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アルツハイマー病:統合マルチオミクス手法からアルツハイマー病に関連するエピジェネティックな変化を特定

Nature Genetics 52, 10 doi: 10.1038/s41588-020-0696-0

タンパク質凝集は神経変性の大きな特徴であるが、遅発性のアルツハイマー病(AD)の原因となる分子機構は分かっていない。本論文では、死後のヒト脳についてのトランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、エピゲノム解析を統合することによって、ADに関与する分子経路を特定したので報告する。RNA塩基配列決定の解析から、H3K27acやH3K9acのヒストンアセチルトランスフェラーゼをはじめとする、転写関連およびクロマチン関連の遺伝子群の発現上昇が明らかになった。プロテオームの不偏スクリーニングから、ADに特異的に豊富なものとして、H3K27acとH3K9acが選抜された。次に、エピゲノムプロファイリングから、H3K27acおよびH3K9acというヒストンH3修飾の獲得が、ADの転写、クロマチン、疾患の経路に結び付けられることが明らかになった。ADのハエモデルにおいて、H3K27acおよびH3K9acがゲノム規模に増加すると、アミロイドβ42による神経変性が増悪した。総合的にこれらの知見から、ADにはエピゲノムの再構成が伴い、その結果H3K27acおよびH3K9acが、転写と遺伝子およびクロマチンと遺伝子のフィードバックループの調節異常を引き起こして、疾患経路に影響を及ぼすことが示唆された。この過程の特定から、初期段階のAD治療のための有望なエピジェネティック戦略が明らかになる。

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