紫外線で傷を修復できるポリマー
紫外線は人体に悪影響を及ぼすが、その紫外光を利用すると、弾性ポリマーにできたひっかき傷が修復できるという。Burnworthら1はNature 2011年4月21日号の334ページで、特別設計の弾性ポリマーの傷が紫外光で修復可能であることを報告している。今回の「光で修復可能な材料」は、超分子金属錯体を含有するポリマーで作られている。超分子金属錯体が紫外光を吸収して熱に変換し、そこから修復過程が始まるわけだ。光は損傷部のみに正確に照射することができるので、この方法を使えば、荷重のかかったポリマーであっても限られた場所だけを修復できる可能性がある。
靭性の高いゴム状プラスチックは、消費者製品の分野にまさに大革命をもたらしている。スーパーのレジ袋やプラスチック製保存容器から、タイヤのチューブ、保護用シートに至るまで、さまざまな用途に幅広く使われている。ところがこうした材料は、引っかき傷や突き刺し損傷に弱く、穴が空いたり、中身が漏れ出したり、いろいろな問題が生じてしまう。そして損傷したプラスチックは、通常は埋め立て処分される。もちろん、場合によってはパッチを貼り付けて修理されるが、手作業によらねばならない。こうした状況を考えれば、もし修復可能なポリマーができれば、破損しても直ちに廃棄する必要がなくなり、リサイクルできるようになる。さらに、長寿命ポリマーへの第一歩ともなる。
すべてのポリマーは、基本的に、修復可能にできると思われている。実際、さまざまなポリマーやポリマー複合材料について、修復機能を記憶・誘発させる方法が開発されてきた2。多くの場合、材料をガラス転移温度以上に加熱した後で、圧力をかけて、ポリマー鎖が接触・湿潤・拡散・絡み合いを増やすようにしてやれば、亀裂や引っかき傷は修復できる3。しかし、このような力ずくの方法は、修復に時間がかかり実用化は難しい。
ポリマー自体に修復機能を担わせるという方法もある。ポリマー構造を分子レベルで改良し、可逆的または動的に結合する化学基を導入するのである。これにより、材料損傷時に切れた結合が、容易に再形成される。このように修復機構を自己保有させるには、外部からのエネルギー付与(ほとんどの場合は加熱)によって、モノマー状態から架橋ポリマー状態へと可逆的に変換する成分でポリマーを合成すればよい4。ゲル状態にも粘性液体状態にもなる可逆的ゲルは、このような仕組みに基づいた材料であり、数十年にわたって開発が続けられてきた5。また、可逆的ディールス・アルダー反応(2つの炭素–炭素結合が形成される)を利用した修復性ポリマー6が発見され、構造ポリマーは大きな進歩を遂げている。熱(120~150℃)と適度の圧力をかけると、この種のポリマーに入った亀裂は何度でも修復できるのだ。
別の修復機構保有方式としては、超分子集合体を利用したものが有望だ。従来のポリマーはモノマーが共有結合的に結びついているが、超分子ポリマーは、非共有結合で結びついた繰り返し単位から構成されている。このような結合は可逆的であるため、材料損傷時に結合が切れても短時間で再形成される7,8。その一例が、水素結合でつながった超分子ネットワークからなる自己修復性ゴム状材料9である。切断された材料の端と端を室温でくっつけるだけで、それぞれの末端部の分子どうしの間で水素結合が再形成され、材料が修復される。他にも修復性超分子エラストマー10が報告されているが、それらは損傷部の修復に多量の熱を必要とする。
こうした流れの中で、Burnworthら1は今回、超分子ポリマーの熱修復を光照射によって誘発できることを報告したわけだ。「光で修復可能な材料」を作るために、金属イオンと結合可能な配位子を両端に持つ炭化水素オリゴマー(短いポリマー鎖)を用いた。炭化水素オリゴマーの溶液に亜鉛イオン(Zn2+)またはランタンイオン(La3+)を加えると、各イオンが2本(Zn2+の場合)または3本(La3+の場合)のオリゴマーと結合した金属–配位子錯体が形成され、オリゴマーがつながることによって長鎖超分子ポリマーが生成した。これらのポリマーの構造は、疎水セグメント(炭化水素セクション)と極性セグメント(金属–配位子錯体)が何度も繰り返す周期構造であった。
固体状態では、ポリマー鎖の相分離が起こった。これは、ポリマー鎖が折りたたまれて、炭化水素セグメントが多いドメインと金属–配位子錯体が多いドメインに分かれるためである。このように長鎖ポリマーと相分離を利用することによって、物理的に架橋したネットワークが生成し、材料の靭性を高めるような分子構造が得られた。
Burnworthらのポリマーは、紫外光照射による局所修復にまさにぴったりの分子的特徴を備えている。第一に、彼らのポリマーは熱誘起脱重合を起こす。これはおそらく、重合材料と非重合材料の間の平衡が、高温では非重合材料に有利に働くからである。第二に、金属–配位子錯体は紫外光を吸収して励起され、励起された錯体が基底状態に戻るとき、光エネルギーが効率よく熱に変換される。したがって、損傷したポリマー膜に紫外光を照射すると、光が熱に変換された後、材料の脱重合・液化が起こって膜の傷がふさがり、光熱修復が起こった(図1)。
超分子を用いた修復機構内部保有方式は非常に有望であるが、残された重要課題は、自律的に修復する高強度高剛性ポリマーを合成することである。最先端の超分子ポリマーでも、修復が自動的に起こるわけではなく、金属–配位子結合がまだ再形成可能であるうちに、光や熱のエネルギーを供給しなければならない。Burnworthらの研究はこれらの問題に踏み込んでいるわけではないが、新しい刺激的な機会を提供したことは間違いない。異なる金属–配位子錯体は異なる波長の光を吸収するので、修復波長を調節するには単に錯体を変えるだけでよいはずである。そこから、損傷すると変色する「力に敏感なスマートポリマー」が得られる可能性がある。損傷部の色は、修復のきっかけとなる光の波長に対応するため、そのような光を照射すれば、損傷部だけを局所的に修復できることになるわけだ。
翻訳:藤野正美
Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2011.110736
原文
Spot-on healing- Nature (2011-04-21) | DOI: 10.1038/472299a
- Nancy R. Sottos & Jeffrey S. Moore
- Nancy R. Sottos、イリノイ大学材料科学工学科(米国)。
- Jeffrey S. Moore、イリノイ大学化学科 (米国)。
参考文献
- Burnworth, M. et al. Nature 472, 334–337 (2011).
- Blaiszik, B. J. et al. Annu. Rev. Mater. Res. 40, 179–211 (2010).
- Kim, Y. H. & Wool, R. P. Macromolecules 16, 1115–1120 (1983).
- Bergman, S. D. & Wudl, F. J. Mater. Chem. 18, 41–62 (2008).
- Schultz, R. K. & Myers, R. R. Macromolecules 2, 281–285 (1969).
- Chen, X. et al. Science 295, 1698–1702 (2002).
- Brunsveld, L., Folmer, B. J. B. & Meijer, E. W. MRS Bull. 25, 49–53 (2000).
- Serpe, M. J. & Craig, S. L. Langmuir 23, 1626–1634 (2007).
- Cordier, P., Tournilhac, F., Soulié-Ziakovic, C. & Leibler, L. Nature 451, 977–980 (2008).
- Burattini, S. et al. J. Am. Chem. Soc. 132, 12051–12058 (2010).