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顔を見分けるハチ

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120205

原文:Nature (2011-12-01) | doi: 10.1038/nature.2011.9533 | Wasps clock faces like humans

Alla Katsnelson

ある種のアシナガバチは、仲間の顔を認識できる。 これは、社会環境への適応によるものなのかもしれない。

一度見た顔は決して忘れないという人がいる。これは人特有のものではない。アシナガバチの一種Polistes fuscatusも、自分と同じ種類のハチの顔を認識できるというのだ。ヒトでは、この認知能は、顔認識のためだけに進化し、特殊化した脳領域に依存すると考えられている。このほど、ミシガン大学(米国アナーバー)のElizabeth TibbettsとMichael Sheehanは、 P. fuscatusでも同様の機構がある可能性があると発表した1

よく見てください。どのハチに刺されたかわかりますか?

Science/AAAS

2002年、当時コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)の大学院生だったTibbettsは、P. fuscatusが顔の特徴から仲間を認識できることを示した2。しかし、こうした能力が、進化的適応によるのか、それとも生物が生きていく過程で学習するのかは、研究者たちの間で議論になってきた。

顔の重要性

P. fuscatusの顔には多くの明らかな特徴がある。これは、同じ巣にしばしば複数の女王が存在し、厳密な社会的序列を確立していなければならないためだ。つまり、争いを避けるために、お互いを見分けて社会的地位を認識しているというのだ。Sheehanらは、P. fuscatusの顔認識能力を近縁種のPolistes metricusと比較した。P. metricusの顔にはあまり特徴がない。P. metricusでは、1匹の女王が1つの巣を統治するため、お互いを識別する必要がないのだろう。

Sheehanらはまず、野生のP .fuscatusを捕獲し、電気刺激のある迷路で、2枚の画像を見分けると安全地帯に到達できる道を見つける訓練を行った。その結果、P. fuscatusは、画像がハチの顔の場合、どちらの種の顔画像でも、安全地帯に誘導する顔を迅速に識別することを学んだ。しかしながら、画像が餌である毛虫や単純な黒白模様である場合は、あまり識別できなかった。また、触覚を取ったり、顔の特徴を再構築したりしても、識別速度が遅くなった。これに対し、P. metricusは、P. fuscatusとは逆に、顔よりもほかの画像をよりよく識別した。

P. fuscatusでは、同種の顔を認識する目的だけのために、パターン認識回路に何らかの微調整があったにちがいありません」と、ロンドン大学クイーンメアリー校(英国)の行動・感覚生態学者Lars Chittkaは話す。

Sheehanは、「驚きなのは、これらの昆虫が脊椎動物と同じタイプの特殊化を示すことです」と話す。このことは、まだ見つかってはいないが、特殊化した学習能力を進化させた動物が多く存在する可能性を示している。

一方、マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の認知神経科学者Nancy Kanwisherは、この能力が進化的適応なのか、後天的学習によるものかという議論は、今回のデータからはまだ確定していない、と話す。Sheehanは、個体の学習と進化的適応の両方が関与しているのではないかと考えており、現在、この問題を明らかにしようとしている。

「もし進化的適応が関与しているなら、こんなに小さな脳で、どうやってこんなに複雑な作業を遂行できるのでしょう。とても興味深いです。この新しい技能を進化させるためには、脳の大きな再構築が必要なのでしょうか? それとも、ごくわずかな変化しか必要ないのでしょうか?」とChittkaは語っている。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Sheehan, M. J. & Tibbetts, E. A. Science 334, 1272–1275 (2011).
  2. Tibbetts, E. A. Proc. Biol. Sci. 269, 1423–1428 (2002).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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