcome low crop yields in sub-Saharan Africa

doi:10.1038/s43016-020-0114-x

持続可能な農業を強化するため、保全農業の原則が広く推奨されているが、アフリカ・サブサハラ地域の作物収量に対する保全農業の効果はほとんど明らかにされていない。今回、16カ国を対象としたメタ分析からこれらの効果が定量化されるとともに、最大の効果が得られる条件が明らかになった。

Review Article: 真菌性および卵菌性の新たな作物病原体が世界の食料安全保障にもたらす脅威

Threats to global food security from emerging fungal and oomycete crop pathogens

doi:10.1038/s43016-020-0075-0

真菌性および卵菌性の新たな病原体は、世界の食料安全保障に対する大きなリスクとなっている。本総説では、病原体の侵入や拡散、現在の病害防除戦略に影響を及ぼす要因について概説し、新たな作物病原体による問題に対処するための研究が取るべき方向性を明らかにしている。

Review Article: 新たな食品技術に対する消費者の受け入れ

Consumer acceptance of novel food technologies

doi:10.1038/s43016-020-0094-x

新規の破壊的な技術に対する消費者の受け入れは、その技術の実現やフードシステムを変化させる力を築くのに重要である。ここでは遺伝子工学、ナノテクノロジー、培養肉、食品照射を例に取り上げ、食物新奇性恐怖や嫌悪感受性、文化的価値という枠組みを通して消費者の受け入れを検討する。

Brief Communication: アルコール飲料に添加されたメタノールの検出を可能とするポケットサイズの装置

A pocket-sized device enables detection of methanol adulteration in alcoholic beverages

doi:10.1038/s43016-020-0095-9

偶然に、または意図的にメタノールが混入されたアルコール飲料の摂取による死亡は、特にアジアでは重大な公衆衛生問題となっている。今回、携帯型の検査装置と組み合わせたスマートフォンアプリが公開され、消費者や飲料メーカー、法執行当局、医療従事者が迅速かつ正確にメタノールを定量することが可能となった。

Article: 食事代謝タイプのモデルは食事介入への個人の反応を予測する

Dietary metabotype modelling predicts individual responses to dietary interventions

doi:10.1038/s43016-020-0092-z

食事介入に対する個人の反応にはばらつきがあることが報告されている。今回、高度に管理された摂食研究から得られたデータと尿代謝の表現型を組み合わせることで、個人間の反応を統合する食事代謝タイプスコア(Dietary Metabotype Score)が開発された。このスコアは、個人レベルでの摂食反応を標的として強化することで、食事に関連する疾患の問題を集団レベルで減少させる方法となる可能性がある。

Article: 中国でのリン循環のネットワークレジリエンスは1600~2012年の自然流量、肥料の使用、食生活の変遷によって変化した

Network resilience of phosphorus cycling in China has shifted by natural flows, fertilizer use and dietary transitions between 1600 and 2012

doi:10.1038/s43016-020-0098-6

リン循環経路およびそれらが撹乱に耐える力は、持続可能かつ十分な食料生産にとって重要である。生態系ネットワーク分析を中国のマルチノード循環ネットワークに応用したところ、リン循環の完結に対する感度とエントリーポイントが明らかになった。

Article: 動物由来の食品は米国の最小限の費用で栄養学的に十分な食事構成に必要である

Animal-sourced foods are required for minimum-cost nutritionally adequate food patterns for the United States

doi:10.1038/s43016-020-0096-8

食事構成の手頃な価格は国によって異なり、そのため、栄養所要量を満たすのに必要な動物および植物由来の食品のレベルにも影響が及んでいる。今回Chungchunlamたちは、最適化モデルを用い、最小限の費用で栄養バランスのとれた米国の食事の構成要素を明らかにした。

Perspective: 熱帯農業の再興は食料生産、農村経済、健康、社会正義および環境に有益な結果をもたらす

A re-boot of tropical agriculture benefits food production, rural economies, health, social justice and the environment

doi:10.1038/s43016-020-0076-z

荒廃した農地の復旧は、食料安全保障に寄与するだけでなく、持続可能性、農村生活の維持、経済、社会、文化にメリットをもたらすことがある。カメルーンでの長年にわたる混農林業(アグロフォレストリー)プログラムから、こうした有益な結果が明らかになった。

Perspective: イノベーションは持続可能なフードシステムへの移行を促進する

Innovation can accelerate the transition towards a sustainable food system

doi:10.1038/s43016-020-0074-1

技術やシステミックイノベーションは、フードシステムの変革にとって極めて重要である。本稿では、有望な技術を明らかにし、それらの成熟度を評価し、イノベーションを促進するための8つのアクションプランを提案する。

Review Article: 作物バイオテクノロジーと食の未来

Crop biotechnology and the future of food

doi:10.1038/s43016-020-0072-3

作物収量は世界の多くの地域で停滞し、気候変動は世界的な農業システムを脅かしている。ここでは、農業バイオテクノロジーによって食用作物の形質を強化するため、ゲノム解析と画期的な新しい植物育種技術を活用する最近の動向について包括的な概観を示す。

Article: 郡およびパントリーレベルでの圧力の時間的・空間的指標によって評価したインディアナ州中南部での緊急食料システムへのアクセシビリティー

Accessibility to emergency food systems in south-central Indiana evaluated by spatiotemporal indices of pressure at county and pantry level

doi:10.1038/s43016-020-0079-9

フードパントリーは、米国の緊急食料援助ネットワークの一部となっているが、食へのアクセスの構成要素としての研究が不足している。本稿で開発した「パントリーアクセシビリティー指標(Pantry Accessibility Index)」と「個人アクセシビリティー指標(Individual Accessibility Index)」は、インディアナ州中南部の食料不足に対するこうしたサービスの時間的・空間的な利用可能性の測定を可能とするものである。

Article: 世界的な水産物貿易に組み込まれているポリ塩化ビフェニルの人体への曝露

Human exposure to polychlorinated biphenyls embodied in global fish trade

doi:10.1038/s43016-020-0066-1

食料安全保障は、汚染された食品の国際貿易によって脅かされている。今回Huangたちは、毒性化学物質であるポリ塩化ビフェニル153(PCB153)への消費者の曝露をモデル化する方法を示し、輸入された魚の摂取によって消費者のPCB153への曝露が多くなっている地域を特定した。

Analysis: 新たな水産養殖飼料の世界的な普及は2030年までに餌魚の需要を大幅に減少させる可能性がある

Global adoption of novel aquaculture feeds could substantially reduce forage fish demand by 2030

doi:10.1038/s43016-020-0078-x

新たな水産養殖飼料は急速に開発されているが、持続可能な業界の成長に対する寄与は明らかにされていない。今回Cottrellらは、飼料効率と脂肪酸プロフィールをモデル化し、餌魚を新たな飼料成分で代替することによって世界的な食料安全保障における水産養殖の役割を強化できることを明らかにした。

Perspective: 食用作物の改良を促進するCRISPR法

A CRISPR way for accelerating improvement of food crops

doi:10.1038/s43016-020-0051-8

CRISPR技術は植物のゲノム編集で広く用いられ、精密育種に役立つ可能性が高い。CRISPR技術を食用作物に応用すれば、作物合成生物学や作物の栽培化が期待できる。著者たちは、発展途上国でのCRISPR技術の利用に対する規制政策の影響についても論じている。

Perspective: 南アジアでの食糧安全保障と栄養安全保障の実現では性差が極めて重要である

The achievement of food and nutrition security in South Asia is deeply gendered

doi:10.1038/s43016-020-0059-0

農業部門や食料部門の多くの女性にとって、男女不平等や差別的法律、経済的不安定性は未だに根強く残っている。本稿では、経済成長にもかかわらず、南アジアの一部の地域で続いている栄養失調や食料不安について女性の力を阻む社会的・政治的構造の観点から考証する。

Article: 組織状ダイズタンパク質による足場材料は培養肉用の3次元ウシ骨格筋組織の作製を可能にする

Textured soy protein scaffolds enable the generation of three-dimensional bovine skeletal muscle tissue for cell-based meat

doi:10.1038/s43016-020-0046-5

動物の骨格筋細胞の培養は、従来の畜産を行わない新たなタンパク質供給源となる可能性がある。今回Ben-Ayreたちは、組織状ダイズタンパク質を細胞外マトリックスの足場として用いることで、in vitroでの培養肉生産における課題の1つに取り組んだ。この方法により、骨格筋細胞を3次元で発達させ、人間が消費する肉に似た製品を生産することが可能となった。

Article: 中国でのアフリカ豚熱の大流行による世界的な経済的影響のモデル化

Modelling the global economic consequences of a major African swine fever outbreak in China

doi:10.1038/s43016-020-0057-2

アフリカ豚熱(ASF) により東アジア、特に中国での豚肉生産が減少しているが、ASFの世界的な経済コストは明らかになっていない。今回Mason-D’Crozたちは、中国のASF大流行シナリオが世界の豚肉市場に及ぼす影響のモデル化から、豚肉や牛肉、鶏肉の価格が上昇し、中国での一人当たりのカロリー摂取量が減少すると予測している。

Article: 地域での食用作物生産は人口の1/3以下の需要しか満たすことができない

Local food crop production can fulfil demand for less than one-third of the population

doi:10.1038/s43016-020-0060-7

今回、「フードシェッド」モデルによって世界の作物の生産地と消費地の最小距離が示された。その結果、収量格差の縮小や食品ロスの削減のレベルに違いはあっても、世界人口の大半は食料を得るため貿易に依存していることが示された。

Perspective: 都市園芸の潜在的可能性

The hidden potential of urban horticulture

doi:10.1038/s43016-020-0045-6

多くの都市には、果物と野菜に対する住民の需要を満たすのに十分なスペースがある。今回、英国のシェフィールドの事例研究に基づく概念的枠組みから、都市園芸の未開発の可能性を実現する機会と、その際の重要な課題が浮き彫りとなった。

Perspective: 持続可能な開発のための畜産政策

Livestock policy for sustainable development

doi:10.1038/s43016-020-0042-9

畜産物は、環境や人間の健康、動物福祉の観点から厳しく監視されている。将来の政策決定では、畜産と「持続可能な開発目標(SDGs)」との相互作用の複雑さなどを示し、それらと取り組んでいく必要がある。

Article: カリフォルニア州の多年生作物の収量に対するオゾンおよび気候変動の影響

Impacts of ozone and climate change on yields of perennial crops in California

doi:10.1038/s43016-020-0043-8

果物やナッツといった多年生作物は、食事の多様性や栄養にとって重要であり、カリフォルニア州では農産物の経済価値の約40%を占めている。今回、カリフォルニア州の多年生作物の過去の収量と将来の収量に対する気候変動とオゾンの影響が評価された。

Article: 政策のパッケージ化がフードシステムの転換を実現可能にする

Policy packaging can make food system transformation feasible

doi:10.1038/s43016-020-0047-4

今回、フードシステムが環境に与える影響を削減するための政策パッケージの受け入れについて、中国、ドイツ、および米国の合同実験で検証が行われた。持続可能なフードシステムを実現するためには人気がない方法も用いられる可能性があるが、政策を戦略的にパッケージ化することで、こうした方法に対する市民の支持が高まる可能性がある。

Review Article: 食品ゲルの設計原理

Design principles of food gels

doi:10.1038/s43016-019-0009-x

今回の包括的な総説では、食品ゲルの構成要素的性質、設計方法、構造特性について述べ、食品科学、栄養および健康業界に関する用途を示す。

Article: インターロイキン10に対するシングルドメイン抗体を発現したトウモロコシを給餌したアイメリア感染鶏での成績の向上

Improved performance of Eimeria-infected chickens fed corn expressing a single-domain antibody against interleukin-10

doi:10.1038/s43016-020-0029-6

家禽のコクシジウム病は、全世界で年間30億ドルの生産損失をもたらし、予防的な抗菌剤の使用によって管理されている。今回Lessardたちが、コクシジウム症を軽減するための遺伝子組換えトウモロコシに基づく鶏用飼料を開発したところ、このトウモロコシを給餌したアイメリア感染群では無処置対照群と比較して腸の病変が減少し、体重および飼料効率が改善した。トウモロコシ給餌群とサリノマイシン処置群が同等の結果を示したことから、抗菌剤を使わずにコクシジウム症を管理できる可能性が示された。

Article: 土壌水分と大気蒸発需要の複合影響は米国のトウモロコシ収量の正確な予測に重要である

Combined influence of soil moisture and atmospheric evaporative demand is important for accurately predicting US maize yields

doi:10.1038/s43016-020-0028-7

熱ストレスと水分ストレスに対する農作物の反応を解明することは、気候変動下で食料システムを適応させるのに不可欠である。今回、新たに利用可能になった衛星による土壌水分データを用いた研究から、米国のトウモロコシ収量を正確に予測するには、土壌水分と大気蒸発需要の複合影響が重要であることが明らかになった。

Article: ルビスコを過剰生産する遺伝子組換えイネは窒素利用効率を向上させることで実験水田で収量の増加を示す

Transgenic rice overproducing Rubisco exhibits increased yields with improved nitrogen-use efficiency in an experimental paddy field

doi:10.1038/s43016-020-0033-x

今回、リブロース1,5-二リン酸カルボキシラーゼ-オキシゲナーゼ(ルビスコ)の過剰生産によって光合成活動が増加するよう改変した遺伝子組換えイネは、窒素利用効率の向上によって実験水田での収量が増加することが示された。

Review Article: 肥満と糖尿病に関する世界的危機を軽減するための食生活と政策の優先順位

Dietary and policy priorities to reduce the global crises of obesity and diabetes

doi:10.1038/s43016-019-0013-1

肥満や2型糖尿病を抑制するための食事法や政策的アプローチは、議論を引き起こしたり混乱を招いたりすることがある。ここでは、食生活と健康に関する最先端の新たな証拠を統合し、政策について検討し、栄養科学分野の進化と食生活に対するアドバイスの変化の整合性を図っている。

Review Article: 国際貿易と食料システム、栄養失調、気候変動のネクサス

The nexus between international trade, food systems, malnutrition and climate change

doi:10.1038/s43016-019-0014-0

貿易協定は、政府が栄養の改善や気候変動の緩和を目的とした食料システムレベルの行動を実行するのを制約したり、可能としたりする可能性がある。ここでは、食料システムと相互作用がある貿易協定の技術的・政治的側面について再検討し、貿易政策における目標と、栄養や気候変動といった公共の利益における目標の間の整合性について論じる。

Brief Communication: 全球的なオメガ3脂肪酸サイクルの定量化に対するシステムアプローチ

Systems approach to quantify the global omega-3 fatty acid cycle

doi:10.1038/s43016-019-0006-0

オメガ3脂肪酸は人間の食生活にとっても、一部の水産養殖や家畜の飼料用にとっても重要である。本論文では、供給のギャップについて報告し、定量的システム分析を用いて全球的なオメガ3脂肪酸サイクルの効率を高めるための標的を明らかにしている。

Article: 1961年~2013年の世界的な食料供給の多次元評価

Multidimensional characterization of global food supply from 1961 to 2013

doi:10.1038/s43016-019-0012-2

食料システムは、グローバル化と相互依存がますます進んでいる。今回Benthamたちが、170カ国以上の国々の食料供給データを用いて50年間にわたる世界的な食料供給の変化のパターンを評価したところ、欧米諸国の多くの国々では動物性食品と砂糖の供給量が低下し、アジア諸国ではこれらの食品の供給量が増加していること、アフリカ・サブサハラ地域の食料供給量は驚くほど変化していないことが明らかになった。

Article: 気候の転換点後の英国の国土利用と食料生産の変化

Shifts in national land use and food production in Great Britain after a climate tipping point

doi:10.1038/s43016-019-0011-3

大西洋南北熱塩循環(AMOC)の崩壊は、英国の農用地利用とその経済的価値に影響を及ぼすと考えられる。今回Ritchieらは、AMOCのなだらかな崩壊(従来の気候変動)と急激な崩壊(転換点の変化)が英国の土地利用や耕作農業、関連する経済生産高に及ぼす影響と、大規模灌漑といった技術的適応の経済的実現可能性についてモデル化を行った。

Article: グンバイナズナの栽培化に必要となる重要な形質の特定とスタッキング

Identification and stacking of crucial traits required for the domestication of pennycress

doi:10.1038/s43016-019-0007-z

グンバイナズナ(Thlaspi arvense)を冬季の被覆作物として栽培すれば、新たな食料源と副産物を提供できる可能性がある。今回Chopraたちは、複数の望ましい形質をスタッキングすれば、グンバイナズナを速やかに栽培化できることを実証した。得られた作物は現在の輪作に溶け込み、栄養価が高く、収穫しやすく、食用に適した種子を生産すると考えられる。

Comment: 未来を見すえた食料システムアナリストの育成

A future workforce of food-system analysts

doi:10.1038/s43016-019-0003-3

英国の5つの大学では、食糧安全保障や環境や企業のため、食料システムの複雑さに対する理解を深めたり、より適正に管理したりするのに必要な技能やツール、能力を大学院生に身につけさせることを目的としたプログラムが開発されている。

Perspective: 人間の食事の化学的な複雑さはマッピングされていない

The unmapped chemical complexity of our diet

doi:10.1038/s43016-019-0005-1

機械学習などの進歩により、食品をあらゆる生化学的角度から系統的に研究することが可能になると考えられる。栄養学の「未知の物質」を明らかにすれば、私たちが食べているものの組成と、それが健康や疾患にどのように関わっているのかをより深く理解するための新たな道が開かれる可能性がある。

Article: 温暖化がコムギに及ぼす影響のモデルでの高緯度地域と低緯度地域の不確実性分布の違い

Different uncertainty distribution between high and low latitudes in modelling warming impacts on wheat

doi:10.1038/s43016-019-0004-2

全球グリッド作物モデルは、作物収量に対する気候変動の影響をシミュレーションするものだが、不確実性の定量化が難しいことから信頼性が低くなっている。今回Xiongたちは、パラメタリゼーションの方法によって不確実性がどう低下するかを調べ、中・高緯度地域で生育するコムギの収量では、将来の不確実性が大きくなることを明らかにした。

News & Views: 全球作物モデルの不確実性

Uncertainties in global crop modelling

doi:10.1038/s43016-019-0008-y

気候変動下でのコムギ生産に関する無矛盾全球グリッドマルチモデル評価から、特に中・高緯度地域では、作物モデルによって大きな不確実性が生じることが指摘された。

Perspective: 農家だけに止まらない窒素汚染政策

Nitrogen pollution policy beyond the farm

doi:10.1038/s43016-019-0001-5

本稿では、フルチェーンの窒素利用効率という概念に基づいて、農業・食品チェーンの主要な行為者を標的とする政策介入と基準について提案する。

「Journal home」へ戻る

プライバシーマーク制度