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科学界の男女格差を調査

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110523

原文:Nature (2011-02-10) | doi: 10.1038/470153a | Science gender gap probed

Gwyneth Dickkey Zakaib

科学界では、あからさまな男女差別はめったに見られなくなったが、女性に対する社会的障壁はまだ残っている。

米国フェルミ研究所でニュートリノ実験に携わる女性研究者。これはかなり珍しい光景だ。 | 拡大する

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男女差別は、「ガラスの天井」や「男だけの同窓会」という言葉にたとえられ、その解消が進められてきた。しかし、現在の科学界で女性が直面する困難を最もよく表している言葉は、「目に見えないクモの巣」である。このクモの巣は、社会、女性の生物学的特性、研究組織など多数の「糸」からなっており、女性研究者はこれらの糸に縛られて、男性と同じ量や速さで業績を上げるのが非常に難しくなっているのである。

これは、物理学やコンピューター科学、工学といった数学が重要な分野で、女性研究者が未だに少ない理由を調べた研究によって導き出された結論だ。研究によると、女性研究者が同等の資質や条件の男性と競った場合に、雇用や論文掲載、助成金受託などの機会が奪われるような公然とした差別は、ほとんど過去のものであるという。それよりむしろ、成果が常に求められる一方で出産・育児のために研究の中断を余儀なくされるという状況、青年期の職業選択に影響を与える社会的要因や「女性」に対する社会的・生物学的期待によって、一部の研究分野における女性の少なさをうまく説明できるというのだ。

全米科学財団が2008年に行った全米の大学の調査では、物理科学分野においてPhDを取得した研究者のうち女性の割合は30%未満だった。上級職でみた場合、物理学関連の分野で正規雇用の教授の女性は10%にすぎない。しかし、コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)で心理学研究に携わるStephen CeciとWendy Williamsが、過去20年間の研究についてよく調べたところ、学術ジャーナルの論文審査員、研究助成組織、雇用委員会については、性差別が続いていることを示す証拠はほとんど見つからなかった。2011年2月7日に公表された彼らの解析結果(S. J. Ceci and W. M. Williams Proc. Natl Acad. Sci. USA 108, 3157-3162)は、あからさまな男女差別が未だに大きな問題であるとするほかの報告とは対照的である。「これらの場で女性が性差別を受けているとする主張が、裏付けもなく常に叫ばれてきました。今回我々は、そうではないことを決定的に示したのです」とWilliamsはいう。

女性研究者は男性研究者に比べて社会的に果たす役割の種類が多いので、仕事の達成度という点で男性に遅れをとってしまうのだ、とCeciとWilliamsは結論付けている。そしてこの問題のほとんどは、突き詰めると、結婚・出産・育児に関連する外的要因に行き着くという。女性研究者が子どもをもつと、同等の能力をもつ男性に比べて研究職を選ぶ率が低くなったり、学生指導の負担は大きいが勤務時間が一定である大学教員の職を選んで研究時間を犠牲にしたりするようになる。CeciとWilliamsは、大学のテニュア(終身雇用資格)の厳しい時間スケジュールそのものが、女性の育児と両立しえないことも指摘している。「女性に幼い子どもがいる時期は、多くの場合研究職についてから5~6年後で、テニュアの候補になる時期に重なると考えられます。これは、実質的に乗り越えられない障害となるのです」とWilliamsは話す。

ただし、このような制約は、すべての科学分野で研究に従事する女性に存在し、これだけでは数学の重要な分野で研究者数の男女格差が最大となっている理由は説明できない。CeciとWilliamsは、別の要因があると指摘する。その1つが、選択する研究分野に男女で差があることで、そうした違いは個人の適性とは無関係の社会的な影響を受けている可能性がある。

一方、ワシントンD.C.に本部を置く米国大学婦人協会(AAUW)の主任研究員、Christianne Corbettは、「あからさまな男女差別が減ったことはほぼ確実ですが、性別によって応募者の判定に差を付けることが過去のものになったと考えるのは、いささか単純すぎます」と言う。AAUWの2010年度報告書(CeciとWilliamsが今回の研究の中で批判している)では、論文審査には男女差別が存在し、雇用には「女性応募者に対する体系的な過小評価」が見られると述べられている。

CeciとWilliamsは、男女差別にばかり焦点を当てていると、格差の真の原因に目が届かないのではないかと危惧する。例えば、審査や雇用を検討する委員会では、もはやジェンダー配慮の研修の必要はなく、幼い子どもをもつ女性のために柔軟なテニュア制度を進める方向に努力していくべきだと彼らは言っている。教育プログラムによって女性の大学院生に十分な情報を提供することで、出産・育児とキャリアに関する決断を助けることもできるだろう。

マサチューセッツ工科大学(MIT;米国ケンブリッジ)の教職員で、男女不平等に関する画期的調査を率いたこともある分子生物学者のNancy Hopkinsは、行動するのをあきらめてしまったら、男女平等の歩みは後退してしまうだろうと警告している。彼女の見るところ、すでにMITでは、幼児のいる教職員が利用できる大学内託児所の設置など、家庭をもつ研究者に優しいいくつかの変革が行われつつある。Hopkinsは、「我々MITは、男女平等な環境という目標までの道のりの約3分の2まで来ています」と話す。だがその一方で、「多くの研究機関は我々よりずっと遅れています」とも指摘している。

(翻訳:船田晶子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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