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手続きが簡素化されるEU助成プログラム

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120117

原文:Nature (2011-10-06) | doi: 10.1038/478016a | Europe cuts funding red tape

Natasha Gilbert

総額800億ユーロ(約8.3兆円)にのぼる欧州連合の次期研究助成プログラム「ホライゾン2020」では、さまざまな手続きの簡素化が図られる見通しとなった。

Natureの得た情報によれば、欧州連合(EU)の次期研究助成プログラムは、地味ながら重要な改革が実施され、研究者が利用しやすい制度となりそうだ。

総額505億ユーロ(約5兆3000億円)の第7次フレームワークプログラム(FP7)では、大量のタイムシート、財務監査、複雑な規則など、煩わしい管理作業を嫌って、一部の科学者が参加を見送った(EUもこれを認めている)。

2011年11月後半、次期(2014~2020年)の計画であるホライゾン2020(Horizon 2020)が発表される。欧州委員会は800億ユーロ(約8兆3000億円)を要求しているが、予算の合意はまだなされていない。このほど、Natureは、ホライゾン2020の提案書を閲覧する機会を得た。そこには、手続き面で著しい簡素化が図られることが示されていた。

ホライゾン2020では、共同研究プロジェクトや欧州工科大学院(本部:ハンガリー・ブダペスト)の後援による研究プロジェクトなどを含めて、すべてのイニシアチブに単一の規則集が適用されることになる。この規則集には、提案書の評価手順、助成金交付の判定基準、プロジェクトの間接費用として請求可能な項目なども定められている。また、研究成果と知的財産権の利用に関する規則にはいくつかの例外も認められ、イノベーションの振興が意図されている。これは、Máire Geoghegan-Quinn研究・イノベーション・科学担当委員がめざしてきた重要目標の1つでもある。すべてのイニシアチブについて「共通の基本原則」を定めることで、「規則の大幅な簡素化と規制緩和」につながる、と提案書には記されている。

「申請と管理を簡素化する動きは、大いに歓迎すべきです」。こう話すのは、マンチェスター大学(英国)のがん研究者Adam Hurlstoneだ。Hurlstoneは、2011年に欧州研究会議(ERC)から研究助成金を受けた。ERCはヨーロッパ全体を対象とするイニシアチブで、卓越性のみを唯一の判断基準として最先端研究に対する研究助成を決めており、比較的単純な申請過程は研究者の評判がよい。Hurlstoneは、ほかのイニシアチブに助成金申請をするのは「組織化や管理のための作業の負担が大きいので断念しました」と話している。

さらに、ホライゾン2020では、「卓越性」によって研究助成を決めるイニシアチブを1つのグループにまとめて、管理作業の一本化を図った。ここには、ERC研究助成金や人気の高い若手研究者向けのマリー・キュリー・フェローシップも含まれる。ホライゾン2020の注目すべき特徴は、健康、食料安全保障、クリーンエネルギーなど社会に影響する6つの重要課題に、助成金の一部を割り当てる点だ。

またホライゾン2020では、間接費、例えば実験室の事前確保や設備の保守管理の請求が、簡略化されそうだ。欧州委員会認定の会計制度を採用していない研究機関に対しては、一律の割合で間接費を出すつもりだ。これにより、会計上の「頻繁な誤り」が回避される、と欧州委員会は考えている。

その一方で、欧州委員会は、研究費の詳細な支出報告書の提出義務については、撤廃を見送った。つまり、研究者はこれからも、タイムシートを作成し、研究プロジェクト終了時に財務監査を受けなければならない。また、研究助成金の全額一括交付についても拒否した。その代わりに、タイムシートの記入方法を明確化するとともに、ERC研究助成金などを受けてフルタイムで働く研究者については、時間記録を廃止した。

ホライゾン2020の提案書には、これ以上の抜本的改革を進めるには、「欧州委員会自体の大幅な組織改革」、例えば、新たな技能の習得やスタッフの配置換えなどが必要になると記されている。年配のヨーロッパの科学顧問が、匿名を条件に次のように語った。「もう少し大胆な改革が見たかったです。欧州委員会の関心事が、当面する問題の解決にあるわけではないのが明白です」。

ホライゾン2020の提案書では、ERCの独立性を高めることと、欧州委員会がERCに強いている行政負担を軽減することは、明確に否定されている(Nature http://dx.doi.org/10.1038/news.2010.615; 2010参照)。むしろ逆で、ERCは、去る7月のタスクフォース勧告に従って、欧州委員会の部分的管理下に置かれた状態を維持する。このタスクフォースには、ERCのHelga Nowotny理事長やErnst-Ludwig Winnacker前事務総長がメンバーとして加わっていた。「抜本的な改革が難しすぎ、ERCの存在自体が危うくなってしまうので、こうした結論に達しました」とWinnackerは打ち明ける。

欧州委員会は、正式発表の前に、提案書の詰めと予算の割当てを行うことになる。欧州委員会、EU加盟各国と欧州議会の協議には約18か月が必要とされ、ホライゾン2020が始動する2014年までに最終版の合意をめざすことになる。

(翻訳:菊川 要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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