News

酵母の染色体1本を人工合成することに成功

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140604

原文:Nature (2014-03-27) | doi: 10.1038/nature.2014.14941 | First synthetic yeast chromosome revealed

Ewen Callaway

染色体の1つが合成染色体に置き換えられた酵母は、野生型の酵母と同様に成長し、合成染色体が正常に機能していることも確かめられた。

2010年、J. クレイグ・ベンター研究所(米国メリーランド州ロックビル)の遺伝学者Craig Venterは、原核生物のマイコプラズマ・ミコイデス(Mycoplasma mycoides)ゲノムの人工的な合成に成功した。彼はそれを達成するまでに、4000万ドル(約40億円)と15年の歳月を費やした。しかし、今回、ニューヨーク大学(米国)の酵母遺伝学者Jef Boekeらが、パン作りに用いられる出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)が持つ染色体の1本を新しく設計・合成し、その合成染色体を野生型の染色体と置き換えることに成功した。さらに、その染色体が完全に機能する上に、125世代まで安定に子孫に伝わることも確かめられた。人工生命体作製に向けて大きな一歩となったこの成果は、Scienceに報告された1。驚いたことに、この論文の共著者のほとんどは大学生である。

出芽酵母は、当然のことながらVenterが合成した原核生物よりも複雑なゲノムを持つ。今回Boekeらが合成・置換した出芽酵母の第3染色体「synIII」は、野生型の第3染色体から複数のDNA配列やエレメントが削除された27万2871塩基対で、その長さは、全長1200万塩基対からなる出芽酵母全ゲノムの約2.5%に相当する。研究チームはすでに、酵母ゲノム合成プロジェクト「Sc2.0」を発足させており、5年以内の出芽酵母の全ゲノム合成を目指している。

「今回の成果は、単に染色体1本に相当するDNAを合成したというのではなく、真核生物の染色体そのものを作り変えることが可能ということを示した、非常に素晴らしい成果です。生物学の新時代の幕開けです」と、今回の研究には関与していないエール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)の生物工学者Farren Isaacsは言う。

Boekeらが今回の出芽酵母ゲノムの合成に着手したのは、2010年の後半のことだ。このとき彼は、Venterら2よりも劇的な変化をパン酵母ゲノムに加えようと考えていた。

2010年5月、Venterの研究チームが短いDNA鎖を化学的に合成し、それらをつなぎ合わせて、マイコプラズマ・ミコイデスの110万塩基対に及ぶDNAゲノムを作製した2とき、彼らはこの合成ゲノム配列に、有名な名言・名句や研究チームのメンバーの名前など複数のコードを「透かし」として書き込んだ。しかし、合成細菌ゲノムは、「透かし」や他のわずかな変更を除けば、細菌本来のゲノムと同一だった。

対照的に、Boekeらは、ゲノムの特定の領域を削除し、その領域が有する特徴の重要性を検討すれば、酵母の全染色体を合成する莫大な費用や労力を少なくできると考えた。「合成の合理化は間違いなくできると思っていました。問題は、野生型の染色体にどうやって変更を加えるのかということと、どんな変更ならば実際に有意義なのか、ということでした」と、Boekeは説明する。

「ゲノムを作ろう」講座

Boekeの研究チームは合成染色体を設計するに当たり、まず、ゲノム内を移動できるトランスポゾンと呼ばれるエレメント、そして遺伝子間のタンパク質をコードしていないイントロンと呼ばれる領域を削除することに決めた。さらに、ある遺伝子が生存に不可欠かどうか検討できるように、遺伝子を入れ替えたり、削除したりできる「SCRaMbLE」と呼ばれるシステムもゲノムに挿入した。

このプロジェクトでは、当初、酵母ゲノムの合成を、外部のDNA合成会社に委託していた。しかし、最初に注文した出芽酵母の第9染色体の9万塩基対のDNA合成3に、約5万ドル(約500万円)の費用と1年の歳月を費やした。このときBoekeは、「このプロジェクトが完了する頃には、私はとっくに死んでいるだろう」と思ったという。そのため彼は、別の方法を思案し始めた。

Boekeは、研究をかじってみたいと思っている大学生が大勢いることに気付いた。そして彼は2007年、ジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルチモア)で夏の学校「ゲノムを作ろう」講座を開講した。以来ほぼ毎学期に開講されている。

この講座では、各学生が、DNA合成装置を用いて酵母ゲノムの短い断片を合成し、その短いDNA断片をつなぎ合わせて、より長いDNA断片にする。次に、こうした断片を、相同組換えと呼ばれる過程を介して、少しずつ酵母の染色体に組み込む。学生たちの手を借りたこうした一連の作業によって、最終的に合成染色体「synIII」が完成し、野生型の第3染色体がこれと置き換わった出芽酵母が作り出された。その結果、多くの学生がScienceの論文の共著者となったのだ。

「今回の出芽酵母は、25万塩基対の染色体のうち5万塩基対以上が欠失や挿入、変更を受けたにもかかわらず、機能し、野生型の酵母と全く同様に成長したのは驚きです。注目すべき成果でしょう」と、Boekeは説明する。

また彼は、「今後、酵母と認識できる生きた細胞を作り出すこともできるでしょう。出芽酵母のDNA配列の半分は、Sc2.0プロジェクトによってすでに作製済みなのです」と話す。

(翻訳:三谷祐貴子、要約:編集部)

参考文献

  1. Annaluru, N. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1249252 (2014).
  2. Gibson, D. et al. Science 329, 52–56 (2010).
  3. Dymond, J. S. et al. Nature 477, 471–476 (2011).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度