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最も遠い銀河の発見

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140122

原文:Nature (2013-10-24) | doi: 10.1038/502459a | New distance record for galaxies

Dominik A. Riechers

非常に遠方にあるとみられる43個の銀河の分光測定が行われ、その1つが、これまでに確実な方法で距離が測定された中で最も遠い銀河であることが分かった。この銀河では、私たちの銀河系(天の川銀河)の100倍以上の速さで星が生まれていることも分かった。

遠い銀河の星から放出された光は、宇宙空間を有限の速度で旅してきて、地球の私たちには距離に応じて遅れて届く。このため、さらに遠い天体を見つけるたびに、宇宙のさらに過去を探ることができる。地球からより遠くにある天体の探索は、宇宙の歴史をより深く理解するために重要であり、また、ビッグバン後に生まれた最初の世代の銀河たちを見つけるためにも欠かせない。

最初の世代の銀河たちは、宇宙の歴史における重要な出来事を引き起こしたと考えられている。その出来事とは、初期の時代に宇宙を満たしていた中性の銀河間水素ガスの再電離で、宇宙の夜明けと呼ばれている1

図1:宇宙の歴史と最初の銀河たち
ビッグバンにより宇宙の拡大が始まってから約37万年後、宇宙は十分に冷え、陽子と電子は結合して中性水素ガスを作った(再結合)。このとき、宇宙マイクロ波背景放射が放出され 10 、宇宙は水素ライマンα光子にとっては不透明になった。この再結合で始まった宇宙暗黒時代は、最初の星と銀河の誕生により、宇宙時間の始まりから2億7000万年後までに終わった。最初の星や銀河が誕生すると、これらは宇宙を再電離し、ライマンα放射は自由に伝わることができるようになった。再電離は、ビッグバンの10億年後までにほぼ完了した。再電離の時代以降は、銀河からのライマンα放射を捉えて、銀河進化と宇宙の構造の形成を探ることができる。Finkelsteinらは、ライマンα放射を使って、宇宙年齢がわずか7億年の時代の銀河を発見し(図1の挿入図の中に示された赤い銀河。挿入図の1辺は約1万パーセク)、再電離の時代を深く探った 3

Credit: ADAPTED FROM REF. 1/BRANT ROBERTSON/UNIV. ARIZONA; CMB: ESA/PLANCK COLLABORATION; INSET: V. TILVI (TEXAS A&M), S. FINKELSTEIN (UT AUSTIN), THE CANDELS TEAM, HST/NASA

この10年間を振り返ると、初めの頃は、天文学者たちは銀河を観測できる距離を何度も延ばした。しかし、その後、次第に技術的限界に阻まれるようになった2。今回、テキサス大学オースティン校天文学科(米国)のSteven Finkelsteinらは、ビッグバンのわずか7億年後の時代にある、これまでで最も遠い銀河を発見し、Nature 2013年10月24日号524ページに発表した3(図1)。

図2:ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3が捉えた深宇宙画像。拡大部が、z8_GND_5296。

Credit: V. Tilvi (Texas A&M), S. Finkelstein (UT Austin), the CANDELS team, and HST/NASA

遠くの銀河から放出された光の波長は、宇宙が時間の経過とともに膨張しているために、地球にたどり着くまでに赤方偏移する。この赤方偏移を観測すれば、その銀河までの距離を測定することになる。しかし、観測対象の銀河が遠ければ、通常最も明るい水素のライマンα線などのスペクトルの重要な特徴も、地球に届くまでに可視光の外に赤方偏移してしまう。このため、最も遠い銀河を分光で発見することは難しくなる。赤外線を高感度で捉えるハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3を使って深宇宙の撮影が行われ(図2)4、「赤方偏移が非常に高い銀河」の有力な候補が数十個見つかったにもかかわらず、候補天体を分光により確認するペースは近年、著しく遅くなっていた。

この状況を打破してくれそうなのが、新世代の広視野赤外カメラだ。W・M・ケック天文台(ハワイ・マウナケア山頂)の広視野赤外カメラ「MOSFIRE」は通常、一度に数十個の銀河について、可視光よりも赤外側のスペクトルを高感度に得ることができる。ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測計画「CANDELS」で得られたデータの中に、赤方偏移の高い銀河の候補が多数見つかった5。Finkelsteinらは今回、MOSFIREを使ってこのうち43個の銀河を調べた。その結果、z8_GND_5296と名付けられた銀河で、赤方偏移したライマンα線放射を検出することに成功し、z8_GND_5296はこれまでに分光により距離が確認された銀河の中で最も遠いことが分かった。なお、z8_GND_5296よりも確実に遠い所にある天体が、1個だけ発見されている。今回確認された銀河よりも約7000万年前に起こった大質量星の爆発によるガンマ線バーストだ6。しかし、このイベントに伴う銀河は見つかっていない7

またz8_GND_5296は、私たちの銀河系(天の川銀河)の100倍以上の速さで星を活発に形成していることが分かった。これは、同程度の距離にある他の銀河の星形成活動度を大きく超えている。z8_GND_5296の後の時代には、宇宙のあらゆる時代を通じて最も極端な星形成環境が生じた。z8_GND_5296のように活発に星を作っている銀河は、その前段階なのかもしれない(参考文献8を参照)。

Finkelsteinらは、他の42個の銀河では、z8_GND_5296に匹敵する距離にあるライマンα線放射を検出できなかった。この検出率は、彼らが事前に予想した値の6分の1にとどまった。z8_GND_5296以外にライマンα線放射を検出できなかったのは、現在の技術的限界や、他の銀河の大多数がz8_GND_5296ほど遠くないためではなさそうだと、Finkelsteinらは考えている。検出率が低かった原因について、彼らはz8_GND_5296の異常な性質を踏まえて検討し、2つの仮説を立てている。それによれば、銀河から出てくるライマンα線放射が予想外に少ないか、視線の大部分に沿って相当な量の中性ガスがあるために、銀河から出てくるライマンα線放射の予想外に高い割合が散乱されてしまうかの、いずれかのためではないかという。

どちらの可能性も広範囲にわたる意味を持つ。前者は、初期の時代の銀河は速い速度でガスを降着させるために、この大量のガスが、こうした若い銀河でのライマンα線放射の大半を見えなくしているのかもしれないことを示す。後者は、z8_GND_5296の時代には、中性の銀河間水素ガスの再電離は、他の測定から予想されるほどには遠くまで進んでいなかったのかもしれないことを示唆する9

今回のFinkelsteinらの研究によって、最も初期の時代の銀河を探す研究に弾みがつくことは間違いない。一方で、地上の望遠鏡で得られる1本の輝線の分光や、銀河の静止系での紫外と可視光波長での撮像から遠い銀河を見つけることが、最良の施設と最も質の高いデータをもってしてもいかに困難であるかも示している。この研究はさらに、宇宙が現在の年齢のわずか5%に達した時代でさえ、銀河はすでに化学的に塵や重元素(水素とヘリウムよりも重い元素)に富んでいたかもしれないことを示す。塵や重元素はもっと早い世代の星によって作られたに違いない。

炭素、水素、酸素などの重元素は強い輝線を作る。2018年に打ち上げ予定のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が稼働し始めれば、z8_GND_5296のような遠い銀河の輝線でも比較的容易に検出できるようになる。そうした観測が始まれば、現在可能ではあるものの、非常に困難な銀河赤方偏移測定に残っている不確かさも取り除かれるはずだ。そして、星形成が起こっている銀河の物理的性質についても、より多くの情報が得られるだろう。

期待がかかるのはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡だけではない。2013年3月に開所したアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA;チリ)では、重元素と塵からのスペクトル線の遠赤外線観測結果に基づいて、最初の世代の銀河の重元素量に、実質的な制限を初めて加えることができるだろう。また、チリ北部に建設され、2018年からの稼働が期待されているセロ・チャナントール・アタカマ望遠鏡(CCAT)は、含んでいる塵の直接観測によって赤方偏移が非常に高い銀河を選び出し、そうした銀河のサンプルを与えて他の観測を補う。宇宙の最初の銀河に関する研究には、輝かしい未来が待っている。

(翻訳:新庄直樹)

Dominik A. Riechers は、コーネル大学天文学科(米国ニューヨーク州イサカ)に所属。

参考文献

  1. Robertson, B. E., Ellis, R. S., Dunlop, J. S., McLure, R. J. & Stark, D. P. Nature 468, 49-55 (2010).
  2. Iye, M. et al. Nature 443, 186-188 (2006).
  3. Finkelstein, S. L. et al. Nature 502, 524-527 (2013).
  4. Bouwens, R. J. et al. Nature 469, 504-507 (2011).
  5. Grogin, N. A. et al. Astrophys. J. Suppl. Ser. 197, 35 (2011).
  6. Tanvir, N. R. et al. Nature 461, 1254-1257 (2009).
  7. Chary, R., Surace, J., Carey, S., Berger, E. & Fazio, G. GRB Coordinates Network, Circular Service 9582, 1 (2009).
  8. Riechers, D. A. et al. Nature 496, 329-333 (2013).
  9. Bolton, J. S. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 416, L70-L74 (2011).
  10. Planck Collaboration. Preprint at http://arxiv.org/abs/1303.5062 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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