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α+サラセミアのマラリア防御効果と鎌状赤血球形質との負のエピスタシス

Nature Genetics 37, 11 doi: 10.1038/ng1660

ヘモグロビンの構造や産生の異常であるヘモグロビン症は、マラリア抵抗性を示し、マラリアによる死亡に至らない。サハラ以南のアフリカにおいては、2種類のこのような遺伝子異常が特に高頻度で発生する。すなわち、構造変異体ヘモグロビンSと、ヘモグロビンを構成する正常なαグロビンの産生低下を特徴とする遺伝子異常であるα+サラセミアが存在する。これらの遺伝子異常は、それぞれ個別に熱帯熱マラリア原虫Plasmodium falciparumによる重症マラリアの感染に対して抵抗性を示すが、これらが遺伝的に共存した場合のマラリア防御効果についてはほとんど知られていない。我々は、この問題を明らかにするためにケニヤの海岸地域の集団について調査し、それぞれの遺伝子異常が単独で遺伝した場合にもたらされる防御効果が、2種類同時に遺伝している場合には、失われるということを見いだした。すなわち、ヘモグロビンS変異をもたらす突然変異についてヘテロ接合性で、α+サラセミアの原因となる突然変異に関してはホモ接合性である小児では、併発症を伴わないマラリアの発生率も重症マラリアの発生率もほぼ基準値を示すものであった。この負のエピスタシスは、サハラ以南のアフリカの集団ではどの集団にも、α+サラセミアが固定されるに至らなかったことを説明するものかもしれない。

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