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血液中のタンパク質の分析でlong COVIDの特徴が明らかに

long COVIDは、疲労感やブレインフォグなどの症状を特徴とする。 Credit: Catherine Falls Commercial/Moment/Getty

ある人が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後遺症(long COVID)を発症する可能性を予測する計算モデルが開発された。

2024年1月18日付のScienceに発表された研究で、チューリヒ大学(スイス)の医師で科学者であるCarlo Cervia-Haslerらは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性者の血液試料と健康な成人の血液試料とを比較した。その結果、long COVIDの人々、COVID-19から回復した人々、およびSARS-CoV-2未感染者の間で、タンパク質の組成に顕著な違いがあることが判明した(C. Cervia-Hasler et al. Science 383, eadg7942; 2024)。

この分析から、免疫、血液凝固、炎症に関与するタンパク質が、世界中で6500万人が罹患していると推定されるlong COVIDの診断とモニタリングにおいて重要なバイオマーカーとなる可能性が示唆される。

long COVIDは、ブレインフォグ(頭の中に霧がかかったようになり、記憶力や集中力が低下する状態)、疲労感、息切れなど200以上の症状と関連付けられており、SARS-CoV-2感染後、数カ月から数年続くことがある。

「この研究は小規模ではありますが、現時点では治療がほとんど不可能とされている症状に対する治療法を試し、開発するための今後の研究の道を開いてくれると期待できます」とインペリアルカレッジ・ロンドン(英国)の呼吸器内科医であるAran Singanayagamは述べる(彼は、今回の研究には参加していない)。

この研究の対象は、COVID-19陽性と判定されたことのない健康な成人39人と、陽性と判定されたことのある113人で、後者のうち40人は、初感染から6カ月後にも症状が見られた(これをlong COVIDと定義)。さらにその40人のうち22人は最初に陽性と判定されてから12カ月後も症状が続いていた。

研究者らは、急性期と6カ月後に採取された268の血液試料から6596のタンパク質を分析した。その結果、long COVIDの人の血液とそうでない人の血液には、血液凝固や炎症に関与するタンパク質の均衡が崩れているなど、いくつかの違いがあることが分かった。

健康な人やCOVID-19から完全に回復した人に比べて、long COVIDの人は、血栓を防ぐ助けをするアンチトロンビンIIIというタンパク質のレベルが低く、血栓形成に関係するトロンボスポンジン1とフォンビルブラント因子というタンパク質のレベルが高かった。

参加者の一部から採取した血液細胞を調べたところ、白血球細胞上のCD41タンパク質の発現が、健康な人で最も低く、long COVIDが12カ月間続いている人で最も高いことが分かった。

CD41は通常、血小板(血液凝固に関与する巨核球という細胞の断片)に存在しており、CD41が白血球表面に存在するのは、白血球が異常に凝集していることを示す。「これが微小血栓の原因になっている可能性があります」とパスツール研究所(フランス・パリ)の免疫ウイルス学者Lisa Chakrabartiは述べる。この微小血栓が組織への酸素の流れを阻害することによって、long COVIDの一部の症状を引き起こしている可能性がある。

Cervia-Haslerらは、long COVID患者では、初感染時および6カ月後の両方で、補体系(通常、感染の除去を助ける免疫防御の一部)の活性化が上昇していることも発見した。long COVIDが6カ月間続いている人では、補体系に関与するいくつかのタンパク質のレベルが低下し、他のタンパク質のレベルが上昇していた。これらのタンパク質の不均衡が組織障害を引き起こしている可能性があると、Cervia-Haslerは述べる。

彼らはさらに、機械学習を用い、さまざまなタンパク質レベルと年齢や肥満度などの要因に基づいて、参加者がlong COVIDを発症するかどうかを予測するモデルを作成した。このモデルを別のデータセットに適用したところ、どの参加者が12カ月間続くlong COVIDを発症するかが良好に予測された。

ようやくスタート地点に

今回の研究の発見のいくつかは、long COVIDの原因に関する既存の理論によく合致しており、「助けとなる(治療法に関する)新しい研究を切り開く可能性があります」とCervia-Haslerは言う。

しかし、この分析は比較的少数の参加者を対象としたものであり、治療法開発の障害となっている症状の根本的な原因を特定したものではない。「私たちは、この新しい分野の探求をやっと始めたところです」とChakrabartiは言う。

Singanayagamは、long COVIDには幅広い症状が見られるため、根本的な原因がいくつかある可能性が高いと付け加える。「もっと大規模な研究が必要です。全ての症状の根底にあるのが単一のメカニズムではないでしょう」。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 21 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2024.240512

原文

Long-COVID signatures identified in huge analysis of blood proteins
  • Nature (2024-01-18) | DOI: 10.1038/d41586-024-00158-w
  • Miryam Naddaf