News & Views

次世代の吸入用ドライパウダーCOVIDワクチン

現在使われている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは、筋肉注射で投与される。重症化の予防には概して有効だが、急速な進化を続ける新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株の感染予防効果はやや劣る。また、高齢者や免疫不全のある人のような高リスク集団に対する効果も低く、何度もブースター(追加免疫)接種をする必要がある。そもそも、筋肉注射で投与されるワクチンは、SARS-CoV-2の侵入部位である気道の粘膜組織には強力な免疫を誘導できない。さらに、現在使われているCOVID-19ワクチンでは、製造から輸送、最終的な保管、投与に至るまでの過程で非常に低い温度を保つ「コールドチェーン(低温温度管理)」が必要となる。今回、Yeら1は、肺への局所投与により気道粘膜免疫を誘導できるワクチン製剤をNature 2023年12月21/28日号の630ページで報告している。このワクチンはドライパウダー製剤として吸入するもので、コールドチェーンや注射器を用意する必要がない。

図1 次世代COVIDワクチン
現在使われている注射用COVID-19ワクチンは、ウイルスの侵入部位である気道の粘膜組織では免疫を誘導しない。気道粘膜での免疫応答を強化することを目標として、次世代ワクチンの開発が進んでいる。液体製剤のワクチンは、輸送と保管の過程で非常に低い温度を保つ「コールドチェーン(低温温度管理)」が必要となるのに対し、ドライパウダー製剤は室温でも安定である。
a 液体ワクチンは、鼻腔噴霧器を使って液滴またはミストとして鼻腔に投与できる。ワクチンの分布と(抗体が媒介する)免疫は、主に上気道(URT)に限られ、下気道(LRT)までは広がらない。
b 液体ワクチンは、エアロゾル発生ネブライザーを使って口から吸入することもできる。これによりLRTまでワクチンが到達し、さまざまな免疫応答(抗体、T細胞と呼ばれる免疫細胞による防御、自然免疫系の「記憶」に基づく防御〔図には示していない〕)が効果的に誘導されるとともに、URTや血流中の免疫応答も維持される。
c Yeら1は、開発したドライパウダーワクチンの動物モデルでの試験について報告している。このワクチンは吸入器を用いてエアロゾルとして口から投与し、LRTまで送達できるように設計されている。

全文を読むには購読する必要があります。既に購読されている方は下記よりログインしてください。

翻訳:藤山与一

Nature ダイジェスト Vol. 21 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2024.240345

原文

A next-generation inhalable dry powder COVID vaccine
  • Nature (2023-12-13) | DOI: 10.1038/d41586-023-03557-7
  • Zhou Xing & Mangalakumari Jeyanathan
  • 共にマックマスター大学(カナダ・オンタリオ州ハミルトン)に所属。

参考文献

  1. Ye, T. et al. Nature 624, 630–638 (2023).
  2. Marks, P. W., Gruppuso, P. A. & Adashi, E. Y. JAMA 329, 19–20 (2023).
  3. Lavelle, E. C. & Ward, R. W. Nature Rev. Immunol. 22, 236–250 (2022).
  4. Afkhami, S., Kang, A., Jeyanathan, V., Xing, Z. & Jeyanathan, M. Curr. Opin. Virol. 61, 101334 (2023).
  5. Cahn, D., Amosu, M., Maisel, K. & Duncan, G. A. Nature Rev. Bioeng. 1, 83–84 (2023).
  6. van Ginkel, F. W., Jackson, R. J., Yuki, Y. & McGhee, J. R. J. Immunol. 165, 4778–4782 (2000).
  7. Damjanovic, D., Zhang, X., Mu, J., Medina, M. F. & Xing, Z. Genet. Vaccines Ther. 6, 5 (2008).
  8. Jeyanathan, M. et al. JCI Insight 7, e155655 (2022).
  9. Li, J-X. et al. Lancet 23, 1143–1152 (2023).
  10. Jeyanathan, M., Afkhami, S., Kang, A. & Xing, Z. Curr. Opin. Immunol. 84, 102370 (2023).
  11. Yao, Y. et al. Cell 175, 1634–1650 (2018).
  12. Afkhami, S. et al. Cell 185, 895–915 (2022).
  13. Jeyanathan, M. et al. Nature Rev. Immunol. 20, 615–632 (2020).
  14. Antoun, E., Peng, Y. & Dong, T. Nature Immunol. 24, 1594–1596 (2023).